2021.11.20
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演劇いろいろ~配役しよう~(17)

劇づくりの過程において、配役(キャスティング)はとても重要です。
今回は、配役をする際に私が心がけていることについて紹介します。

尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏

配役のポイント

配役は子どもたちに任せることはせず、基本的に私が決めます。子どもたちがやりたい役を選んでやった方がモチベーションが上がるという面があるので、希望を全く聞かないわけではありませんが、配役は劇づくりの過程の中でも特に重要なので、指導者が責任を持って決めるべきだと考えています。
責任を持つためには、これからつくる劇について指導者が最も理解しておく必要があるのはいうまでもありません。
私が配役を決めるに際して心がけていることを紹介します。

1.台本を読みこむ。

配役は、台本選びから始まっています。目の前の子どもたちに合わせたオリジナルの台本をイチから書き上げることができればいいのですが(あて書きといいます)、時間的な制約や技量の問題でいつもできるわけではありません。オリジナル台本を用意できない場合は、参加する子の人数や上演時間、経験値を考慮した上で、子どもたちがやる気になる台本を選ぶことになります。指導者自身が「面白い!」「やってみたい!」と思うような台本でないと、のちのち苦労するので、台本選びに関してはこだわりたいものです。
そして、上演する台本が決まったら、しっかり読みこんで、役のイメージを膨らませます。

2.イメージにあてはめる。

外見だけでなく内面的にも、役のイメージとできるだけ重なるような配役にします。これは指導者の主観で構わないと思います。時には、自分のイメージを超える演技を期待して意外性のある配役をすることもあります。
私が子どもたちとつくる劇は、刑事・兵士・サムライ・教師といった大人の男性がたくさん登場します。それに対して、演劇メンバーは小学生の女子がほとんど。少しでも役に近づくためにも、イメージを膨らませます。

3.関係性をつくる。

登場人物の関係性やステイタスに沿った配役にします。例えば、上下関係や恋愛関係といった「AとBの間に明らかな力関係」が生じるのであれば、そのような関係性に説得力を持たせるような配役をします。これは演技の技量というよりも、普段の子どもたちの様子を観察して参考にしています。
また、「主人公が仲間と共に困難を乗り越えていく」というストーリーであるならば、主人公と仲間、主人公が乗り越えるべき困難(ライバルや敵)との間で、配役のバランスに気を配ります。

4.伸びしろをはかる。

通常3か月の稽古期間を経て劇を完成させるので、3か月後にどのくらい伸びているのかを考慮するようにしています。ポテンシャルや稽古への取り組み方を参考に、伸びしろを計算します。

5.カンパニーとして。

一つの演劇作品をつくるカンパニーとして、どのような集団を成すのか。この点については、配役とも関わってきます。役に大小はないというものの、主役を張る子にはカンパニーの顔として、みんなのお手本になってもらいたいという願いがあるのは事実です。この子を中心にまとまってもらいたいという願いが配役にも反映されることがあります。

オーディション

以上のようなポイントを念頭に置いて、オーディションを行って配役を決定します。
オーディションを行うまでに配役のイメージはほぼでき上がっていることが多いのですが、一度そのイメージをリセットして、どの子にもチャンスを与えるようにしています。その結果、事前のイメージ通りの配役になることもありますし、変更が生じることもあります。
オーディションは、ホン読みが中心ですが、簡単なエチュードなども行います。

悩みに悩んで決定することもあれば、すんなりと決定することもあります。いずれにせよ、稽古を進めるうちに「この配役で良かったのかな?」と不安になることはあります。それでも、自分の直感を信じていれば、劇を完成させた時には「この配役で良かったンだ!」と胸を張れるようになっているものです。

今回の劇づくりでも、配役に関しては相当悩みました。配役のポイントの、どれを重視するかでも大きく変わってきます。今回は、主人公の少年を誰にするかでかなり迷い、「4.伸びしろ」よりも「5.カンパニーとしてのおさまりの良さ」を重視して決定しました。その決定が正しかったかどうかは分かりません。ただ、決定したことの責任は全て私にあります。責任を持って、いい劇にしていくのみです。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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