演劇いろいろ~3年ぶりの演劇発表会~(特別篇)
昨年・一昨年と直前になって開催が中止された演劇発表会が、2023年1月22日、兵庫県立尼崎青少年創造劇場(ピッコロシアター)大ホールにて、3年ぶりに開催された。その道のりを報告する。
尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏
開催に至るまで
今年度の演劇発表会を開催するにあたって、まず頭を悩ませることになったのは参加団体の募集だった。コロナ以降、教育現場で表現活動を行うこと自体が難しく、昨年・一昨年は市内の各校に演劇発表会への参加を周知することすらできなかった。今回もこれまでずっと参加していた中学校が諸事情により参加を見合わせるなど、なかなか参加団体が集まらなかった。演劇発表会を何とか盛り上げようと、私が指導している演劇クラブから2作品を上演することにしたくらいだ。
しかし、地道に知り合いの先生を通して市内の小中学校に演劇発表会の参加を呼びかけていくうちに、徐々に参加団体が集まるようになり、結果的にはコロナ前を超える7団体が参加することになった。さらに、募集締め切りを過ぎて参加を問い合わせてくれた学校には、苦渋の思いでお断りしないといけなくなってしまった。
また、演劇発表会の開催は、「教員の多忙化に対する業務改善の流れに逆行する」という面からも、できるだけ参加する学校の先生方の負担を減らす必要があった。そこで、パンフレットを簡素化しポスターとデザインを統一するなど、見直せる部分は見直していった。
準備に奔走する中、今回は出演しないという学校からも運営に携わってくださる先生が名乗りをあげてくださったことに大いに力づけられた。
演劇ユニットふろんてぃあの活動
今回、私たち演劇ユニットふろんてぃあが上演したのは、上演時間が35分と95分の2作品。これまでは60分程度の作品を1本上演してきたので、上演時間だけとっても単純に2倍以上になる。また、2作品合わせて、シーン数30・配役数60以上・ダンスシーン5・歌唱曲数11、さらには音響操作・機械操作・場面転換などの裏方の動き、これらを12名の子どもたちで全部やってしまおうというのである。明らかに無謀な挑戦に思えた。
また、演劇発表会は1月22日の開催。新型コロナだけでなく、インフルエンザの感染リスクもとっても高まる時期だ。そんな時に欠席者が一人でも出れば上演中止になるような演目を2つも並べるなんて、どうかしているという自覚もあった。子どもたちと今回の演目を決めるにあたって、そのことについては十分に話し合った。子どもたちの決意は固く、今回はこの演目でやることになった。
そして、案の定、これまでとは比べものにならないくらい大変な道のりを歩むことになってしまった。まず、子どもたちが覚えないといけないセリフの量が膨大になった。さらに、使用する衣装や道具集めに奔走した。子どもたちとリサイクルショップや100円均一のお店を回ったり、何人もの知り合いに聞いてみたり、手作りしたり、ゴミ捨て場をあさったりした。その結果、舞台袖は常に衣装と小道具などの物であふれ返ってしまい、収拾がつかなくなった。さらに時間的な制約。2作品上演するからといって、練習時間を2倍にするわけにはいかない。これまでと同じ練習時間の中で準備するのである。とはいえ、練習を進める中でどうしても時間が足りなくなり、子どもたちが自主的に練習開始時刻よりも早く集まったり、遅くまで残ったり、道具づくりなどの作業を家に持ち帰ったりしていた。子どもたちのやる気には、本当に頭が下がる。
そんな状況を見るに見かねたのか、前任校の卒業生2名が音響機器の操作や照明機器の操作を補助するために駆けつけてくれるようになった。また、地元の劇団の方々が子どもたちのためにワークショップを開いてくださり、演技指導を細かく行なってくださったことも子どもたちの大きな力になった。
私自身も年末年始もなく発表会のための準備をしないといけなくなって(元日から徹夜になった)、多忙を極めすぎて目が回るような毎日を過ごし、発表会当日を迎えることになった。
発表会当日を迎えて
