なぜ算数を学ぶのか?「多様な思考や価値観に触れるため」(2)
算数を研究して18年間。様々なテーマで研究をしてきましたが、学校教育で算数を学ぶ意義が何なのかは、私なりの大きなテーマでした。これまでの研究を通しての私の見解を10個に整理し、ここに実際の算数指導とともに紹介させていただきます。
第2回の今回は「多様な思考や価値観に触れるため」です。
東京都品川区立学校 平野 正隆
はじめに
教師は「なぜ算数を学ぶのか」という学習の意義を理解したうえで授業を組み立てていく必要があります。そうすることで「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視した授業改善をすることができます。
また、児童も学習する意義を実感しながら学び進める必要があります。点数や偏差値、順位といった他者との比較ばかり気にして、本来身に付けるべき方向性を見失っている子が少なくありません。
果たして算数は、難しい問題を解いたり、テストの点数を取れたりすれば、それでいいのでしょうか。
もちろん、様々な問題を解く力は重要ですが、生きてはたらく力を育むためには、その過程で身に付く力があることも忘れてはいけません。
多様な思考や価値観を共有できる算数
異なる思考や価値観をもつ人々と出会い、交流することは、新たな視点やアイデアを得る機会となります。そして、社会的なつながりや理解を深めることができます。また、多様な思考や価値観を尊重することは、公正や平等の実現につながります。
算数科の学習では、ひとつの解を導くなかで、様々な解法が生まれます。ここでは、人によって考え方が違うことを実感するでしょう。
そして、あるときはそれらの中から効率的に解ける方法がどれなのかを考えます。しかし、どの方法が良いかは人によって意見が違うこともあります。そんなときは、価値観の違いを実感します。
またあるときは、それらの相違点や共通点に着目しながら統合的・発展的に考察していきます。全く違うように見えた意見にも、共通する部分があると、そこに「つながり」を感じるのではないでしょうか。
このように、算数の学習を通して、多様な思考や価値観に触れることができます。
指導の工夫
多様な思考や価値観に触れられるようにするためには、以下のような指導の工夫が考えられます。
・様々な解法を出し、それらを比較する。
解法の出す順番も大切です。私の場合は、共通点に着目しやすくなるような順番で出します。
例えば、「速さ比べ」の学習であれば、「時間」を単位量(1秒で◯m)や公倍数(20秒で◯m)でそろえるか、「道のり」を単位量(1mを◯秒)や公倍数(60mを◯秒)でそろえるかして速さを比較します。
「時間」を単位量でそろえた意見(B)を最初に出した場合は、「時間」を公倍数でそろえる意見(A)か「道のり」を単位量でそろえる意見(D)を出します。
時間や単位量という共通点に気付きやすくなり、最終的には「道のり」を公倍数でそろえるという、全く違う意見にまでたどりつきます。
・算数を使って議論するような問題を扱う。
算数の学習を生かして得られた結果から考えるよう問題では、多様な価値観に触れることができます。
5年生「割合のグラフ」や6年生「資料の整理」では、班で協力して実際に友達にアンケートをとるなどして得られた結果を表やグラフに表す授業をしました。
テーマはどうするか、どうまとめるか、どうしてそういった結果が出たのか、どのように発表するかなどといったことを班で話し合います。
その過程のなかで、多様な価値観にふれること間違いなしです。
実践「三角形や四角形の面積」(第5学年)

筆者作成
「三角形や四角形の面積」(5年生)では、未習の図形の求積を既習の図形に変形して行います。その際、倍積変形や等積変形といった手法を用います。
例えば、三角形の求積では、倍積変形や等積変形で平行四辺形にしたり、長方形にしたりします。様々な解法が出ているなかで、共通点や相違点に着目していくと、式の数値が「底辺」「高さ」を使っていることや「÷2」が必要であることに気付きます。どの考え方にも、それは共通して見られることから、公式が導かれていきます。
このような場面は、生活場面でも生かせると思います。一見、異なる意見と思われるものでも、実は目的や目標は同じだったってこともあります。
算数の学習の中で、共通点に着目しながら統合的にまとめていくのは、まさしく異なる手法やアプローチの背後にある共通の理念や目的を理解することと似ているのではないかと私は思うのです。こうした思考は相互理解や協力を促進する上で重要です。
まとめ
算数の学習をする中で、自分には思いつかないような考え方を知ったり、考えやすさは人によって違うことを感じたりすることができます。
算数を通して、多様な思考や価値観があることを実感し、自らの思考の幅を広げるとともに、他を理解しようとする態度を養っていきたいです。

平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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