演劇いろいろ~セリフについて~(19)
演劇は、いくつものセリフが積み重なってストーリーが進んでいきます。芝居の中で、セリフは最重要なものであることに異論はありません。しかし、セリフだけで表現できるのはごく一部でしかないのも事実です。そんなふうに考えている私が、セリフについて子どもたちにどのようなことを教えているのか、紹介します。
尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏
私のセリフ論
台本を渡すと子どもたちは、おそろしいまでの速さでセリフを覚えてきます。
私自身は、年を取るとともにセリフ覚えに自信がなくなってきて、ICレコーダーに相手役のセリフだけを吹き込んだり、紙にセリフを起こして視覚的に覚えたりと色々と努力しないと覚えられないので、子どもたちの脳の若さがうらやましいです。
子どもたちがセリフを覚えると、ホン読みから立ち稽古へと移っていきますが、そんな中で、私は、以下のようなことを子どもたちに伝えています。
①セリフはリング
その場に登場している別の人物のセリフを最後までしっかり聞いてから、自分のセリフを云っていると、芝居のテンポが上がらない。実際の会話でも、相手のセリフを最後まで聞いてから話すというよりも、相手の話にかぶせて話をすることがよくある。相手役のセリフの最後の音に自分のセリフの最初の音をつなげていく(リングさせる)ことで、芝居にテンポが生まれる。
②セリフは「間(ま)」
①と真逆だが、自分のセリフは一気に早口で喋り終えたくなるものだが、言葉に出している時よりも「間」にその人物の思考や感情が表現されることも多い。「間」を使うことで、表現の幅が大きく広がる。
③セリフは緩急
セリフで表現する際に意識すべきは、声の高さ(音程)、声の速さ(音速)、声の大きさ(音量)。これらの組み合わせで、表現する。もちろん、その根底には感情がある。その感情を表現する手段の一つとして、それらを活用していく。
④話す際の呼吸
感情が動くと、呼吸が変わる。呼吸を意識して話すことで、セリフに気持ちを乗せることができる。
⑤セリフは話すよりも聴くことに重点を置く
自分のセリフを話すことに意識を置くと相手のセリフを聞いていないことが多い。相手のセリフを目と耳と心で聴いて受け止める。
⑥セリフは表層に過ぎない
自分が思っていることや考えていることを100%言葉にして人に伝えている人間はいない。セリフは表層でしかない。その奥底に、どんな感情があるのか。どんな思考があるのか。それを読み取って、演じなければならない。
⑦セリフは表現の一部
演者は、セリフを話すことが芝居だと考えがちであるが、芝居の中で、セリフで表現できることは1割にも満たない。呼吸で、身体で、姿勢で、動きで、目線で、表情で。全てを使って表現することが芝居である。
⑧話していない時こそ、演技しよう
自分のセリフがない時も、演技は続いている。セリフがない時こそ、想像力をたくましくして芝居をしよう。
⑨舞台の上にいなくてもその役の人生は続いている
さらに云えば、舞台上にいない時(出番ではない時)も、自分が演じている役は、その人の人生を生きて、どこかで何かをしている。出番と出番の間に、その人はどんなことをして、どんなことを思い、どんなことを考えているのかつなげていくことも役者の大きな仕事の一つだ。
⑩心の声を演じよう
言葉に発していない、心の声を表現することにこそ、リアルがある。例えば、「わかりました」という一つのセリフの裏には、「何を云っているか意味わかんねー」という心の声があるかもしれないし、「早く終わらねーかな」という心の声があるかもしれない。それを表現することが、演じるということだ。
⑪セリフの発声法
発声については、腹式呼吸・喉を開く・音を響かせる・正しい形で口を開く・滑舌などを意識してトレーニングを重ねる。演じている時には、意識しなくても自然とそれらのことができている状態を目指す。声には指向性があり、声を届けたい方向と距離を意識するだけで、声が届くようになることが少なくない(普段、我々はそれらのことを意識せずにおこなっている)。基本のトレーニングとセリフを話す時の意識の持っていきかたが重要。
以上の多くは、富良野塾で学んだことです。
私の師匠は「、」や「。」の位置を変えたり、語尾を変えたりしてしまうとセリフの意味やその人物の性格が変わってしまうので、台本に忠実に演じることの大切さを教えてくださいました。
私もホン読みの段階では、できるだけ台本に忠実に演じるように指導しています。
しかし、いざ立ち稽古に入ると「セリフを忘れて芝居を止めてしまうくらいなら、多少云い方が変わっても構わないから芝居を続けよう」と子どもたちに話しています。
この点、師匠の教えを守りきれていないことを告白しておきます。
山川 和宏(やまかわ かずひろ)
尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。
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札幌市立高等学校 教諭
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