午前8時に学校集合。全員揃うかどうか。祈るような気持ちで朝靄の立ち込める中、集合場所へ向かった。そうしたら、一人も欠けることなく、朝から元気いっぱいの姿が!練習でもなかなか全員揃うことがなかったのに、まさに奇跡だ。全員揃って上演できればそれだけでいいと思っていたので、「演劇の神様、ありがとうございます!」と心の中でつぶやいた。劇場が開くまで時間があったので、近くの公園で声出しを行う。
9時30分開場。続々とお客さんが詰めかけてくれる。子どもたちが地道に入場整理券を配った成果だ。10時開演。1本目の作品を上演する。1人1人が楽しんで演技している雰囲気が会場にも伝わったのか、お客さんの反応が素晴らしい。劇の中で、演者とお客さんがやりとりするシーンがあり、ますますお客さんが劇に入りこんでくれた。終盤のダンスシーンでは、客席から大きな手拍子が起こり、手拍子に合わせて踊る子どもたちの姿を見ていたら、涙があふれてきた。子どもたちにとっても、大勢のお客さんの前で劇を発表できたからこそ得られた体験になったことだろう。カーテンコールはあたたかい空気にあふれて、子どもたちは満面の笑みを浮かべていた。
そして、次の上演時刻までのおよそ3時間。この間、子どもたちは一つの大きなミッションをやり遂げて、みんなぐったりと疲れていた。これで本当に2本目を上演できるのかと不安になった。
しかし、本番の上演時刻が迫るにつれ、子どもたちに気合いが戻り、緊張感が満ちてきた。上演直前になって、マスクを外して演じている他校の出し物を見た子どもたちから「マスクを外して演じたい」という声が上がる。本来ならばリハーサルでやっていないことをやるべきではない。多少の躊躇はあったが、子どもたちと話し合い、シーン毎にリスクを考慮してマスクを外して演じるか、つけて演じるかを選ぶことになった。会場は午前中にもましてたくさんのお客さんで埋まっている。結果として、立ち見客まで出る盛況だった。95分という上演時間があっという間に過ぎていく。午前中の劇とは違って、お客さんの中にピンと張り詰めた緊張感をもたらすような芝居。いわば対極のような2つの劇を同じ日に演じ分けられる子どもたちの凄さが、この日2作品を見てくださった方には十分すぎるほど伝わったことと思う。カーテンコールでは、割れんばかりの拍手をもらって、感極まって泣き出してしまう子もいて、もらい泣きしてしまった。
そして、未来へ...
今回の演劇発表会は、コロナ前をはるかに上回る来場者を迎え、この日だけでおよそ1000名もの人たちに演劇発表会を楽しんでもらうことができた。大変な盛り上がりようだった。コロナ禍が続く中にあって、これは大きな成果だと強く感じている。予算削減の流れの中、来年度以降の演劇発表会を見直そうという動きがある中で、今回の成果を踏まえ、演劇発表会が子どもたちの成長に大きく寄与しているという開催意義をアピールしていきたいと思っている。
【参加児童のふり返りより】
〇3年ぶりにマスクを外して芝居をして不思議な感じがしました。カーテンコールで全体の明かりがついたときお客さんがいっぱいで一番後ろで立ってみている人もいてすごく嬉しかったです。
〇あらためて、演劇をやって感じ方が変わりました。 演劇をやることによって今の私があるとおもいます。
〇今まで特にしたいことがなく小さい頃からしていた習い事を何となくで続けていたけど演劇があったから自分がこれから何をしたいのかを見つけることができたので何もかも演劇のおかげで人生が変わったと思います。ありがとうございました。
〇児童会に入れたのも演劇のおかげだし友達もたくさんできました。自分自身が色々なことに全力に取り組むことができ、みんなのことを優先してできるということも学べました。そして何より劇を作るという楽しさに気づけました。
〇私は、演劇活動のなかで、一番嬉しかった言葉があります。それは、「ホンマに成長したな。」と言われたことです。実感はあまりなかったけど、成長したなと言われるとやっぱり嬉しかったです。この演劇生活で、努力をすると必ず良いことがおきるということを学びました。
〇やっぱり自分が辛いときに、仲間がいてくれると思ったところです。
〇自分に自信を持てるようになりました。
〇練習は、大変だったけど最後まで諦めずにしていると最後は、達成感がありました。
