日米の学校教員:年度末年度開始5つの相違点
今期も引き続き連載することとなりました。教育つれづれ日誌でご縁があり、お世話になりました全ての皆様に感謝いたします。今後ともよろしくお願いいたします。
改めまして自己紹介させてください。日本にある米国の国立学校で勤務している、小学校教師です。外国人に日本語を「教える」という仕事に従事して25年目になります。勤務する小学校では15年目を迎えました。
現在「教える」という仕事を連ねながら日米の大学院で「学ぶ」という学業も再開し、2020年から二足の草鞋で励んでいます。今年はアメリカの大学院教育学修士課程を一足先に卒業できそうです。
こちらでは自身が感じた日米の教育の違い、面白さ、難しさ等を呟いていきます、どうぞよろしくお願いいたします。
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃
さて日本ではこの時期は年度末(3月)、年度開始(4月)にあたりますが、我が校では3月末から4月初めまでは春休みになり、学校は現在お休みです。今回は時期にちなんだ日米の年度末年度開始に関する教員の処遇5つの相違点について記します。
①「School is Out!」
年度末に行われる行事
私たちの学校は4学期制で、今月第2週から最後の学期がスタートします。各学期は8週間で構成されており、今学期は6月第1週まで続きます。そして6月中旬から8月末まで長い夏休みに突入します。
アメリカの学校では、年度修了の月が年度末を祝う6月「School is Out!」といって学校全体で子どもたちの頑張りをねぎらい、パレードなどでセレブレーションをします。
その後教師はPTAが準備してくれた「School’s Out Lunch」に出席し、校長やコミュニティーからねぎらいの祝福を受けます。
年度末や年度開始にまつわる式典はありません。米国では高校の卒業式が義務教育の最大の式典であるため、小学校や中学校では日本のような式典は行われません。
②「Teachers’ Workday」
成績、評価をする日
こちらの学校でも、学期末に合わせて春夏秋冬のお休みがあります。学校が休校になる初日は通常「Teachers’ Workday」と呼ばれ、教師は勤務日になり成績、評価をする日になります。一年が4学期で構成されているのでこちらでは年に4回このような日があります。
子どもたちは学校にいませんが、教員が教務以外の実務をこなせる日となっています。オンライン上の成績表システムを利用し、生徒や親はオンライン上で自分の成績や評価を確認します。私たちのような美術、語学、体育、音楽を教える専科教員は所見はなくレターグレード(A ,B ,C ,D ,Fなど)です。クラス担任をしている教員もそうです。ギフテッドや特別支援、算数強化、言語強化、第二外国語などは特別教科の担当教師が所見を提出します。生徒指導や生活指導などの所見はカウンセラーや支援員などで構成される担当委員会により提出されます。分業が細密化されています。
③「Summer Break」「Winter Break」
教員の勤務処遇
ブレイクやホリデイと呼ばれる期間はアメリカ人教師は全て勤務時間外になります。特に2ヶ月以上ある長い夏休みは完全なお休みになり勤務日ではないので、アルバイトをする教員や長期旅行、短期留学をする教員もいます。
『世界の学校と教職員の働き方-米・英・仏・独・中・韓との比較から考える日本の教職員の働き方改革』(藤原文雄編著 2018年)で示された各国の教員の勤務処遇によると、米国、シアトル学区においては、労働協約によって一日の勤務時間は7.5時間と定められています。
こちらのアメリカ人教師も専門職として公正労働基準法の適用外の職種となり、時間外勤務手当は支給されない代わりに、一般公務員よりも最低賃金が高く設定されているようです。ただし、会議、委員会運営や部活動等、労働協約で予め定められた活動を時間外で行った場合、活動ごとに設定された手当が支給されます。
④「Check Out」「Intention Letter」
教員の年度末の作業
一年を修了する際「Check Out List」に沿って教員は教室や掲示板を綺麗にし、教室で使っていたものを返却し、学校に教室の鍵を返す作業をします。次年度に同じ教室に戻ってくる保証はないので、万が一学年移動や学校移動があった場合の為です。
こちらの教員は次年度の希望書「Intention Letter」にて、どのような雇用形態、場所、どの教科担当で働きたいか希望を出すことが義務付けられています。ほとんどの場合クラス担任や専科教員は「Intention Letter」で次年度継続の希望を出せば、希望通りになります。私たちの学校でも10年以上同じ学年を担当している教師は多いです。
しかし、その希望が通らないケースもあります。同じ学年や学校に希望により所属することは通例ではありますが、生徒数や教科の増加減少により、学区内移動などの処遇が与えられることがあります。私の同僚は勤務開始日前日までどの学校で勤務するか決まっていないということがありました。また勤務開始1学期後に勤務する学校が変更になる教師もいました。生徒数により、スタッフの数が決まるのは米国も同様です。
⑤「Teachers’ Back to School」「Back to School」
年度開始前一週間の様子、まつわる行事

在沖米軍基地内公立アメリカンスクール
そして年度開始の月を祝う8月が「Back to School!」。学校が始まる1週間前に教師の勤務日が始まります。
初日はPTAと校長が準備してくれた「Teachers Welcome Breakfast」に参加し皆で朝食をとりながらこれから始まる一年のスケジュール詳細や2日目から始まる研修内容などを受け取ります。
2日目、3日目はオンライン教員研修や職員会議。
4日目は教室の飾り付け、クラス分け、生徒名簿の作成。
5日目は最終職員会議後、家族オリエンテーション、クラスリスト張り出しになります。
翌週から始まる学校では、一足早く子どもたちは保護者と共にクラス担任と教室を確認し、必要な文具などを教室のロッカーに置く作業をします。クラスによっては生徒が自由に席を決めることができたり、毎日違う席に座っても良いクラスルールがあります。クラス担任によって教室の飾り付けやテーブル、デスク、カーペットの位置も色も違うユニバーサルデザインになっています。
去年は教室を水族館やハリーポッターの魔術学校や木や花が多くあるジャングルのように飾り付けをしている教員もいました。教員の個性が現れる空間になっています。
始業当日は教員がクラスのフライヤーを掲げて自分の生徒を集め、全体で生徒をペップウェルカム、カウントダウンでRing a bell 「鐘を鳴らして一年をスタート」し、学校へ戻ってきた事を全体でお祝いし、これから一年間頑張る子どもたちを鼓舞します。
理論物理学者、アルバート・アインシュタインは「Imagination is more important than knowledge」(想像は知識よりも重要である)と言う言葉を後世に残しています。先日我々の職員会議に教育長が参加し、教育現場を支える学校職員の現場、労働環境や児童の学習環境など、各教員からの様々な要望や悩みを聞き取っていました。
最後に「”想像力”を持って様々なことに互いに対応していきましょう!」と全体に話を締めくくりました。このような縦の対話がとても重要だと感じました。今、日本の教育現場にもこの縦の対話が必要なのかもしれません。

下條 綾乃(しもじょう あやの)
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。
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