2021.03.23
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演劇いろいろ~もう一つの挑戦~(12)

ようやく演劇発表会のテレビ放送が実現し安堵しているところですが、演劇発表会に向けての稽古をする傍ら、私は昨年6月からもう一つの挑戦を続けていました。今回は、そのもう一つの挑戦について紹介します。

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭 山川 和宏

実現したテレビでの放送

このエッセイが掲載される頃には放送が終わっていますが、3月15日から21日まで、地元のケーブルテレビにて、尼崎市立小学校3校(4団体)の演劇・ダンス・手品の発表の模様が放送・配信されました。

私が指導している尼崎市立花南小学校演劇クラブの発表は、体育館のステージで劇を上演したものを撮影した直球勝負で挑みました。これまで稽古してきた子どもたちの姿をできるだけそのままの形で記録に残し、発表することが子どもたちに願いに最も沿っているだろうと考えたからです。その一方で、テレビ放送での発表ということを逆手にとり、ステージ発表とは全く違った映像作品としての発表に切り替えた学校がありました。こういう発表の仕方もあるのかと目から鱗が落ちる思いでした。編集や効果音などを凝りに凝って、一つのエンターテイメント作品として見ごたえ十分でした。担当の先生の工夫と苦労の賜物です。コロナ禍のもと、様々な制約を受けている中ですが、発表の形態として、新たな可能性を感じさせられました。今後の参考にしていきたいと思います。

いずれにせよ、この放送をもって、あらゆる意味においてようやく今年度の演劇クラブの活動のゴールを迎えることができたように思います。

もう一つの挑戦

舞台のセット

それはさておき。

演劇クラブの指導の傍ら、私自身はもう一つの挑戦を続けていました。お隣の伊丹市のAI・HALLという劇場で行われた演劇ラボラトリーというプロジェクトに役者として参加し、舞台公演に臨んだのです。

演劇ラボラトリーは、20代から70代の一般の老若男女16名が、プロの演出家と劇作家の指導のもと、約9か月をかけて1本の舞台作品を創り上げるプロジェクトです。本格的に役者を志している方や、舞台に初めて挑戦する方、もう何度も舞台に立っておられる方など、いろいろな背景を持った個性的な方たちが集まって、初歩の演技指導に始まって、徐々に本格的な芝居作りに突入し、遂にはコメディ作品の上演に挑戦するという斬新なものでした。しかも、上演する劇の台本は、劇作家の村角太洋さんが、役者一人一人にあて書きするという大変至れり尽くせりの企画です。

初めは、演劇クラブの指導者として、指導の引き出しを増やせればと思って参加しました。自分は演出や劇作の経験はありますが、役者の勉強はほとんどしたことがありません。14年ぶりの演技に挑戦ということで、セリフ覚えはおぼつかなくなっているし、思うように身体は動かなくなっているしで、何とか共演者に迷惑をかけないようにということで精いっぱいの状態でした。楽しいはずの仕事終わりや休日の稽古も、いつしかプレッシャーしか感じなくなっていました。

まさに「言うは易し、行うは難し」で、自分がこれまで指導と称して子どもたちにやらせていたことが、実際に自分でやってみるとなるとどれだけ大変かが身に染みて分かりました。演出して下さった上田一軒さんが、自分の声をほめてくれたり、自分の演技を好きだと云ってくれたりしたことで、何とか気持ちを切らさずに最後までやり切ることができました。悩める役者を経験することで、ほめるということは、指導者として大事な仕事なのだと改めて思い知らされました。教師という仕事は、時々生徒側に身を置くことでいろいろな発見があるのかもしれません。

舞台公演当日は、教え子や元教え子が何人も観に来てくれました。これまでに経験したことのないような大きなハプニングもあって大変な公演だったのですが、何とか無事に3回の公演を最後まで演じ切ることができました。3回ともお客さんの反応が違って、それと同時に演じ手である私たちの精神状態も違って、それぞれにまるで違う舞台を演じているような感覚でした。

最もうれしかったのは、観に来てくれた教え子たちが笑ったり、泣いたり、大いに劇を楽しんでくれたことです。終演後、客席で「この舞台を見て、これからもずっと芝居を続けることに決めた」と話している子たちの姿を見たスタッフの方から、その様子を伝え聞いて、挑戦して本当によかったと思いました。コロナ対策のため、公演当日にお客さんとの面会はなかったのですが、その翌日、子どもたちは物凄く興奮して「これまでに見たことのない先生の姿を見られてうれしかった」といった感想を聞かせてくれました。どうやら、コメディとしてツボに入ってくれていたようです。自分の演技を見ても失望させずに済んだことに心から安堵しました。頑張った甲斐がありました。

教師という仕事は、教えることのプロフェッショナルであると同時に、何か一つプロフェッショナルなスキルを身に着けておくことも、大きな武器になると思います。特技といいかえても良いかもしれません。

そんな特技をさらに確固たるものにするため、これからも機会があれば何事かに挑戦を続けたいと思います。


山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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