〇友達と協力して一つのものを創り上げる楽しさを知れたこと。みんなと仲良くなれたこと。達成感を得られたこと 。かけがえのない経験になりました。
【来場者アンケートより】
〇初めて観劇しましたが、子どもたちのレベルも高く、楽しんでやっているところや、この発表にあたりいっぱい練習して仲間の絆を強くしたんだろうなと思い、感動しました。子どもにとってこの発表会がとても良い機会になったと思います。ありがとうございました。
〇このような素晴らしい会が73回も続けてきたことは尼崎の誇りです。絶やすことなく、これからも続けてください。
〇子どもたちの熱い気持ちと100%のエネルギーを感じ、すごく感動しました。ありがとうございました。
〇子どもたちは、満員のピッコロシアターで上演できる幸せ、一生忘れることのない感動を得たと確信しています。
〇暑い日も寒い日も頑張って練習を重ねている立花南の子どもたち。時代の流れをうまく表現し、万博の晴れやかな三波春夫の歌声、なつかしく思い出しました。子どもたちは大きな声で、はっきりとセリフが言えていて、感動の涙が止まりませんでした。音響効果もすてきで、鳥の声や流れる曲もよかったです。また次回の公演を楽しみにしています。児童のみなさん、お疲れ様でした。ホントすてきでしたよ。
〇芝居に対してこだわりの強く、いつも辛口で褒めることは滅多にない人が、「不覚にも感動してしまった」と漏らしておりました。そして、「あんな真っ直ぐな芝居は、あの年齢の子どもにしかできない」と。
〇スタンディングオベーションをする勢いで拍手をし、客席の明かりがついても立ち上がることができず、周りに支えられながら会場を出ました。
〇客席全体のピンと張り詰めた空気感から、感動的な素晴らしい舞台だったことは間違いないと感じています。
〇子どもたちの計り知れない力と指導者の人柄と指導力が成せるわざだと感じました。
〇これまでに何回か鑑賞させて頂きましたが、見るたびに進化しています。時系列の社会変化、その都度変わる価値観。しかし、人として変わってはいけない生き方、それぞれの時代の人の思いが詰められた紐が舞い上がるクライマックス、感動でした。演出の素晴らしさとても深かったです。人として変わってはいけない芯の部分の大切さを再度思い知らされました。
【指導者アンケートより】
〇子どもたちの頑張りを特別な場で、皆で共有できるところに価値があると思う。出演する子どもは誰の力も借りずに、自分の力で演じ切る。経験した子は明らかに成長して帰ってくる。子どもによっては、その後の人生にも影響するような経験だと思う。このような優れた文化的な取り組みを長く続けてきたことは、尼崎の教育の大きな強みだと思うので、盛り上げていきたいし、大事にしてほしいと願う。
〇子どもたちが、時間をかけて自分たちで作品を作り上げる機会をもつこと、その成果の発表の場であること、自分に自信をもったり、仲間の大切さを学んだり、学校の設備で経験できる以上の体験ができる場であるので、大きな意義があると思います。
〇とてもレベルの高いもので正直、驚きました。子どもたちにとって、この発表会での経験が必ず生きてくると感じました。
〇学校生活では見ることができない児童の姿を見られることは大きな価値かと思います。
〇子どもたちが大勢のお客さんの前で表現を披露し、大きく成長する場である演劇発表会は、今後も継続していかなければならない意義のある催しだと強く感じています。
〇このような素晴らしい催しを行っていることのさらなる周知ができれば、参加校ももっと増えていくと思います。そのための努力をしていければと思います。
〇予算その他で、発表会の存続に対し、厳しい意見もありますが、演劇を始めとする舞台発表は、尼崎の子どもたちの特性や良さをよく発揮できる場であり、むしろ地域の文化として残していくべきものだと思います。
山川 和宏(やまかわ かずひろ)
尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。
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札幌市立高等学校 教諭
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