演劇いろいろ~ピッコロフェスティバルへの道のり~(28)
8月17日(水)~18日(木)に、兵庫県立青少年創造劇場(ピッコロシアター)大ホールにて行われるピッコロフェスティバル小中高校演劇の部の出場に向けて、稽古を進めています。しかし、第7波と云われる新型コロナウイルスの感染急拡大の中、かつてないほどの困難な事態に直面しています。
尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏
稽古日誌より
例年であれば、夏休みにみっちりと演劇の稽古を予定してるのだが、今年度は諸々の事情が重なって8月に思うように稽古の日程を組めず、8月4日(木)が稽古納めで、17日(水)に劇場リハーサル、18日(木)に本番というスケジュールになってしまった。稽古納めから2週間の間隔があっての本番というのは、おそらく芝居勘が戻らないし不安でしかないのだが、やむを得ない。できるだけの準備をしてのぞむことにしよう…と思っていたら、そのできるだけの準備をすることすら難しい大変な状況になってしまった。
7月19日(火)
5月に稽古を始めて、これまでは休日に稽古を入れていたが、今日から午前中授業となったので、午後から演劇の稽古を予定していた。ところが、学級閉鎖・学年閉鎖が出た影響で、4名しか参加できないという緊急事態。今週いっぱい、6年生と4年生(全メンバーの4分の3)が参加できない。いっそのこと稽古を中止にしようかとも思ったが、練習の日数も限られていることと、メンバー全員が元気なこともあり、とりあえず参加できるメンバーでやれることをやっていこうという結論に達し、衣装づくりや道具づくりを進める。
7月20日(水)
危機的状況を聞きつけた卒業生が4名、稽古を手伝いに来てくれる。ダンスシーンの振り付けの確認や、代役、音響などで八面六臂の活躍を見せてくれた。さすがである。オンラインでの参加者も加わり、苦労しながらも何とか稽古らしいことはできたかと思う。
7月21日(木)
今日から夏休み。宇宙人役の衣装をつくるが、どうもしっくりこない。別のものをつくり直すことにする。オンラインでホン読みを中心に稽古を進める。全編ホン読みして、49分。上演時間に換算して、52~53分というところか。
7月22日(金)
稽古の合い間に夏休みの宿題を持ち寄って、教え合う。小学2年生の補習授業の助っ人として、算数を教えてあげる姿が頼もしい。小学生が俄然やる気を出して、がんばっていた。さらに照明台本と音響台本の作成。照明台本は、すべてのきっかけを鉛筆書きするということで、手分けして書きこんで3部作成した。
7月26日(火)
今日から4年生と6年生が稽古に復帰。ところが、先週参加していた子が今週いっぱい参加できないことに。リーダー的存在が欠けてしまい、稽古の雰囲気も重苦しい。なかなかメンバーがそろわない中で通し稽古を行い、上演時間は54分だった。
7月27日(水)
ピッコロシアターのスタッフさんとの打ち合わせ。今回は、卒業生(高校生)が照明操作を、小学生が音響操作をすることになった。音響はいつも小学生がやっていたが、照明操作をメンバー内で行うのは初めての試み。きっといい経験になることだろう。
7月28日(木)
校内で行われた職員研修で私が青年海外協力隊の体験談を話している間、子どもたちは普段とは違う教室で通し稽古をして、それぞれ気づいたことを意見交換していた。自分たちで稽古を進める姿が頼もしい。きちんと稽古に参加している子には、やはり舞台の上で輝いてほしい。というわけで、出番がなかった子やセリフが少なかった子のためにシーンを追加。おかげで、上演時間が57分に。準備・後片付けも含めて1時間以内という上演時間は守らねばならないので、もう少し精査しないといけない。
7月29日(金)
追加したシーンがうまくいかないのを見かねた卒業生が、別室にて演技指導してくれる。登場人物がどのような意思を持って行動しているか、そしてその行動がさまざまな障壁によってうまくいかない時に、どのようなリアクションが生まれるかを考えてみる。その際に、登場人物は自分の行動の結末は知らないということを忘れてはいけない。さらに、6年生の担任の先生からアイスの差し入れ。子どもたちのやる気が俄然アップする。
8月1日(月)
今週もメンバーがそろわない中で、稽古を進めざるを得ない状況。今日は猛暑の中、体育館での通し稽古。熱中症が心配なので、朝一番の涼しい時間帯に短時間で行おうとするも、十分に暑かった。みんな汗だく。それでも劇場の舞台と同じ広さで演じてみて、子どもたちなりに気づかされることが多かったようだ。午後からは子どもたちが各パートの練習を進めるも、まとまりを欠く。もう一度、我々が何を目指して劇を創っているのかを原点に戻って話し合う。「一生懸命に演じて、お客さんに『いい劇を見た』と云って喜んでもらいたい」というのが子どもたちの出した答え。それに対して、「一生懸命に劇をするのはあたりまえで、それはゴールではなくスタートライン」などとえらそうに説教してしまう。今日は始終、何かボタンを掛け違えたままの稽古になってしまった。反省。
