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『ステップ! ステップ! ステップ!』……学校教育に社交ダンス!? 子どもたちの奮闘と成長を追った真実のドラマ

『ステップ! ステップ! ステップ!』……学校教育に社交ダンス!? 子どもたちの奮闘と成長を追った真実のドラマ
映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育問題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は、NYの小学5年生たちが社交ダンスに挑む姿を追ったドキュメンタリー『ステップ! ステップ! ステップ!』です。
Movie_Data
データ
監督・製作:マリリン・アグレロ/出演:第115校ワシントンハイツ、第112校ブルックリン、ベンソンハースト、第150校トライベッカの各子どもたち、ほか/3月11日よりVIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズほか全国にて公開
(C)2005 PARAMOUNT CLASSICS, a Division of PARAMOUNT PICTURES All Rights
Reserved
ストーリー
今から10年前、NYの公立小学校に導入された児童育成プログラム「ダンシング・クラスルーム」。現在、60以上の学校で小学5年生を対象に10週間、各1時間×20回という社交ダンスのレッスンが義務づけられている。子どもたちは初めてのステップに戸惑いながらも、履修後に開催されるダンスコンテストの優勝を目指し日々レッスンに励む。そんな彼らに愛情を注ぐ教師たちも次第にヒートアップ。そしてついにコンテストの幕が開き……。

 約10年前、ニューヨークの公立小学校では5年生の情操教育の一環として社交ダンスのプログラムが導入され、今では60以上の学校がその10週間のコースを取り入れているそうです。履修後には毎年コンテストが開催され、子どもたちはたった一つの勝利を目指してレッスンに励みます。
本作はその様子を参加校のうち数校に視点を置いて追ったドキュメンタリー。といっても、退屈で堅苦しい内容ではなく、ワクワク、ドキドキと最高に楽しめる作品です。その面白みの一つが登場する学校のカラー。それぞれ地域や人種、先生のキャラクターなどによって、豊かな個性を放っています。

 そもそも大都会ニューヨークには、社会的にも経済的にも複雑で困難な環境に育つ子どもが多いのですが、中でも第115校のあるワシントンハイツ地区は犯罪多発地域。ドミニカ系移民が大半を占め、貧困家庭の割合が97%、片親の家庭も多数。半面、人々は自分たちの文化に対する愛情が深く、同校の教師・ヨマイラ先生(女性)も「ダンスコンテストでドミニカ人の意地を見せてやる」といった、ド根性と誇りの高さが持ち味。何しろ、同校は昨年金賞を受賞したため、「今年こそ優勝、絶対勝つ!」と先生の鼻息も荒い。練習はかなり厳しく、子どもたちはバテバテになりながら必死になってついていきます。かなりのスパルタ指導といえますが、先生のゴッドマザー的な魅力と、「必ず勝つ!」という目標意識の高さ、そして勝つための方法論がその熱血指導に表れ、的確に子どもたちを勝利へと導いていくのです。観ていて、思わずガッツポーズ! 先生のファイティング・スピリッツがチーム全体の牽引力となり、全員が心一つにして突き進んでいった結果といえるでしょう。

 トライベッカにある第150校のカラーは独立独歩。子どもたちは決してバラバラでも仲が悪いわけでもないのですが、それぞれ自分の考え方を持ち、それをクールに語れるような大人っぽさを持っています。彼らを率いるのは若いアリソン先生(女性)。私は彼女を"泣き虫先生"と呼びたいと思います。選抜メンバーを決める段階ですでに「みんなを出場させたいわ。選ぶことなんてできない」と言っては涙ぐむのですから。

 同校もコンテストに向けて一生懸命練習し、頑張りました。しかし、残念ながら初戦敗退。原因はおそらく、第115校ほどのモチベーションの高さと勝つための方法論を持ち合わせていなかったため。それほどこの大会のレベルは高いのです。勝敗が決まった後の反省会で、子どもたちは口々に「私たちは上手だった」「ミスは一つもしなかったし、正しく踊れたわ!」「なのに、なぜ負けたの?!」「なぜ、なぜ?」と発言し、苦悩します。先生は「あなたたちは本当に素晴らしかったわ。この経験はこれからの人生にきっと役立つわ」(これは事前に「負けた子どもたちにどう接するか」という先生同士のミーティングで出されたアイデア)と言いながら、もうグシュグシュ……。そこからあとはクール派も泣き虫も全員、涙、涙の大合唱。彼らは目に見える形での「勝ち組」にはなれなかったけれど、頑張って、挫折して、先生とともに思いっきり泣きじゃくるという、何物にも代えられない貴重な体験をしたのです。なんて豊かな教育なのでしょう。ここでは、観ていて思わずもらい泣きしてしまいました。

 本作のもう一つの魅力は、練習シーンの合間に映し出される"生身の11歳"の姿。たとえば第115校の女の子は「結婚する相手は、大学を出てきちんと仕事に就いている人。何もしないでフラフラしている人はヤクの売人になって、身を持ち崩すのよ」と理想の夫像を語り、第112校の男の子は「結婚とは尊敬し、愛し合える相手と共に暮らし、家庭を作り、子どもを育てることだ」と結婚観を語ります。かと思えば「男子は練習に今一つ熱心じゃない」と女の子同士で不平を言ったり、「女の子って、やっかいだよ。告白するのも男からって決めているしサ」と男の子同士で文句を言ったり。時に鋭く、時に無邪気に、将来の夢や恋愛観、人生観を飾らない言葉で語る子どもたちに思わず噴き出したり、感心したり。

 

 また、初めての社交ダンスに戸惑いながらも、プログラムを通してだんだん成長していく子どもたちは、みんな抱きしめたくなるほど愛らしい! たとえば、彼らが学ぶものの一つに礼儀作法があります。社交ダンスは"紳士&淑女"の競技であるため、パートナーへ挨拶すること、その目を見つめながら踊ること、いつも笑顔でいること、そして服装に気を配り、男子はシャツの裾をきちんとパンツの中に入れることなどはマナー。今や男子児童・生徒にとってシャツ出しルックは、流行りの一般的な服装ですが、本来何が正しい外観かなんて知らない彼らに、社交ダンスは正当派の作法を教えてくれます。教室で服装指導をするよりも、ずっと説得力があるかもしれません。

 さらに、思春期の子どもたちは異性のパートナーと組み、接近し、相手の目を見つめるようにと指導されることで、始めはどぎまぎしますが、やがて踊る楽しみや喜びを分かち合い、チャレンジに情熱を傾けるようになっていきます。子どもの顔から"紳士&淑女"へと変貌していくのです。

 コンテストという目標の下、社交ダンスを教えることで、こんな素晴らしい成長のダイナミズムが起こるとは! 日本でも、文部科学省認可の公益法人・(財)JBDFによって全国81か所のジュニアスクールが開校され、子どもたちへの社交ダンス指導は広がりつつあります。「社交ダンスは大人が趣味でやるもの」と思っている方も、本作で生き生きと踊る子どもたちの姿をぜひ一度ご覧ください。そこには教育そのもの、教育の本質が描き出されています。
(取材・文:宝子山真紀)
(写真提供:ミラクルヴォイス 写真の無断使用を禁じます)


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