2021.12.06
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演劇いろいろ~役作りをしよう~(18)

配役が決まると、役者は役作りに励みます。では、どのようにして役にアプローチしていけばいいのでしょうか?
今回は、富良野塾で教わったアプローチの方法をもとにして、子どもたちにどのように指導しているのかを紹介します。

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭 山川 和宏

履歴書を書こう

役者が役を自分のものにするためには、台本をとことん読みこんでイメージを膨らませていくことが一般的ですが、私はまずは役の履歴書を書くことから始めるように指導しています。

何年何月に生まれ、どのような家族構成で両親はどんな職業だったのか。どんな友達がいて、どんな恋愛をしてきたのか。家はどんな間取りで、どんな部屋で過ごしてきたのか。どんな街に暮らしていたのか。町の地図は?精神的に大きな影響を受けた人物や出来事は?趣味や好きなもの、苦手なものは?トラウマは?特技は?長所は?短所は?癖は?宗教・信条は?好きな服装は?好きな曲は?好きな本や映画は?

これらのことは、直接芝居の内容とは関わらないかもしれません。しかし、履歴書を書くことで、その役に確かな存在感が生まれると思うのです。

例えば、役の人物が子ども時代にどんな町で暮らしてきたのかを地図で表すとします。家から学校までの通学路を地図に表していく中で、「この歩道橋で大好きだった女の子に告白しようとしたけど、勇気が出なかった」とか、「この家の犬にいつも吠えられるので、毎日遠回りして通学していた」というエピソードが生まれ、それがその役の人物像に投影されていくことになるのです。あるいは、いつも放課後野球をして遊んでいた公園が出てきたり、よく買い物をしていた駄菓子屋で一度だけ万引きをしてしまって、それを今も後悔しているというエピソードが生まれたりするかもしれません。

そういったひとつひとつのできごとを想像することはとても楽しい工程ですが、人生経験が限られている子どもたちにとっては少し難しいことであるかもしれません。その場合は、似たような経験はないかなとか、自分だったらこうかなとか、自分自身の体験に近づけて履歴を作っていっても良いでしょう。

あるいは、その人物が2000年生まれだとすると、11歳の時には、こんな事件が起こって、こんな小説やテレビ番組、映画、音楽が流行していたから、好きな曲は〇〇だな……といったように、時代背景と組み合わせて履歴書を作っていくこともできるでしょう。

役作りで大切なのは、これらの履歴を通して、その人物がいかに人間臭いところを持っているかをつかむことだと思っています。私はゴルフはしませんが、スーパーショットを連発する人物よりも、バンカーにはまってにっちもさっちもいかなくなってズルをしてしまう人物の方にリアリティを感じてしまいます。長所よりも、短所にこそ、その人物のチャーミングなところが表れるような気がするのです。

さて。実際に演技に生かされるかどうかは別にして、一人の人物と向かい合い、その人物のことをとことん掘り下げて考えていくことが、演じることの第一歩なのです。

閑話休題

ところで。

これまで演劇についてずいぶんと書いてきましたが、演劇には私なりにコンプレックスを持っています。

若かりし頃、某大手劇団の演出部の採用面接を受けた時のことです。劇団の代表の方に「これまでどのような演劇を見てきたのか」と問われ、正直に「ほとんど見ていないです」と答えると、「君は普段演劇を見ていないのに、演劇の仕事をしようというのか。もっと勉強してから来なさい」と厳しい口調で云われてしまいました。

そうなのです。私は演劇が特に好きという訳ではなかったのです。学生時代、映画は年間1000本くらいは観ていたのに、演劇を観たという記憶はありません。そして今も、ほとんど演劇は観ていないのです。

そんな私がどうして17年間も子どもたちに演劇の指導を続けてきたのかは、正直云って自分でもよく分かりません。強いて云うなら、「縁」ということになるのでしょうか。これから先いつまで続けられるかは分かりませんが、演劇が子どもたちの成長につながっているということは確信しているので、「縁」が切れるまではぼちぼちと続けて行こうと思っています。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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