2022.08.29
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演劇いろいろ~ピッコロフェスティバル~(29)

2022年8月17日(水)・18日(木)に兵庫県立尼崎青少年創造劇場(ピッコロシアター)で開催されたピッコロフェスティバルについて、報告します。

尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏

8月17日(水)リハーサル

宇宙人の登場シーン

今日は中学校4校が本番を終えた後の夕方に、本校のリハーサルを行うというスケジュール。

9時10分に学校集合。2週間ぶりに顔を合わせる。コロナ禍のために稽古では全員が揃うことがなかったが、ダンスシーンに特別参加する卒業生も含め、今日は全員が参加できたことにホッとする。

あいにくの悪天候の中、バス停からピッコロシアターまでを徒歩で移動。子どもたちの荷物は、衣装や小道具、お弁当に傘で大変なことになっている。それでも、足どりは軽い。みんな、1年ぶりの大舞台への期待に胸を膨らませている。

10時開演に何とか間に合い、中学校の劇の発表をみんなで鑑賞する。さすが中学生という演技でみんな堂々と舞台の上で躍動していた。外は、バケツというよりも大きなたらいをひっくり返したような激しい雷雨。去年も大雨で大変だったことを思い出す。

お弁当を食べた後、雨が上がっていたので、お昼の休憩時間を利用して近くの公園に行って発声練習をする。さすがに2週間ぶりなので、全然声が出ていない。いつものメニュー(「五十音(あめんぼのうた)」「スタッカート」「舌の準備運動」「外郎売のせりふ」「わたしあなた」「気合まわし」)を2回繰り返したところで、小雨が降ってきたので劇場に引きあげる。

午後からは劇の発表を鑑賞した後、楽屋で衣装に着替え、メイクを施し、リハーサルの準備を行う。そして、小ホールを借りて、劇をはじめから演じてみる。2週間ぶりで少しぎこちない場面もあったが、しっかりと動けていた。クライマックスに差し掛かろうかというところで、大ホールでのリハーサルの時間になる。

大ホールでのリハーサルの割り当ては、1時間。上演時間は56分で、準備や照明チェックなども行うことを考えると到底全部のシーンはできない。照明チェックを行っている間に、子どもたちで位置決めを行い、はじめから順番に演じてもらうことにした。

照明操作は、今回は卒業生が担当。初めての照明ブースで緊張していたものの、ピッコロシアターの照明スタッフの方のアドバイスを聞きながら、一生懸命に頑張っていた。

照明チェックが終わったところで、先ほどの小ホールでできなかったクライマックスシーンをリハーサル。音響と照明と子どもたちの演技が合わさることで、とても素敵な舞台空間になるのだが、実際にやってみるとそれぞれのタイミングを合わせるのがとても難しい。微調整が必要なところをやり直してみる。

リハーサルが終わって学校に戻ったら、18時半。お家の方が迎えに来てくださっていた。ありがたい。

いよいよ明日が本番。まずは明日もみんなが元気に来られるように祈るばかりである。

8月18日(木)本番

ラストシーン

今日も朝から雨模様。しかし、昨日ほどの悪天候ではない。

8時に学校集合。昨日に続いて全員が来られたことに安堵する。衣装や小道具は前日ピッコロシアターに置いてきたので、今日はみんな身軽に移動できた。

8時40分にピッコロシアター到着。8時45分から楽屋で準備。9時からストレッチの後、小ホールでいつものメニューの声出し。朝一番で上がりづらくなっているテンションを上げるために、全員で一つの大きな円になり、円の中心に立つ子が繰り出す技やビームに対して全員でリアクションするアクティビティを行う。みんなの大きな笑い声があふれていい感じ。その間、卒業生が宇宙人役のメイクをしてくれた。カラースプレーで髪の色を変え、顔にシールを貼り付けるなど、本格的である。

