アメリカの学校行事~伝統行事の比較「文化遺産継承月間」を用いたProject Based Learning ~(2)
学校行事(2)では、ハロウィンや感謝祭、クリスマス、お正月など、ホリデーシーズンにまつわる祝い事、伝統行事が「学校」の授業でどのように取り上げられているか紹介します。
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃
メキシコの「死者の日 Day of the Dead / Dia de Muertos」と日本の「お盆」
アメリカンスクールで教え、沢山の子どもたちと接していくにつれ、子どもたちのほとんどが、世界各地からやってきた移民であり、その子孫であるということを学校生活を通して私は日々体験しています。それを垣間見られるのが、Cultural Heritage Months 「文化遺産継承月間」です。
移民の国アメリカでは、それぞれの祖先やその歴史・文化を重んじ、学び合い、理解し合い、互いに敬うことのできる月間祭があります。例えば、9月15日から10月15日までの一か月間はヒスパニック文化遺産月間です。ヒスパニック系アメリカ人が文化、経済、政治に貢献してきたことを称え、スペイン語圏にルーツを持つアメリカ人の伝統と文化を祝う月になります。学校によっては伝統パフォーマンスをステージで開催したり、朝のアナウンスメントでその歴史や文化を紹介したり、クラスにゲストスピーカーを招いたりします。
またメキシコでは、10月31日から3日間行われる「死者の日」がありますが、これは家族や友人が集まって亡くなった人への思いを忍ばせる日で、それは何とも日本のお盆の習慣によく似ています。10月31日といえば、ハロウィンはアイルランドの宗教的なお祭りが起源になっていますが、メキシコのこのお祭りは、ディズニー / ピクサーの映画「リメンバー・ミー」を思い浮かべると、より理解できるかもしれません。
この時期になると、私は同僚のメキシコ系アメリカ人教師と、高学年を対象に特別授業( Project Based Learning / Collaboration Teaching) を行っています。子どもたちはまず、写真にあるベン・ダイアグラム図を用い、メキシコ「死者の日」と日本の「お盆」の行事の相違を理解していきます。双方の共通している事柄は中央の重なった部分に明記していきます。互いに一万キロも離れているメキシコと日本。でもこの伝統行事の文化遺産継承学習では、亡くなった家族や親族の思い出の写真を飾ったり、先祖を敬い仏壇にお供え物をしたりといった、両国共通の作業を発見することができます。その後、グループに分かれて、その他に似たような伝統文化行事がないかリサーチし、プレゼンテーションするといった事にも展開していきます。様々な相違が理解でき、子どもたちは一喜一憂します。
その他の文化遺産継承月間として、5月のアジア・太平洋諸島系米国人文化遺産月間などもあります。
感謝祭 (Thanksgiving Day) からクリスマスへ “Happy Holidays!”
アメリカでは、11月の第4週木曜日の感謝祭(Thanksgiving Day)から1月初旬までが「ホリデーシーズン」です。この間、感謝祭、クリスマス、正月といった伝統的宗教的行事があります。
11月の感謝祭は、収穫を祝い、家族が集って食事を分かち合えることに感謝する国民の休日となっていて、各家庭で集う風習があります(感謝祭を祝わない家庭もあります)。感謝祭の起源やその成り立ちについては教科で学ぶこともあります。コロナ以前は、感謝祭祝日の週には、学級・学年で七面鳥やその他の感謝祭にまつわる料理、デザート等を保護者が持ち寄り(ポットラック)、皆でわいわい食べるといった光景が教室や廊下でよく見られました。
12月になると、日本ではクリスマスがありますが、アメリカではクリスマスはキリスト教の祝い事で、宗教的なイベントです。他にユダヤ教の祝日である「ハヌカ」(Hanukkah)や、アフリカン・アメリカンの文化を祝う「クワンザ」(Kwanzaa)などの風習もあります。そしてイスラム教ではそのような行事はありません。多文化、多民族、多宗教の環境で育つ子どもたちは、それぞれの家庭でそれぞれの風習を祝います。
学校では総括的な学びの一環として、”Christmas Around the World” 「世界中のクリスマス事情を調べてみよう!」という学習があります。社会科の生涯教育の一環のようなもので、世界の国々はどのようにホリデーシーズン、クリスマスシーズンをお祝いするのかというProject Based Learning です。以前、「日本ではクリスマスにケンタッキーチキンとクリスマスケーキを食べるそうです」と発表した4年生がいました。私たち日本人はそう思われていることをその時初めて理解しました。
もう一つ、大切なことですがアメリカの家庭では、様々な理由から祝い事や祭りを行わないといった家庭もあります。よって、そのような授業がクラスの予定表にある場合には、担任は事前にその家庭に了解を得る連絡をします。もしくはその授業に子どもは参加しなくてもよい(クラス担任は、その子どもが授業中、別の学習ができるような代替案を作ります)といった細かい配慮がなされます。冬休みが明け、1、2月になると、アジア系アメリカ人の家庭では新正月、旧正月を祝います。冬休みの後、私の文化クラスでも、日本の伝統行事、お盆やお正月、初詣、初参り、十二支等をクラスで紹介します。学習に参加しない子どもたちの家庭事情を配慮し、違う学習プリントを準備したりします。
以前、「私たちの住む日本では、結婚式は教会で、子どものお宮参りは神社で、お葬式は仏教で行う家庭もあります」と同僚に話をすると、宗教や伝統的風習に寛容な私たち日本人の習慣にびっくりしていました。
次回は学校の規則、学級運営をもう少し詳しく取り上げます。
下條 綾乃(しもじょう あやの)
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。
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