2022.04.25
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演劇いろいろ~ドキュメント 卒業公演危機一髪~(23)

ピッコロシアター(兵庫県立尼崎青少年創造劇場)での演劇発表会の中止から3か月。オンラインの稽古などで粘り強く準備を続けてきた子どもたちがようやく迎えることのできた卒業公演。しかし、それは次々とおそいかかるピンチの連続で、綱渡りの卒業公演になりました。

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭 山川 和宏

粘り強く待ち続けて…

1月に行うはずだったピッコロシアターでの演劇発表会が中止となった後、校内での新型コロナウイルスの感染状況がなかなか落ち着かず、全く先が見通せない状況でしたが、子どもたちは諦めずにいつか発表しようと準備を続けてきました。そして……。

3月16日(水)
兵庫県下に出されていたまん延防止等重点措置が21日に解除される見通しになったことで、卒業公演に向けて動き出す。事前にGoogleフォームでアンケートをとっていたが、全メンバーがそろうことができる日が4月10日(日)しかないため、4月10日に行うことを学校側に打診すると、「年度をまたいでいるので、何とも云えない」とのこと。
一方、地元のケーブルテレビでの放送用のビデオ撮影は、年度内に撮影しないと放送されないというので仕方なく、修了式当日の3月25日(金)に行うことにする。中学校での部活を優先したいので参加できないという子が一人いたが、代役を、以前に同じ役を演じたことのある卒業生(高校1年生)にお願いした。また、4月10日(日)の卒業公演については、学校側の確約を得られないまま準備を進行させることにする。

3月18日(金)
第48回卒業証書授与式。演劇メンバーのおよそ半分が巣立っていった。

3月19日(土)
演劇活動再開のための準備という名目で、2か月以上ぶりに演劇メンバーが集まる。昨日卒業式で涙とともに送り出した子たちと、これまでと変わりなく演劇活動をしていることにとてもおかしな感じがする。また、主要キャストの義介役の代役をお願いした卒業生も駆けつけてくれて、その出番を中心に洗い出して稽古する。久しぶりに演じることで、自然と子どもたちの顔が輝いていくのがマスク越しにもわかる。

3月24日(木)
イントレを組み立てて、ビデオ撮影のためのセットを組む。リハーサルを行うも、全員そろわない中でのリハーサルになる。照明スタッフが足りないというので、私が担任していたクラスの子が2名、明日の撮影のために助っ人で参加してくれることになる。

3月25日(金)
令和3年度修了式。午前中に、演劇クラブと同じくピッコロシアターでの発表がなくなってしまったダンスクラブのビデオ撮影を行う。そして、午後から演劇のビデオ撮影の本番。代役をつとめてくれた卒業生が、代役とは思えない自然な演技で芝居を引き締める。それにつられて、小学生の演技も熱を帯びる。ラストシーンに降らせた盛大な雪がとても美しかった。無事に撮影終了。次に集まるまでに2週間以上間隔が空くため、セットをバラし、片付けを済ませると17時を回ってしまった。それでも外は明るい。真冬に佳境を迎えていたはずの演劇活動が、ようやく春になって佳境を迎えたことを実感する。

3月28日(月)
撮影したビデオ素材を地元のケーブルテレビ局に向けて発送する。これで、まず一つ肩の荷がおりる。年度末・年度初めは、人事異動や新クラス編成・担任替えなどで、子どもたちが学校内に入ることがはばかられるため、本番前日の4月9日(土)まで演劇活動は休止にする。

4月4日(月)
新しく赴任してきた校長・教頭に、4月10日の演劇発表のことを相談し、快諾してもらう。

いざ、卒業公演へ!

管理職の了解をとりつけ、これで思う存分卒業公演に向けて準備できると思いきや、そう簡単にはいきませんでした。長年の演劇活動の中でも、最大級のピンチが連続しておそいかかってきたのです。

4月5日(火)
「今週末に予定している卒業公演に家の事情で出席できなくなりました」という連絡が入る。姉妹で参加してくれていたので、2つの役(ニジコ役・ポチョムキン役)が空白に。ずっと頑張ってきた子たちが出られないということに心が痛む。

