2023.07.24
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「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学び」を実現する授業づくり New Education Expo 2023 リポート vol.8

GIGAスクール環境を用いて、「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学び」をどう実現するか。今、先生方の関心はそこに集まっている。そこで今回は、文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わり、「主体的・対話的で深い学び」に関する多くの著書を出しており、全国各地の講演会に引っ張りだこの國學院大學の田村学教授に、実践事例をひもときながら、「深い学び」を実現するポイントを語っていただいた。

「令和の日本型学校教育の実現」に向け、今改めて「主体的、対話的で深い学び」を考える

國學院大學 人間開発学部 教授 田村 学氏
上越教育大学附属中学校 教諭 佐藤 大輔氏
上越教育大学附属中学校 教諭 中村 岳氏

知識が「つながる」と、深い学びに。 そのためにはアウトプットする授業を。

國學院大學 人間開発学部 教授 田村 学氏

「『主体的な学び』とは、自分で自分の学びをコントロールできること。『対話的な学び』とは、異なる多様な他者と対話すること。では、『深い学び』とは? ここで悩んでいる先生も多いのではないでしょうか」と、田村学教授は聴衆に語りかけた。

「深い学びとは、バラバラだった知識がつながり、ネットワーク化していくこと。知識・技能が関連付いて、構造化されたり身体化されるなどして高度化し、駆動する状態に向かうことです」

「知識の粒を固めて、塊にしていくイメージ」だと、田村教授は説明する。

今まで先生方は、知識を授けることに注力してきた。知識を教えることは今後も大切ではあるが、知識だけならネット検索すればすぐ手に入る。単に知識を知っている・覚えている状態から、複数の知識を自分でつなぎ合わせ、必要に応じて活用できる状態に深めていく。これが「深い学び」なのだ。

「つながった知識は、長期にわたって保持され、『定着』します。知識は、一夜漬けでは定着しづらいですが、何度もつなげて使っているうちに、定着していくのです。従来の反復学習も大事ではありますが、これからは、子どもが習得した知識をつなげながら活用していく授業が求められます」

知識をつなげるには、「アウトプット」が重要だと、田村教授は指摘する。
「インプットした知識を活用してアウトプットすることで、一つひとつの知識がつながってネットワークが構成され、知識の塊になっていく。使い勝手の良い知識になっていきます。

これまでの授業は、教師が教えるインプットに偏っており、インプットとアウトプットのバランスは8:2くらいだったかもしれません。今後は、アウトプットの部分にもっと重きを置いたバランスに変えていく必要があります」

先生が教えて知識をインプットさせる機会が、ゼロになるわけではない。インプットさせる時に留意しておきたいのは、子どもが知識を獲得する時、「その知識を学んだ時に抱いた感情も付いてくる」ことだと、田村教授は言う。

「知的好奇心を刺激され、ワクワクした記憶が付帯しているか。それとも、嫌々覚えさせられたのか。前者の知識のほうが、より使われやすく、ネットワーク化されやすいのです」

「個別最適な学び」の「前と後」に 何をするかが重要

続いて田村教授は、「個別最適な学び」を実現する方法も解説した。「GIGAスクール環境を用いれば、個別最適な学びを行いやすくなる」と、田村教授は言う。

「たとえば小学校の音楽鑑賞の授業をイメージしてください。過去の授業では、スピーカーから流れる音楽を、みんなでいっしょに聴くしかありませんでした。しかしGIGA端末を使えば、一人ひとりが自分のペースで鑑賞できます。気に入った箇所を、繰り返し聞くことも容易です。子どもにとって非常に魅力的な学習が可能となり、主体的に学習に取り組めるようになります」

「個別最適な学び」を考える時、「幼児教育にヒントがある」と、田村教授は指摘する。幼児教育では、一人ひとりが好きなことをして学ぶのが当たり前であり、そのための教具や教材、そのレイアウトなどの学習環境をしっかり整えている。