10時開演。

「この子は稽古の時よりも丁寧にセリフをいおうとしているな」「役に入りこんでるな」「大きな声を出そうと頑張っているな」「舞台を広く使おうと動き回っているな」などなど、一人一人がどういう気持ちで演じているのかがひしひしと伝わってきた。

ホントはとても歌が上手い子が、わざと大声を張り上げて下手くそに歌うシーンでは、見ているこちらまで耳をふさぎたくなるようなノイズになっていた。

そしてクライマックス。「感情」をキーワードに、登場人物それぞれの思いが交錯する。感情がぶつかり合い、客席からは涙をすすり上げる音が聞こえてきた。初めて卒業生が操作する照明のタイミングもばっちりで、とてもいいシーンになった。

終演後、全員が笑顔になっていた。一つのことをやり遂げた後におとずれる至福の笑顔である。お客さんにも喜んでもらえて、そのことにも子どもたちは満足そうだった。

もちろん、失敗もあった。稽古ではうまくいっていたのに、うまくいかなかったシーンがあった。子どもたちのアドリブに任せた一発ギャグのシーンでは、ぶっつけ本番で新しいギャグを披露しようとして失敗してしまったし、お客さんが入った状況で流す音楽の音量の調節もうまくいかなった。そんな中でも、互いにカバーし合って最後まで劇を演じ切った姿がとても頼もしかった。だけど、今日ばかりは失敗なんて気にしなくていいのではないかと思う。それが本番をやり遂げた子どもたちの特権なのだ。

観劇してくださっていた他校の生徒さんからアイドルのような扱いを受けて、子どもたちは照れに照れていた。

出演後は、他校の劇を鑑賞。とてもレベルの高い演技に子どもたちは魅了されていた。特に雲雀丘学園中・高等学校の本格的な演技と演出に、子どもたちは大いに刺激を受けたようだ。これからの子どもたちの演劇への興味と可能性が、新たに開かれるきっかけになるかもしれない。

15時半に学校に戻る。いつも稽古していた視聴覚室で、いただいた差し入れのお菓子を配って、ささやかな打ち上げを行い、解散する。

コロナ禍で大変な道のりだった大きなイベントが、ようやく一つ終わった。

子どもたちのふり返り

〇はじまる前はすごく緊張していたけど、いざはじまると少し緊張がなくなり劇に集中できました。
〇舞台に立つまでは緊張しなかったけど、舞台に立った瞬間に緊張しました。だけど、だんだんと緊張が消えて、楽になりました。
〇始まる前は、緊張と楽しみが五分五分でした。お客さんに見られていると緊張して、いつもの涙が出ませんでした。ギャグのシーンが途中から訳がわからなくなってしまったけど、最後までやりきりました。
〇最初はすごく緊張していて、声が出るか心配だったけど、一度お客さんの前で演技をしたら、楽しい方が勝って緊張が少しなくなりました。失敗したところもあるけど、最後までやり切れたと思います。
〇普段から緊張しがちな私だけど、意外とすらすらと進みました。叫び声がうまくいかなかったのが悔しいです。
〇みんなの緊張がすごく伝わってきて、自分が一番緊張していたと思うけど、全力で楽しめました。練習がみんな揃ってできない状況で大変だったけど、本番をみんなでやり切れて、最高に楽しかったです!
〇きっかけを間違えて、失敗してしまいました。失敗しても拍手をもらえたのでうれしかったです。
〇家族に「ダンスが上手だったよ」といってもらえて、うれしかったです。自分的にはもっともっと上手にできたかなと思ったけど、やり切れたのでよかったです。
〇自分がやってて聞こえる音とお客さんが聞こえる音の大きさがちがうので、音量の調整が難しかったです。音楽が大きくてセリフが聞こえづらい場面があったみたいで申し訳ないです。だけど、楽しくできたのでよかったです。
〇効果音がズレてしまいました。うまくいったところもありました。
〇マスクのせいもあって、セリフをかんでしまいました。
〇他校の芝居を見て、暗転しても役になり切った動きをしていたので、私も参考にしたいと思いました。それと、間違えた時にセリフをいい直していたのが気になったので、自分は気をつけたいと思いました。
〇これまでは音響をしていたけど、今回は役にチャレンジしてみて、思っていたより役者って楽しいし、大変だけどやりがいがあるって思いました。出番は多くなかったけど、私にはちょうどよくて、それぞれの出番とセリフを大切にできたかなと思います。
〇コロナで学級閉鎖になって、4人で稽古したこともあったし、夏休みも全員がそろわなくて大変でした。それでも最後までやり切れてよかったです。これからも勉強と両立できるように頑張ります。
〇次は「スパイマイフレンド」がやりたいです。
〇次は主役がやりたいです。
〇冬の劇も絶対やりたいです。

