2022.02.24
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演劇いろいろ~オンラインで稽古しよう~(22)

演劇発表会が中止になった後、オミクロン株の感染拡大でなかなか思うように稽古を組むことができない状況の中、子どもたちの希望でオンラインの稽古を始めました。

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭 山川 和宏

オンラインで稽古をしてみて…

はじめに断っておきますが、演劇の魅力は、「同じ時間・同じ空間において、演者をはじめとする創り手と観客が一体となって感情を共有すること」にあると考えています。その点において、オンラインで演劇に取り組むというのは、本意ではありません。

本来であれば、飛沫が飛び交い、身体と身体をぶつけあう芝居をして、そのエネルギーをお客さんに体感してもらうのが理想です。しかし、新型コロナウイルスの流行以降、マスクを着用し、演者間の距離を空け、身体的接触をなるべく避けるという対策をとって芝居に取り組んできました。さらにそのうえ、同じ時間・同じ空間に居合わせることまで制約を受ける状況で演劇をする意味があるのか、自問自答しました。

それでもオンラインで稽古に取り組んだのは、オミクロン株の流行下で演劇の活動をすることに対して管理職が及び腰になっている中で、自分たちが創り上げた劇を上演できる日まで気持ちを切らさず、劇の質を維持しつづけるためにはどうすればよいかを子どもたちと考えて出した結論だったからです。

オンラインの稽古では、Google Meetを使用しました。
はじめに学校で休み時間に試してみましたが、周りの音がうるさくて集中できず、やはり休日にそれぞれの自宅から参加することにしました。

1回目の自宅からのオンライン稽古は、16名が参加しました。はじめにいつものルーティンであるウォーミングアップの簡単なゲームを行いましたが、場の空気があたたまることはなく、違和感だけが残りました。簡単な発声練習に至っては、音が割れて大変なことになりました。
残りの時間はホン読みを中心に行いました。ビデオは常時ON、マイクは自分が話す時だけONにしてなるべく余計な音が入らないようにしました。どうしてもセリフのやりとりにわずかなタイムラグが生じてしまい、テンポや間のとり方が難しかったものの、割合とスムーズに稽古は進みました。

2回目の稽古は、はじめの30分間を子どもたちだけでのウォーミングアップにしたところ、オンラインでもできるシアターゲームを考えて、楽しんで取り組んでいました。そして、子どもたちが選んだシーンを中心にホン読みをしました。セリフを大きく変更・追加するシーンが出てくるなど、さらに芝居をよくしようという意欲が見られてとても有意義な稽古になりました。
参加した子どもたちの感想は以下の通りです。

・動きがないと進行に少し困りますが、みんなの声などはしっかり聞こえたんじゃないかなと思います!
・途中止まってセリフが繋がらないところが引っかかりました。 でも声はギリ聞こえたので大丈夫です。楽しかったです!
・楽しかったです!!でもちょっと声がひびいてたり、おくれたりしていました。
・これからもたくさんやりたいです。モチベーションが上がったり、感覚を取り戻せたりすると思うからです。
・インターネットの関係で途中止まったりしてしまったけどオンラインですること自体は良かったと思います。 1つの部屋に何人までならいいとかはわからないけど動きをつけて稽古したりしっかり声を出して稽古がしたいときは学校の教室などを利用して稽古するのもいいなと今回のリモートをしてて思いました。
・今回、とても楽しかったです!時間帯も良いと思います。ワタシ的には、学校で皆で合わせるのが一番いいですが、それは今できないのでまたMeetでセリフを合わせたりしたいです!

オンラインでの稽古をしてみて、劇への気持ちを切らさないという目的は十分に達せられただけでなく、限られた条件の中でも芝居をよくしていこうという意欲が見られたことが大きな収穫だと感じました。ダンスシーンは、それぞれがカメラの前で一人で踊るというシュールな光景になりましたが、思う存分動けない分、演技の中での動きの重要性を子どもたちは感じていたようでした。その一方で、微妙な間や動作など、感情をやりとりするツールが非常に限られてしまう中での演技のやりにくさはみんなが感じていたようです。

それでも、「モノを創る」ということは「限られた条件下で工夫を重ねる」ことに醍醐味があると云えます。具体的な形にはなっていませんが、オンラインで稽古したからこそ、こんな芝居になったといえるものにつながっていくといいなと思っています。

余談になりますが、自宅からの参加にもかかわらず、子どもたちは全員がマスクを着用していました。普段はお家の中でマスクをしていないにもかかわらず、カメラの前ではマスクを着用しないと不安に感じたそうです。人に見られることがあたりまえの演劇をしている子どもたちが、マスクで素顔を隠さないと不安になってしまうという状況に、コロナ禍の深刻な影響を感じざるを得ませんでした。

オンラインの先に…

兵庫県下のまん延防止等重点措置が3月6日まで延長された関係で、劇の上演は早くても3月中旬になりそうです。上演が伸びれば伸びる程、日程の調整をはじめとして難しい問題が出てきます。それでも何とか以下のような子どもたちの願いを実現させたいという一心で、準備を進めていこうと思っています。

・私はどのような形になったとしても、この劇は完成させたいと思っています。卒業式が近づいてきているけど、私はこのメンバーで劇を完成させることがベストだとは思ってるし、どのような形になっても劇が完成できることを願っています。
・私もみんなと同じでこの劇は完成させたいです。 今までずっと練習を積み重ねてきたこのメンバーが一人もかけることがなく劇を上演できますように。
・みんなで頑張ったものを【形】に残したいです!
・私もどんな形になってもみんなで頑張ってきた劇を完成させたいです。みんな元気な状態で劇を披露したいです!!
・私もみんなでたくさんのことを乗り越えて頑張ってきたこの劇を完成させたいです。ピッコロシアターでの演劇の中止を伝えられたときは本当に悲しかったし、悔しかったです。でもみんなで頑張ってきたたくさんの思いが詰まってるから必ずできると私は信じています。 

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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