4月7日(木)
始業式。放課後、欠席することになった子の配役について子どもたちと対応を協議。どちらも主要な役なので削ることはできず、役を変更して埋めることになる。「今からセリフを覚えて、動きも練習します」とニジコ役に名乗り出てくれた子がとても頼もしい。また、夜になって、演劇メンバーのClassroom上で、もう一つのポチョムキン役について、一人二役で対応してくれる子が名乗り出てくれる。まずはこれで一安心。

4月8日(金)
入学式のため、子どもたちは登校せず。19:00頃Classroomに、別の主要キャスト(義介役)の子から「明日のリハーサルを欠席する」という投稿がある。「中学校の部活を優先して、まる3か月間、一度も稽古に参加できてないことが不安だし、本番も出られるか分からない状態」だという。念のため、私が初任の時に演劇を教えていたOB(28歳)に義介役の代役の可能性を打診しておく。

4月9日(土)
リハーサルの日。気温が20度を超える陽気。桜の花も散っていく。これでクリスマスの芝居の衣装は暑すぎる。熱中症にも気をつけねば。
主人公のサムライ役(ハルカワ役)の子が、本番の日にどうしても出られないということが分かる。これまでずっと頑張ってきたのに出られないなんて、どれだけ悔しい思いをしていることだろう。
本番前日に主役が不在。しかも4人目の欠席者。大ピンチである。急きょ何人かの卒業生に代役を打診するものの、そう簡単には代役なんて見つからない。そこで、昨日義介役の代役の可能性を打診していたOBに、急きょ、ハルカワ役の代役を依頼する。「セリフを覚えるので、2時間ほしい」とのこと。昨日の入学式の会場であった体育館を、演劇発表の場にセットし直すのに午前中いっぱいかかるので、その間にセリフを覚えてもらう。午後になってハルカワ役の出番を中心に稽古し、14:30からリハーサルを行う。義介役については不在のまま。本番前日になっても、不在の役があるなんて、今まで経験したことのない危機的状況だ。
夜になって、前回のビデオ撮影で義介役を代役で演じてくれた別の卒業生に万が一の場合の代役をお願いする。試験直前で忙しいので今回は難しいと事前に伝えられていたので連絡すること自体が心苦しかったが、「万が一の場合は駆けつける」という返事をもらう。
さて。これで大ピンチは乗り切ったかと思ったのだが、それだけでは終わらなかった。

4月10日(日)
本番当日。9:30集合だったが、子どもたちは9:00には体育館に集まって準備万全。昨日不在だった義介役についても、本来演じるはずの子が来てくれたので、ようやくキャストがそろった……かと思いきや、主人公のハルカワの代役をお願いしていたOBが来ない。徹夜の仕事が入っていると云っていたので、寝坊しているのかもしれない。そのまま午前中が過ぎてしまう。14時開演予定だが、12:30になっても連絡がつかない。このまま来なかったら上演中止も覚悟しないといけない。しかし、ここまで頑張ってきた子どもたちの思いを台なしにはできない。いろんな思いが頭をよぎったが、やはり子どもたちには「演劇をやってよかった」と最後に思ってもらえるようにするのが大人としての自分が負うべき責任である。何としてでも上演するために、「3か月稽古してないので不安しかない」と云って本番に参加すること自体を躊躇していた義介役の子と話をして、いざという時にはハルカワ役を演じてもらう準備を始めることにする。そして、万が一の場合に駆けつけてくれることになっていた卒業生にも義介役として来てもらうように連絡をとった。
しかし、さすがに本番直前に主人公に配役変更なんて無茶である。セリフも入っていない。プロンプターをつけて乗り切ることも覚悟した本番30分前。ようやくハルカワの代役のOBが現れる。
まさに救世主。
義介役は元通りに戻して、義介役の代役で駆けつけてくれた卒業生には事の成り行きをきちんと説明する。ずいぶん迷惑をかけてしまった。
さらに開場直前、照明を手伝うために撮影の時に手伝ってくれた子が2名、駆けつけてきてくれた。
13:45 開場。出演者のご家族やご親戚・友人の方々をはじめ、この春卒業していった子たち、去年の卒業生、さらにそれ以前の卒業生、地域の方、演劇仲間、新しい校長先生、新しい教頭先生、同僚の先生、校務員さん、他校の先生、この春異動した先生……想像していたよりもはるかにたくさんのお客さんが集まってくださったことに感謝の気持ちでいっぱいになる。コロナ禍のため卒業公演についてはほとんど広報・宣伝してこなかったにもかかわらず、こんなにもたくさんの人が、私たちの演劇を楽しみにしてくださっていたなんて…!
14:00~ついに本番を上演。本番直前のバタバタで準備していたビデオカメラの撮影を失念して、最初のシーン中に慌てて撮影ボタンを押しに客席に向かう。
本番直前は本当に上演できるかどうかギリギリの状態で、子どもたちみんなが不安で仕方なかったが、いざ幕が上がるとみんな堂々とした演技の連続。いつの間にこんなにもたくましく成長していたのかと思うと、見ていて自然と涙がこぼれ落ちてしまった。ハルカワ役の代役のOBの演技も素晴らしかったし、子どもたちも負けずに素晴らしかった。役になりきって、その一瞬その一瞬をしっかりと生きていた。
この瞬間を永遠にする演劇のチカラ!
終演と同時に、コロナ禍にもかかわらずたくさん集まってくれたお客さんから、あたたかい拍手が体育館いっぱいに鳴り響いた。
お家の人たちと一緒に記念撮影をしながら、子どもたちが一つのことをやり遂げたことへの安堵した表情が、マスク越しではあっても、十分に伝わってきた。
たくさんの差し入れをいただいたので、片付けの後、みんなで分ける。今日いないメンバーの分もしっかり分ける。コロナ禍なので、みんなでパーティのようにして食べられないことがとても残念。
卒業していく子たちは、これまでの劇のダンスシーンや芝居を立て続けに演じて、スマホで撮影してもらいながら名残を惜しんでいた。