8月2日(火)
通し稽古中に、睡魔に襲われる。演劇の指導をしてきて、こんなことは初めて。子どもたちなりに頑張っているのは伝わるものの、見ていて眠たくなる芝居になっているのは危機的状況。しかも、残された稽古期間はあと2日。さて、この状況をどうやって克服したものか…。
8月3日(水)
前日に出しておいた課題「今回の芝居を成功させるために必要なこと」について、子どもたちが発表し合う。一人一人が真剣に考えてきたのが伝わる、思いのこもった発表だった。本当にたくさんの意見が出たのだが、その一部を紹介する。
〇明日から本番までの2週間に稽古ができないので、その過ごし方が大事だと思う。割り箸をくわえて滑舌のトレーニングをしておくことはもちろん、台本を毎日読んで、一人一人が自分がすべきことをやって準備をして、悔いのないように全力で芝居したい。
〇台本を持っていないお客さんにも分かるように、はっきりと大きな声でセリフを云って、劇に入りこんでもらいたい。
〇音響として出す音で芝居をしているつもりになって、音量やタイミングを間違わないようにして、お客さんに集中して劇を見てもらって、上演時間を長く感じさせないようにしたい。
〇身振り手振りを大きくして、演じたい。
〇稽古がお休みの間も、普段から2~3倍の大きさの声を出して生活したい。
〇テンションを上げて、役の性格をあらわすような行動をしたい。
〇テンションを上げて、思いっきり楽しみたい。
〇先を予告する芝居はしない。
〇何となく演じるのではなく、集中して声、動き、呼吸全てを使って表現したい。
〇セリフを云い間違えても、云い直さない。
〇相手役を圧倒するようなエネルギーで芝居したい。
〇朝の10時からの上演でも、テンションをMAXにしたい。
〇感情という見えないものを舞台上で見えるように表現したい。
〇一生懸命に最後までやり切って、最高の劇にしたい。
その中で何人もの子から繰り返し出てきたキーワードは、「集中」「テンション」「楽しむ」だった。我々が劇を創る中で大切にしていこうとしているものがようやく見えてきたような気がした。また、多くの子が「お客さんにどのように感じてもらうか」という視点から考えていた。純粋に芝居のことだけを考えるならば、演じる劇の世界には存在しない観客という存在は二の次にすべきである。しかし、子どもたちにとっては、「お客さんに喜んでもらいたい」「お客さんに見てよかったと思ってもらいたい」という願いがとても強く、それが劇を創る大きなモチベーションになっている。その気持ちは大切にしていきたいと思った。
さて、今日の通し稽古はテンポがよくて上演時間55分。一人一人の思いが芝居の中に凝縮されて、前日とは打って変わって、ぐいぐいと劇の世界に引き込まれていった。子どもたちの持っているチカラを見せつけられたような気がした。欠席者がいたので代役の子が演じた笑えるシーンがちょっとツボにはまってしまった。これを本番で見せられないのがもったいない。全体的にまだまだ芝居としては未完成だが、この子どもたちのエネルギーが十分に発揮できれば、きっといい芝居になると思う。最後の通し稽古が楽しみになった。
そして、ピッコロシアターからいただいた200枚近い入場整理券が残りわずかになった。子どもたちが自分たちのやってきたことを一人でも多くの人に見てもらいたいと思って、たくさんの人に声をかけた結果である。予算削減や行事の見直しが進められる中で、後輩たちのためにもピッコロフェスティバルや演劇発表会がこれからも継続されるようにと願う子どもたちの思いが届くことを願うばかりである。さらに、このコロナ禍の状況で子どもたちが一人も欠けることなく、本番を迎えられることを心から願っている。
2022ピッコロフェスティバル演劇の部
※なお、本年度のピッコロフェスティバル演劇の部は、受付時に検温と連絡先を記入すれば、一般の方にも公開される予定です。8月17日(水)は、午前10時開演で中学校4校の参加。8月18日(木)は、午前10時開演で小中高3校の参加です。本校演劇クラブ有志with演劇ユニットふろんてぃあによる上演は、8月18日(木)午前10時からです。他にもいろいろな催し物がありますので、詳しくは、兵庫県立青少年創造劇場(ピッコロシアター)のホームページでご確認ください。
・来場される際は、◆マスク着用 ◆手指消毒 ◆検温などにご協力ください。
・37.5度以上の発熱がある方やマスク着用のない方は、ご入場をお断りする場合があります。
・発熱や風邪の症状のある方や体調がすぐれない方は、来場をお控えください。
・感染状況の変化によって、急遽、公演の中止や内容を変更する場合がありますので、ご了承ください。
山川 和宏(やまかわ かずひろ)
尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。
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札幌市立高等学校 教諭
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