2023.03.03
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英語劇の指導の工夫について〜ESSから学ぶ英語劇〜

前回、ESS(English Speaking Society)という団体が英語教育に果たした影響について紹介しました。ディスカッションやディベート、スピーチに加えて、ドラマと呼ばれる英語劇が有名です。前回に引き続き、英語劇についての実践を報告します。発声練習〜台本の暗記〜演技付け、小道具・大道具・字幕の指導について紹介します。

浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹

発声練習〜子どもたちの声の土台を築く〜

英語劇は、体育館で発表をすることが多いと思います。体育館全体に声が響き渡るようにするためには、日本語でもかなりの練習が必要となります。声を出すためには、広い空間を意識して大きな声を出すという経験を積む必要があります。そこで、練習時間の冒頭で発声練習をすることを推奨します。

発声練習は、音楽科の学習などでも少し膝を曲げた状態で腹式呼吸を用いて行われることがありますが、演劇でも必須の練習です。私は、2種類の発声練習を行うようにしています。それは、5秒という短い時間で大きな声を出す練習と、30秒ほどの長い時間を小さな声で良いので一息で出し切る練習です。どちらも「Ah~」という音で良いので、毎回継続的に練習をします。そうすると次第に子どもたちの声が大きく、そして長いセリフも一息で言い切ることができるようになっていきます。できれば、発表の前から早めに発声練習だけでもスタートするとより良い声の土台が築けるのではないでしょうか。

また、早口言葉なども取り入れると英語特有の音の練習になります。調べてみると多くの早口言葉があります。今回の劇ではsやshの台詞が多かったので、「海岸で貝殻を売ります」という意味の有名な早口言葉である「She sells seashells by the seashore.」を活用しました。こうした発声練習や早口言葉を継続的に練習時間の初めに行うようにします。

台本暗記〜登場人物の心情を想像させる〜

さて、実際に台詞を暗記していく中で、重要になるのが登場人物の心情をきちんと理解しているかということです。前回、発音はALT(外国語指導助手)の方などに事前にGIGA端末などで録音してもらうと良いとお伝えしましたが、発音がどれほど上手だろうとも感情が込められていなければ「棒読み」と言われる状態になってしまいます。

近年では、かつてのような行き過ぎた発音指導が問題視されることが多くなっています。英語という言語をコミュニケーションツールの一つであると考えた場合に、ネイティブのように発音することが目的ではなく、話者の思いや考えが通じることが重要という考え方が広まるようになりました。

そこで、重要なのが登場人物がどのような思いや考えでその台詞を話しているかをきちんと考えて演技をすることです。国語科の物語文の指導では、登場人物の気持ちを想像することがよく行われます。国語科での学習を想起させることで、子どもたちは登場人物の気持ちを考えやすくなるのではないでしょうか。

登場人物のキャラクター性に迫ることで台詞を暗記していく過程で言葉が生き生きとしていくはずです。英語劇ですので、英語のセンテンスや構文を理解していないことも多いでしょうが、簡単な単語だけは分かると思います。重要な単語を大きな声で言ってみるなどの工夫につなげることができるでしょう。

演技付け〜登場人物同士の関係と主題を理解する〜

台詞の暗記が進んだら、いよいよ登場人物同士の演技を考えていく段階になります。ここで重要なのは、登場人物同士の相関関係や話の主題をきちんと理解しているかという点です。前段で、物語文の指導に通じる部分があるのではないかという提案をしましたが、まさしくこの点も国語科の物語指導の真髄につながります。

私は、自分自身の子どもが子役事務所に所属していたため、CMやドラマなどの撮影現場を訪れる機会に恵まれました。子役の撮影現場では保護者が付き添い、体調管理や演技付けのフォローを行っているのです。

こうした現場で感じたことは、演技の上手な子どもたちは登場人物の関係を理解し、主題をきちんと把握しているということです。子役事務所のレッスンでは、エチュードと呼ばれる即興の演技練習などで、繰り返し相関関係をつかむことと、この話は何をテーマにしているのかということを訓練していきます。きちんとこの2点を理解していくうちに、全体の演技の中で、自分の役割は何かを考えながら演技をするようになります。

現在学級で取り組んでいる「ピーターパン」の演技では、「大人にならない」という選択を何十年も続けるピーターパンや、子どもしか入ることができないネバーランドの特殊性について考える機会を設けました。有名な作品は、既に映画化されているものも多いので、演技付けの前に学級全体で視聴しておくのも手かもしれません。私の学級でもピーターパンの映画を見ながら、少しずつウェンディがネバーランドへの気持ちを変化させていく様子を捉えさせました。

すると、子どもたちの中から「話の前半と後半でピーターパンへの態度を変化させよう」と互いに演技を議論する姿が見られました。ウェンディらが少しずつ大人になろうと思う気持ちを表現しようと、アドリブを数多く入れるようになるなど、一生懸命工夫を凝らしていました。

このように互いの関係や主題を理解することで、演者同士が互いに議論をしながら演技をより良くしていくことができます。教師が一方的に演技を押し付けるよりも、主体的に演技を考えることができると思います。

小道具・大道具・字幕〜縁の下の力持ち〜

劇を支えるのは演者だけではありません。小道具や大道具、そして英語劇の場合には字幕も重要な存在です。小道具の子どもたちには、演者の演技を見ながらどのような道具が必要なのかを話し合ってもらいます。ピーターパンでは、「フック船長」というキャラクターが登場します。手がフックになっているので、そのフックをどうするかを小道具同士で話し合ったり、フック船長役の子と相談したりしていました。

練習時には、担当として用意した剣やステッキなどで友達がバトルシーンを演じている姿を誇らしげに見ている姿が印象的でした。人前に出るのは気恥ずかしいという思いを持つ児童でも、劇全体の中で自分自身の力を発揮できたという思いはこれからの糧になるでしょう。折を見て、学級全体でもこうした子どもたちの思いを紹介していきたいものです。

実際の映画などでは、エンドロールに制作に携わった人々の名前が紹介されます。英語劇では、字幕をつける場合が多いので、その字幕の最後にこうした縁の下の力持ちを担った子どもたちを写真付きで紹介すると良いと思います。英語劇は、学級全体の努力の結晶なのだということを改めて理解することができるでしょう。

終わりに

今回は、英語劇の指導について触れました。音楽科、国語科との関連、そして学級での自分の役割を考えることにもつながる英語劇の素晴らしさ。ぜひ読者の皆さんも、機会があれば実践してみてはいかがでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございました。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立美浜北小学校 教諭


一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。

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