演劇いろいろ~ピッコロフェスティバルへの挑戦~(13)
ピッコロフェスティバルは、兵庫県尼崎市のピッコロシアター(兵庫県立尼崎青少年創造劇場)で毎年8月に行われる催しです。その催しの県民参加企画《演劇》小・中・高校生の部では、大ホールで1時間の劇の発表を行うことができます。
今回は、8月20日(金)午前10時からの上演に向けて活動する本校演劇クラブの活動について紹介します。
尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏
限られた時間の中で…
毎年8月に行われているピッコロフェスティバルですが、昨年度は劇場の改修工事のために開催されませんでした。また、今年1月にピッコロシアター大ホールで予定していた尼崎市小中学校演劇発表会も、新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、直前になって中止になってしまいました。
今年度のピッコロフェスティバルの開催についても気を揉んでいたのですが、ピッコロシアターの方々の大変な熱意と準備によって開催されることになりました。数々の子どもたちの発表の場が失われている中で、非常にありがたいことです。
そのような中で活動を始めたのですが、今回参加した25名のメンバーのうちのほとんどがピッコロシアターの舞台に立ったことはありません。また、コロナ禍のために活動の立ち上げが6月下旬にずれこんでしまい、例年よりも1か月以上短い期間で芝居を創らないといけないという時間的な制約が生じました。
そこで、過去に上演したことのある劇を再演することで見通しを持ちやすくするとともに、練習内容を精査することにしました。その結果、思っていたよりも早く、ある程度芝居の形ができあがったのです。しかし、熱心に取り組んでいるにもかかわらず、その「ある程度」のところで子どもたちは壁にぶちあたり、なかなかその壁を越えることができなくなりました。
「ものづくりに近道なし」というと何だか格言めいてしまいますが、効率よく活動しようとする中で疎かにしていた部分にこそ、大切なことがあったのだと思います。
私たちは手間暇をかけて創るという原点に戻って、回り道を覚悟で稽古を進めることにしました。
演劇稽古日誌より
7月〇~△日
人前で演技をするということに慣れていない子どもたちが、3日間にわたって舞台上で、①特技披露、②歌唱披露、③自分語り――を行った。
「能ある鷹は爪を隠す」ではないが、これまで知られていなかった子どもたちの個性が光っていた。空手の型を披露した子は、芝居の中でそのままその型を披露することになった。
自分語りでは、自分の中の深いところにあるありのままの感情を言葉にすることで、共感の輪が広がる場面が見られた。
7月▢日
卒業生が夏休みを利用して、見学に来る。自分たちの経験を踏まえてアドバイスを送る姿が頼もしい。
今の子どもたちは、真面目で素直な反面、自分たちでアイデアを出してガツガツ取り組んでいくようなエネルギーには欠けている。初めて演劇に取り組む子たちが多いこともあるのかもしれないが、それだけが理由ではないだろう。
卒業生の目から見ると、そのような子どもたちの取り組み方に対して、少し物足らないものがあったのかもしれない。言葉に表すことは難しいけれど、子どもたちの中に見えない壁のようなものがあることを指摘された。そして、実際、子どもたちは自分たちが思い描く理想となかなか芝居が変わっていかないという現実の狭間で右往左往していくのだった。
8月✕日
なかなか芝居が良くならないという壁のようなものにぶちあたっているのを感じていた子どもたちが、「今の自分たちに欠けているものは何か?」について話し合った。
集中力、自信、努力、チームワーク、切り替え、行動に表すこと、自分たちが楽しむこと、教え合うこと、勇気、どこか他人事になっていて自分事として考えられていないこと、時間、一生懸命さ、必死さ、誠実さ…。
一人一人が感じていたことは様々だったが、みんなで話す中で、「一つの作品をみんなで創り上げようという気持ち」が欠けているから、いろいろなものが足りなくなっているのではないかという答えにたどり着く。
「あえて教えないことで子どもたちの主体性を引き出す」を今回の芝居創りのテーマにしていたこともあって、この話し合いに私はほとんど口出ししなかったが、私が感じていたこととほぼ同じ答えに、子どもたちだけでたどり着いたことに感動してしまった。
創り手の「気持ち」という養分が根っ子から幹、そして枝へとしっかりと行き渡っていかなければ、「芝居」という大きな花は咲かせられないのだ。
この日を境に子どもたちの演劇に取り組む姿勢に変化が見られるようになった。上手に演じることよりも、本気で演じる中で気持ちを届けたいと願うようになった。もしかすると、壁は乗り越えられるかもしれない。
8月◇日
富良野塾の同期の役者が特別講師として稽古に参加してくれる。子どもたちからの質問に応じて、スローモーションやその場走り、テンションの高め方などについて実践的な指導をしてくれた。
その中でも、みんなで輪になってキャッチボールをするゲームを楽しんだ後、「今のゲームで云うと、ボールがセリフで、ボールがいつ廻ってくるかと待ち構えている状態がセリフがない時の芝居をしている状態なんだよ」という説明に子どもたちは目から鱗が落ちたかのように納得していた。
また、①いすに座ってリラックスしている状態、②背筋をピンと伸ばした状態、③立ち上がった状態――の3段階の動きをしながら、自分の好きな食べ物を発表していった。頭で考えるのではなく、まずは身体を動かすことでテンションを高める(感情を高める)という方法を体験的に学ぶことができて、非常に分かりやすかった。
「意識は外に向けて」「身体の動きをしっかり観察して」「目的を持って芝居して」「結果を予測した芝居はしないで」「頭ではなく身体をまず動かして気持ちをつくる」「みんなの目線を集中させることで意味が生じる」などの印象的なキーワードを子どもたちはノートに書き留めていた。
そして本番へ…
お盆休みをはさんで、8月20日(金)の本番に向けてさらに稽古を重ねていく予定ですが、コロナ禍の中で果たして無事に上演できるのかどうか、不安もあります。
また、この先もいろいろと困難な壁に直面することでしょう。しかし、進むしかないと思っています。時には回り道をし、時には一度引き返して助走を大きくとって飛び越えるようなイメージで、これからも活動を続けていきたいと思っています。
子どもたちの努力の結晶が、大きな花を咲かせてくれることを願ってやみません。
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山川 和宏(やまかわ かずひろ)
尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。
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札幌市立高等学校 教諭
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