子どもたちの終演後の感想
「コロナの中で、練習時間も限られたし、大変なことばかりだったけれど、こうやって最高の舞台を創り上げられて本当によかったです」
「コロナという厳しい状況の中で、大変なこともたくさんあってけれど、こうやって劇を上演できてよかったです」
「この大変な状況で劇を完成できたのは、私たちを助けてくれたたくさんの人のおかげです。ありがとうございました!」
「誰一人欠けることなくということができなかったけれども、何とか上演できてよかったです」
「すごく長い時間をかけたし、ピッコロシアターにも出られなかったけれど、体育館で上演してたくさんの人に喜んでもらえてよかったです」
「今日、全員でこの場に立てなかったけれど、ここにいない人の思いも演技に込めて頑張りました」
「とても楽しかったです。私はみんなとこういうふうにお芝居が作れてよかったなと思いました。いい思い出にもなったし、みんなの演技を見ていてすごく勉強になったし自分がそのメンバーのひとりとして演じることができて本当に嬉しかったです」
「やってよかった。やり遂げられてよかった」
「失敗したり、みんなに迷惑かけたりだったけど、このメンバーで劇をできたことが誇りに思えます」
「これでようやく安心しました。今晩からぐっすりと眠ることができます」
「いろいろ大変なことも多かったけど最後は思いっきり楽しめたし練習ができない空白の期間も含めてたくさん成長できたと思います」
「このメンバーで集まるのが最後かと思うと悲しいけれど、一緒に劇をできてよかったです」
「楽しかった!」
「めちゃくちゃ楽しかった!!」
「いろいろなことがあったけどとても楽しかったです。 自分の中でも成長できたことがたくさんありました!」
「私は、演劇の発表会を終えてもっともっと他の役を演じてみたいと思いました。 だから、次もよろしくおねがいします」
「最後全員ではできなかったけれど、いなかった子の分も背負って練習の成果を出せてよかったです!! この経験を自分の自信につなげて、より一層頑張りたいと思いました!! 今年(6年生)も演劇をやろうと思っているのでその時はよろしくお願いします。 音響・照明をしてくれたみんな、劇を教えてくれた先生、直前で決まった代役の人たち、劇に出れなかったけれど一緒に練習してきたみんな、演劇を見に来てくれたお客さん、本当に感謝しています。 ありがとうございました!!!!!」
「私はとにかく皆と劇をやってすごく楽しかったです!次の夏の劇でも他の役を演じてみたいです。なので、やろうと思っているので、次もよろしくおねがいします。あと、ありがとうございました!!」
「ピッコロシアターでできなかったのと、出られなくなった人がいたのは悲しかったけど、お客さんに見てもらえたのが嬉しかったです! 6年生でも、演劇をしようと思ってるので今年もよろしくお願いします。 ありがとうございました!」
「とっても、楽しかったです!!!!! コロナのせいで数ヶ月も空いて、全然練習できない日が続いたけど、最後、全員が参加できるわけじゃなかったけど、出られなかった子の分まで、やりきれて、良かったです!! がんばって、練習してきた劇をお客さんたちに見てもらって、うれしかったです!! 初めての本番で、緊張はしたけれど、最後までやりきれて良かったです!! また、演劇をしたいです!!! 先生や先輩OBの方々、そしていままで一緒に練習してきた友達、本当にありがとうございます!!」
「自分は今まで6年生の一年間という短い時間だったけど自分の中でもたくさんの成長ができたと思います。 中学生になって演劇はもうやらないけど続ける人は頑張ってください。応援しています! 本当に楽しかったです!!!ありがとうございました」
「この先どうなるか分からないけれど、できることなら演劇は中学校に行ってからも続けたいです」