「一人ひとりが『最適な』学びを行える環境や状況を整えましょう。たとえばAさんは友だちに相談したい、Bさんは先生に質問したい、Cさんは教科書を見ながら一人で学びたい。一人ひとりが最適だと思える学びに、すっとアクセスできる環境や教室の雰囲気を作りましょう。その上で、一人ひとりにどんな学びが起きているか、最適な学びになっているかを、教師が丁寧に見取っていくのです」

個別に学ぶ「前と後」も重要だと、田村教授は強調する。

たとえば、個別に学ぶ「前」に、学習の目的や課題をハッキリさせる。学びのプロセスやゴールも、みんなで確認しておく。上越教育大学附属中学校では、「目標設定」「手段構築」「比較検討」「準備試行」「客観分析」という5つのスキルを「自己調整」スキルと定め、このサイクルを生徒が自分で調整しながら回せる力を育んでいるという。また同校では、学習成果を評価するルーブリックも、学ぶ「前」に決めて周知している。「学びの目的、方法、ゴールがハッキリ見えていれば、子どもは自律的に学んでいく」と、田村教授は語る。

そして学んだ「後」には、みんなで学びを振り返り、対話する。自分の学習をアウトプットし、他者の学習をインプットすることで、知識がつながり、ネットワーク化されていくのだ。

上越教育大附属中学校での実践事例

上越教育大学附属中学校 教諭 佐藤 大輔氏

具体的に、どのような授業を展開すればよいのか。上越教育大附属中学校英語科の佐藤大輔先生と中村岳先生が、授業事例を報告した。

まず、パフォーマンス課題(自分の持つ知識やスキルを活用することで、解決する課題)を設定する。「台湾の中学生とお互いの文化を紹介し合う」「留学生からヒアリングして、外国人向けの観光マップを作る」など、これまで習得した英語の知識を活用し、外国人を相手にアウトプットする課題を同校では設定している。

「ルーブリックも、学習前に決めて、生徒たちに周知しています。たとえば、『B評価:日本文化について紹介できる。A評価:相手が知りたいことを確認し、わかりやすく伝える』といった具合です。課題とゴールを示すことで、個別最適な学びを自律的に進めやすくなるのです」(佐藤先生)

上越教育大学附属中学校 教諭 中村 岳氏

学習後の「振り返り」も重要だ。たとえば1回目の交流学習後に、交流で得た情報を、ポスターにまとめてクラス内で見合い、意見交換する。伝えたいのに伝えられなかった英語表現を、付箋ツール等を使ってクラス内で共有し、次回に備えて練習する。学んだことを選別しながら構造化してアウトプットし、他者と対話しながら知識をつなげていく工夫が、凝らされている。

「単元の最後には、『自己調整振り返りシート』を使って、『比較検討』や『準備試行』といった自己調整スキルのうち、どのスキルをよく使えたか、次にどう活かすかを、一人ひとり振り返らせています。これは英語に限らず、どの教科でも行っています。こうしたスキルが身についていくと、個別最適な学びを自分で進められるようになっていきます」(中村先生)

こうした異文化交流学習を通して、生徒たちは英語をツールとして使う大切さに気づき、インプットとアウトプットの繰り返しで英語の知識がネットワーク化され、実践で使いやすい状態へと成長している。つまり、「深い学び」になっているのだ。

最後に、田村教授はこう語りかけた。
「これまでの実践をすべて捨てる必要はありません。過去の実践を活かしながら、時代に合った、よりよい教育を作っていきましょう」

記者の目

「個別最適な学び」と「深い学び」の実現は、教育現場の重要関心事ではあるが、いったいどんな学びを指すのか、そのイメージを掴むのに苦労している先生も多い。田村教授は、明快な説明でそのイメージを与えてくれるとともに、そのために必要な授業像まで教えてくれた。講演を聞いていた先生方も、質疑応答の時間になると次々と挙手して質問を投げかけていた。「今すぐ、自分の授業に活かしたい」。そんな熱気が、会場にはあふれていた。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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