子どもたちの感想から読み取れるのは、幕が上がる前の緊張が、舞台に立って演技をすることでやわらぎ、楽しさの方が勝っていった姿だ。そして、大変な道のりを乗り越えて一つのことをみんなでやり遂げた達成感。さらに、次の芝居への期待感。

劇の発表を通して、みんなで稽古を重ねて準備をし、大変な障害を乗り越え、本番の緊張を克服し、思いっ切り舞台上で楽しみ、一つのことをやり遂げる。演劇によって子どもたちが得たものの大きさを実感することができた。

つづいてお客さんの感想より

〇最初のダンスシーンがうまくてとても良かった。ストーリーが面白くて良かった。
〇原作のファンで小学生がどんな劇を見せてくれるのかとても楽しみでした。予想を遥かに上回るできばえで感動しました。来年のステージも楽しみにしています。演劇好きのおばあちゃんより。
〇自然の大切さを表現した素晴らしい劇でした。
〇感動しました。感情をちゃんと表現できていたので面白かったです。
〇宇宙人の感情の変化が次第についていくのがすごかった。ダンスもうまかったです。素敵でした。
〇今回も話の展開が見ていて面白くて、でも切なくて泣いてしまいました。
〇毎度面白いですLove。
〇ミュージカルっぽくてかっこよかったです。音が大きくて大切なところが聞こえなかったりしました。大切なシーンで上手側によっていたり、人と人がかぶりすぎていたりしていたので舞台を広く使ったらいいと思いました。でも、小学生とは思えないくらいすごい舞台でした。感動です!
〇めっちゃおもろかったです!!みんなかわいかったです!とにかくすごかったです!!内容すごく良くて、照明も音響も最高です!!スモークもすごく良かったです!個人的には、音響がもう少し小さい方がセリフが聞こえやすいかなと思いました…!
〇ヒロインがめっちゃ主人公を好きっていうのが伝わってきて、おおーっと思いました。どの子にも見せ場があって、めっちゃ面白かったです。
〇奇抜な設定で面白かったです。毎回演出(特に照明や音響)がこっていて、見るたびに引き込まれました。いじめっ子役がいい味を出していてよかったです。みなさん元気があってよかったです。
〇ダンスの動きがキレッキレでした。とにかくハイテンションで元気な芝居が良かったです。UFOの照明とシリアスなシーンの選曲がとても良かったです。
〇とても感動しました。照明がとてもキレイでした。演技も上手ですごいと思いました。
〇演技力に感動しました。日常の大切なものに気づかされました。
〇宇宙人に感情が芽生えた時、感動して私も目から水が出ました。これからのご活躍を期待しています。
〇宇宙人が可愛くて最高でした。リアルでびっくりしました。ヒロインがかわいそうで泣けました。照明がすごくきれかったです。
〇感動しました!!

コロナ禍で大変な状況の中、このような素晴らしいイベントを開催してくださったピッコロシアターの方々はもちろん、日々の演劇活動を頑張ってピッコロフェスティバルに参加した全ての学校の子どもたち、それを理解して支えてくださっている保護者や学校関係者のみなさんに心から感謝したいと思う。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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