2020.05.26
これまでにも、いろいろなアクシデントがありました。その中でも最大のアクシデントは、2年目の演劇発表会で起こりました。
演劇いろいろ(1)
小学生と演劇をやっていると、アクシデントを避けて通ることはできません。
1年間かけて取り組んできたことの成果を発表する「演劇発表会」は、一度きりの上演です。そこで十分な成果を見せるために稽古に稽古を重ねて準備するわけですが、いざ本番となって、予想もしないようなアクシデントに見舞われることがしばしばあります。
演じる子どもたちにいつも伝えているのは、「どんなことが起きても、芝居を止めずに演じつづけよう」ということです。少々セリフを言い間違えたり、とばしたりしてしまっても、初めて見るお客さんはそうそう気づくものではありません。失敗しても、堂々と演じつづければいいのです。失敗を悔しがるのは、上演が終わってからでも遅くはありません。
これまでにも、いろいろなアクシデントがありました。その中でも最大のアクシデントは、2年目の演劇発表会で起こりました。
尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏
2年目の演劇発表会
2年目の演劇発表会は、神戸の劇団赤鬼さんの「スパイマイフレンド」という劇を上演しました。その前年、私は演劇指導の引き出しを増やそうと、兵庫県三田市で開催されていた市民演劇セミナーに参加したのですが、そこで半年くらいかけて創り上げた芝居が「スパイマイフレンド」だったのです。劇団の主宰の方にお願いし、演劇発表会で小学生に上演させていただくことになりました。
大空に憧れる少年と、隣国からやってきたスパイとの交流を描く「スパイマイフレンド」はさまざまな魅力的な人物が絡み合う群像劇で、とても素敵な作品です。ただ、この芝居を小学生が演じることができるのかというと、正直半信半疑でした。
上演時間が長い。登場人物が多い。セリフが多い。長ゼリフがある。ダンスがある。スローモーションがある。芝居と合わせた音響効果がたくさん必要……。
いくつものハードルがありましたが、それでもこの作品を選んだのは、純粋に面白いし、心を打つお話だったからです。作り手が面白いと思っていない作品が、お客さんに面白いと思ってもらえるわけがありません。子どもたちも、役に入りこんで一生懸命に演じてくれました。
大空に憧れる少年と、隣国からやってきたスパイとの交流を描く「スパイマイフレンド」はさまざまな魅力的な人物が絡み合う群像劇で、とても素敵な作品です。ただ、この芝居を小学生が演じることができるのかというと、正直半信半疑でした。
上演時間が長い。登場人物が多い。セリフが多い。長ゼリフがある。ダンスがある。スローモーションがある。芝居と合わせた音響効果がたくさん必要……。
いくつものハードルがありましたが、それでもこの作品を選んだのは、純粋に面白いし、心を打つお話だったからです。作り手が面白いと思っていない作品が、お客さんに面白いと思ってもらえるわけがありません。子どもたちも、役に入りこんで一生懸命に演じてくれました。
最大のアクシデント
いざ本番。熱演です。それぞれが堂々と役を演じ、物語はクライマックスへと向かっていました。まさにその時、アクシデントが起こりました。
主役のスパイと敵国に寝返った元上官との対決シーン。お互いの思いをぶつけ合う緊迫したシーンです。そのシーンも佳境にさしかかった頃、主役のスパイを演じていた子が崩れ落ち、舞台上に嘔吐しました。もちろん、台本にはそのように書かれてはいません。突然、予想もしていない動きをされた相手役の子は、さぞかし驚いたことと思います。芝居を中断してしまっても、やむを得ない事態でした。
ところが、相手の子は、元上官としてスパイの体調を気遣い、介抱するという芝居を即興でつづけながら、舞台袖にまで連れて行ったのです。見ていたお客さんの中には、嘔吐したのも演出なのかと勘違いした人もいたほどです。
主役を演じた子は、その日のリハーサルから体調がよくなかったのです。だけど、主役である自分が欠けてしまうと上演できなくなるという責任感から、誰にも体調の悪さを悟られることなく、出演を決行していたのです。今でいうと、ノロウイルスのような症状だったのかもしれません。その体調の悪さを見誤り、無理をさせてしまったのは、指導者として未熟だったとしかいいようがありません。
舞台上に嘔吐物があるままに上演をつづけるわけにはいかないので、シーン終わりに一度幕を下ろして、舞台上を片づけました。本番中に上演を中断したのは、15年間でこの時だけです。その間、主役の子に、この後どうするかを意思確認したところ、何があっても最後まで演じきりたいといいます。体調も少し落ち着いたようなので、すぐに上演を再開しました。
その後がすごかったです。鬼気迫る演技を見せる主役の子をはじめ、出演している全員が1ミリたりとも集中力を欠くことなく、むしろさらに集中して熱演していました。逆境にみんなで立ち向かうその姿に、照明ブースから見ていた私は涙が止まりませんでした。後にも先も、本番中に大泣きしてしまったのは、その時だけです。上演後に司会者として舞台に上がってインタビューをしないといけなかったので、涙を止めるのに苦労しました。
最大のアクシデントは、最大の感動を生み出しました。
芝居を続けた相手役の男の子は、上演後、最高の笑顔でこう言いました。
「ボク、芝居止めなかったよ!」
主役のスパイと敵国に寝返った元上官との対決シーン。お互いの思いをぶつけ合う緊迫したシーンです。そのシーンも佳境にさしかかった頃、主役のスパイを演じていた子が崩れ落ち、舞台上に嘔吐しました。もちろん、台本にはそのように書かれてはいません。突然、予想もしていない動きをされた相手役の子は、さぞかし驚いたことと思います。芝居を中断してしまっても、やむを得ない事態でした。
ところが、相手の子は、元上官としてスパイの体調を気遣い、介抱するという芝居を即興でつづけながら、舞台袖にまで連れて行ったのです。見ていたお客さんの中には、嘔吐したのも演出なのかと勘違いした人もいたほどです。
主役を演じた子は、その日のリハーサルから体調がよくなかったのです。だけど、主役である自分が欠けてしまうと上演できなくなるという責任感から、誰にも体調の悪さを悟られることなく、出演を決行していたのです。今でいうと、ノロウイルスのような症状だったのかもしれません。その体調の悪さを見誤り、無理をさせてしまったのは、指導者として未熟だったとしかいいようがありません。
舞台上に嘔吐物があるままに上演をつづけるわけにはいかないので、シーン終わりに一度幕を下ろして、舞台上を片づけました。本番中に上演を中断したのは、15年間でこの時だけです。その間、主役の子に、この後どうするかを意思確認したところ、何があっても最後まで演じきりたいといいます。体調も少し落ち着いたようなので、すぐに上演を再開しました。
その後がすごかったです。鬼気迫る演技を見せる主役の子をはじめ、出演している全員が1ミリたりとも集中力を欠くことなく、むしろさらに集中して熱演していました。逆境にみんなで立ち向かうその姿に、照明ブースから見ていた私は涙が止まりませんでした。後にも先も、本番中に大泣きしてしまったのは、その時だけです。上演後に司会者として舞台に上がってインタビューをしないといけなかったので、涙を止めるのに苦労しました。
最大のアクシデントは、最大の感動を生み出しました。
芝居を続けた相手役の男の子は、上演後、最高の笑顔でこう言いました。
「ボク、芝居止めなかったよ!」
山川 和宏(やまかわ かずひろ)
尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。
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札幌市立高等学校 教諭
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