お客さんの感想
「いいものを見させてもらいました」
「本番直前で役の変更があったと聞いてびっくりしました。代役とは思えなかったです」
「こんなにすごいものを見られるなんて思っていなかったです。わかっていたら、もっとたくさんの人に宣伝してました。次は、たくさんの知り合いを引き連れて来ます」
「子どもが演じているとは思えない。子どもって凄い!」
「私が想定していた遥か遥か上の芝居を見させてもらいました。素晴らしかったです」
「ただ面白いだけじゃなくて、話がとても深かったです。本格的でした」
「そのへんの劇団の芝居よりずっと面白かった」
「いろいろな困難の中、理想通りでは無かったかも知れないけど、それでも諦めずやり遂げる事ができた経験って、人生の中で大切です」
「子どもたちはこんな良い環境と指導者のもとで芝居をさせて貰って幸せだと思う」
「しっかりと声が出ていて、セリフが聞き取りやすかった」
「この大変な状況であっても、最後までやり遂げたことが素晴らしかったです。子どもたちにとっても大きな自信となることでしょう」
「とてもみんな上手でした。見られてとてもよかったです。前に演劇をしていたあの子は今どうしているんだろうと、いろんなことを思い出しました」
「いつの間にこんなに成長していたのかと驚きながら見ていました」
「卒業生も加わったことで、これまでとは違う雰囲気が出ていました。舞台後に子どもたちが、出られなかったキャストのことを話していましたが、上演を終えた満足感と同時に、本来やる予定だったメンバーとできなかったことへの思いなど、いろんな気持ちを感じました。たくさんの障害を乗り越え、今日の舞台を諦めず絶対に幕を開けることへの執念は、これからの子どもたちの生きる力につながっていくんでしょうね」
「演劇は、人を繋ぎ、人を創る力がありますね」
「休む間もなく、子どもたちのために動き続ける先生と、それに呼応して育っていく子どもたちの姿が眩しかった一日でした」
「子どもたちにとってもとてもよい経験になったと思います。最後までやり切った子どもたちと先生をとても尊敬しています」
「最後はジーンときました。隣の席の人は、とても感激して泣いておられました」
「順番待ちのない自然なセリフの間、感情表現もテンポの良さ、細かい仕草、ストーリーがタイムスリップの面白い展開、最後感動のあまり泣いてしまい、でも笑いありのお芝居とても良かったです。選曲も大好きな曲です」
「私は主人公が突然の代役でこんなに素晴らしい演技を出来たのが神業に思えてます。素晴らしかったです。子どもたちの将来も楽しみです!」

最後に私が子どもたちに伝えたこと
17年間演劇を教えてきたけれど、間違いなく今回が最大のピンチでした。そして、このピンチはこのメンバーだからこそ乗り越えられたんだと思います。3か月前、一番芝居が仕上がった状態で中止と云われて、それからがとっても大変だったけど、諦めないで自分たちの手で最後までやり遂げたことに自信を持ってほしい。ピッコロシアターでできなかったことはとても残念だったけれど、とっても価値のあることを成し遂げることができたと思っています。それに、今日ここに集まれなかったメンバーの思いをみんなで受け止めてくれていたことがうれしかった。みんなの未来に、今回の経験が生かされることを願っています。今までありがとう。

最後に…
コロナ禍の中、たくさんのことを諦めないといけなかった子たちが、最後まで諦めなかったことで、ようやくたどり着くことのできた一つのゴール。やり切りました。これで、ようやく「卒業」です。

ご卒業、おめでとうございます。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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