2024.04.26
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新刊『インクルーシブな教育と社会 はじめて学ぶ人のための15章』

インクルージョンという概念のもつ課題と取り組みを最新の研究成果により解説した教科書・入門書・手引き・実用書です。専門的なトピックスや海外の研究にも踏み込んで紹介しています。

すべての子どもを学校から排除しない

伊藤先生より

本書はインクルーシブ教育や共生社会についてはじめて学ぶ方々向けに執筆した教科書です。大学の授業はもちろんのこと、高校生の探究の授業や関連する大学への入学を希望される方は入試対策にもお使いいただけるように意識しました。

先般、本サイトでもご紹介いただいた『インクルーシブ教育ハンドブック』(北大路書房)は主に研究者や大学院生向けに翻訳出版したものですが、この中で示されているさまざまなエッセンスは、この『インクルーシブな教育と社会』の中にも各所に含まれています。もしこの教科書を読んで、より深めていきたいと思ってくださった方は、『ハンドブック』についてもぜひ手に取っていただければと思います。

ところで、本書で紹介しているトピックは決してインクルーシブ教育や共生社会で論じなければいけない内容を網羅できているわけではありません。実際に私は編著者あとがきの中で次のことを記しました。

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本書は教育や社会を取り巻くインクルージョン、もしくはエクスクルージョンの問題を考えるための「入り口」である。本書に取り上げられていないが、インクルーシブな教育と社会を考える上で欠かせない問題を考え始めれば枚挙にいとまがない。この「あとがき」を書いている時も、イスラエルとパレスチナの情勢が急速に悪化し、多くの死者を出してしまう事態が発生した。率直に言って、インクルージョンの問題を追究すればするほど、その実現に向けた道のりが果てしないもののように思えてしまう。

とはいえ、そうした状況に手をこまねいていても何も進展しない。少しでもインクルーシブな教育と社会の実現に向けて歩みを進めるためにも「仲間」を見つけていかなければならない。そうした思いで、本書の完成をめざしてきた。本書を手に取ってくださった皆さんが仲間となり、社会の様々な問題の解決に向けて取り組みを進めていってくれることになれば、執筆者一同これに勝る喜びはない。
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日本はもちろん国際社会を見渡してみれば、果たしてインクルーシブ教育や共生社会など本当に実現できるのだろうかと思ってしまうことも少なくありません。ただ同時に各地で奮闘している人々がいることも事実であり、ぜひ本書を通して学んでくださった皆さんがそうした人々と連帯し、より良い社会をめざす「仲間」になってくれればと思います。ぜひともご一読ください。

目次

はじめに

第Ⅰ部 インクルージョンとは何か
第1章 インクルージョンの歩み(吉井涼)
 1 インクルーシブ教育と障害者権利条約
 2 すべての子どもを対象としたインクルーシブ教育
 3 社会的排除への闘いとしての社会的包摂
 4 障害児教育における分離・統合問題
 5 終わりのないプロセスとしてのインクルージョン
第2章 インクルーシブな社会と教育の原理──日本社会のマイノリティに着目して(濱元伸彦)
 1 マイノリティと社会的排除
 2 マイノリティの支援とその課題
 3 インクルーシブな社会と教育に向けて
第3章 マジョリティという観点からインクルージョンを考える(伊藤駿・村上詩織・中西美裕)
 1 排除/包摂は誰の問題なのか
 2 事例1:人種差別をなくす実験授業
 3 事例2:ギフテッドの子どもたち
 4 インクルージョンに向けたプロセスをすすめるために

第Ⅱ部 マイノリティと教育
第4章 障害児と教育(堀家由妃代)
 1 「医療化」する私たちの日常と障害児の排除/包摂
 2 近代障害児教育の発展
 3 学校教育における障害児者の排除や包摂の仕組み
 4 障害者の排除/包摂から考えること
第5章 移民背景をもつ子どもと教育(金南咲季)
 1 身近な他者との出会い直し──留学や英語を通じて出会う「外国人」?
 2 多民族・多文化化する日本
 3 前提とされない「教育を受ける権利」
 4 日本の学校に存在する壁
 5 「変わらない」を変えるために
第6章 家族と教育(高橋味央)
 1 社会変動と家族の多様化
 2 家族を取り巻く問題の複雑化
 3 貧困層の子どもと学校教育
 4 学校教育に求められる包摂的な取り組み
第7章 性的マイノリティと教育(土肥いつき)
 1 性的マイノリティをめぐる教育の状況
 2 性的マイノリティとは誰か
 3 トランスジェンダー生徒が経験する困難
 4 学校の中の性別分化とトランスジェンダー生徒のジェンダー葛藤
 5 学校における性別カテゴリーと性的マイノリティ
第8章 不登校と多様な教育機会(伊藤秀樹)
 1 不登校の社会モデル
 2 不登校の現在
 3 不登校と排除
 4 多様な教育機会の確保
 5 インクルーシブな教育・社会に向けての課題

第Ⅲ部 諸外国におけるインクルージョンと教育
第9章 アメリカ(新谷龍太朗)
 1 公民権運動と教育政策
 2 教育政策の変遷とインクルーシブ教育の葛藤
 3 インクルーシブ教育の実際
 4 アメリカから何を学ぶのか
第10章 イタリア(大内紀彦)
 1 イタリアのフルインクルーシブ教育の特徴と歴史的展開
 2 通常の学校に障害児を受け容れる仕組み
 3 フルインクルーシブ教育を支える学校の仕組み
 4 フルインクルーシブ教育を支える仕組み──校外の関係機関との連携
 5 ICFの活用から見るイタリアのフルインクルーシブ教育の特徴──日本の教育との比較から
 6 イタリアの教育の課題
第11章 スコットランド(伊藤駿)
 1 なぜスコットランドに注目するのか
 2 スコットランドの位置付け
 3 スコットランドにおけるインクルーシブ教育制度
 4 スコットランドの特徴──付加的な支援のニーズ
 5 ある学校の事例──差異化の実践
 6 スコットランドから何を学ぶのか
第12章 オーストラリア(原田琢也・竹内慶至・濱元伸彦)
 1 オーストラリアにおけるインクルーシブ教育制度と新自由主義
 2 クイーンズランド州のインクルーシブ教育政策
 3 A小学校のインクルーシブ教育実践
 4 B中等学校のインクルーシブ教育実践
 5 新自由主義の潮流の中でのインクルーシブ教育の推進

第Ⅳ部 インクルーシブな教育と社会をめざして
第13章 インクルーシブな授業づくり(堤英俊)
 1 教師のなり手が不足する時代に
 2 インクルーシブな学級づくりにおける授業実践の位置
 3 インクルーシブな授業づくりの方法
 4 過度に無理のない取り組みを地道に続ける
第14章 インクルーシブな学校づくり(原田琢也)
 1 学校における「排除」の現実を直視する
 2 協働して学校文化を変革する──「効果のある学校」の創造
 3 「共に育ち共に学ぶ」──大阪の「原学級保障」
 4 これからのインクルーシブな学校づくりに向けて
第15章 インクルーシブなコミュニティと社会(本間桃里)
 1 リスク社会を生きる
 2 「多文化共生」と地域
 3 居場所づくり
 4 社会運動
 5 社会の問題としての個人の問題
おわりに
索引

新刊『インクルーシブな教育と社会 はじめて学ぶ人のための15章』

編著:原田 琢也、伊藤 駿
発行:ミネルヴァ書房
定価:3,080円(税込)
判型・ページ数:A5・284ページ

文・画像提供:ミネルヴァ書房

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