2024.04.15
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意外と知らない"デジタル読解力"(第2回) ICT活用の現状と課題

第2回では、第2次「PISAショック」を受けて国立教育政策研究所が実施した海外調査や、2021年度に文部科学省が実施した情報活用能力調査の結果などを紹介します。PISA2022で読解力の順位が回復した要因2の「生徒がコンピュータを用いたテストに慣れてきた」という点にも注目してみましょう。教育の電子化に遅れをとってきた節のある日本ですが、GIGAスクール構想が実現し、活用の仕方の工夫から、教育DX化推進の段階にきています。

北欧諸国を参考に

国立教育政策所は、PISA2015の結果を受けて、読解力の向上に向けた施策の一環として、順位を上げた北欧諸国の教育におけるICT活用についての調査を実施しています。2009年のPISAデジタル読解力調査でも、国語の授業におけるコンピュータの使用について、日本は99%が「ない」と回答したのに対し、デンマークは41%が、ノルウェーは32%が、スウェーデンは19%が週に31分以上と回答しています。

国名
PISA2012→
2015の順位
学校でインターネットを1日に1分以上利用する
学校の勉強のために週1回以上インターネットを見る
週1回以上コンピュータを使って宿題をする
デンマーク
25位→18位
91.66%
89.18%
90.02%
エストニア
11位→6位
85.47%
45.43%
53.36%
フィンランド
6位→4位
90.28%
51.47%
23.34%
ノルウェー
22位→9位
(ICT 活用調査不参加)
日本
4位→8位
49.18%
15.58%
8.90%

報告書によれば、この調査が行われた2017~2018年頃は、日本ではまだ「子どもにICTを教えるために何をすればよいか」を重視していましたが、これらの国では「子供によりよい教育を提供するための最良のツールだから ICTを活用している」という段階にあり、日本では「ウィズコロナ」の2022年度頃から話題になり始めた、学習情報管理システムや、オンラインで受検する全国的な学力テストが既に導入されていたようです。

デンマークの2~8年生が受けるテストには次の特徴があったそうです。

  • 各生徒がWeb サイトにログインして受験する。
  • 解答は自動的に採点される。翌日には教師が個々の児童生徒の得点を確認できる状態となる。(記述式は人が採点)
  • 個々の児童・生徒の解答状況に対応して出題問題がリアルタイムで変化する適応型テストである。

同じシステムで、教員が無償・有償で提供されている単元テストや教材を児童生徒に配信したり、保護者が学校からの連絡や成績を確認したりできるとあります。日本で始まった「学習eポータル」*や、文部科学省CBTシステム(MEXCBT・2023年11月時点で公立小学校の80%、公立中学校のほぼ全てが登録。全国学力・学習状況調査の一部や、各教育委員会の学力調査に利用されている。)のモデルの1つです。

学習eポータル…IGAスクール構想で整備された一人一台環境と高速ネットワークを活かし、ソフトウェア間の相互運用性を確立してユーザーにとっての操作性を向上させるとともに、教育データをより良く活用するために構想された、日本の初等中等教育向けのデジタル学習環境のコンセプト。2024年4月現在、L-Gate(株式会社内田洋行)、Open Platform for Education(日本電気株式会社)、まなびポケット(エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社)、Studyplus for School(スタディプラス株式会社)、Qubena(株式会社COMPASS)、みらeポータル(株式会社ネットラーニング)、tomoLinks(コニカミノルタ株式会社)、R-Station(株式会社両備システムズ)、Benesse School Portal(株式会社ベネッセコーポレーション)、スクールライフノート (株式会社EDUCOM)の10システムが学習eポータル標準モデルに準拠しており、文部科学省CBTシステム(MEXCBT)に接続できる。

IT大国 エストニア

あの「Skype」を生み出したエストニアの項目では、ICTに特化した教員研修や、年齢や学習進度に合わせた細かいデジタル・コンピテンスの目標(日本の「情報活用能力の体系表例」に相当)、9・12年生のICT スキルを測る全国テスト、各学校がICT活用について自己評価をすることができるツールなどが紹介されています。下記の自己評価基準は、日本の教育DX推進にも求められる観点でしょう。

  1. 代替:従来の指導法の中でデジタルツールが利用されているか。
  2. 強化:新しい指導法がデジタルツールを利用して試行されているか。教員間でその情報交換がされているか。
  3. 改善:学校での学習体制が科学的な証拠に基づいた枠組みにより変革されたか。その変革に児童生徒が関わっていたか。
  4. 統合:テクノロジーが学校活動や学習で広く利用されているか。その過程で児童生徒は自身の学習環境について主体的に意見を述べ、実際に行動しているか。
  5. 応用:学校内だけでなく、あらゆる学習活動がデジタルで行われているか。効率的な学習法が開発され、児童生徒が自身の学習計画に責任を持ち、生徒同士で教え合うことができているか。

バルト三国の1つであるエストニアの面積は日本の約9分の1(九州より少し大きい)、人口は約136.5万人と、東京都の人口の約1/10ほどですが、1991年にソ連から独立後、一貫して「国全体のIT化」を推進してきて、現在、世界で唯一、国政選挙が電子投票で行える国です。

フィンランドを参考に教育改革を進め、1996~2006年「タイガーリープ計画」では、1997年に約4000人の教師(教師人口の約 30%)が40時間のICTトレーニング講座を受講し、全ての学校の教室内に2000年に情報端末を、2001年にインターネットを整備しました。開始当初、パソコンは平均月給の 4~5 倍の値段がするほど高価で、国内でインターネットに接続しているパソコンは 659 台だけだったことを考えると、まさに「虎のひと飛び」です。その後も国の予算を割いて、世界に先駆けてプログラミング教育(2007~2012年「プログラミングタイガー」)や、STEAM教育(2013~2030年「Eesti 2.0」)などを推進しています。

PISA2022のICT活用状況調査の結果

日本がOECD平均を上回った項目は、学校でのICTリソースの利用しやすさ(OECD加盟国29か国中5位。学校にはインターネットに接続できるデジタル機器が十分にある、学校には生徒全員のために十分なデジタル・リソースがあるなど)と、情報モラル(インターネット上で情報を検索するときは、 様々な情報源を比較する、インターネット上の情報をSNSで共有する前にその情報が正しいかどうか確認する など)でした。

一方で、各教科の授業でのICTの利用頻度は他国に比べてまだ低く、高校生自身が情報を集める、集めた情報を記録する、分析する、報告するといった場面でデジタル・リソースを使う頻度はOECD加盟国中最下位という結果でした。

令和5年(2023)度の全国学力・学習状況調査では、中学校3年生の28.9%が毎日、32.6%が週3回以上1~2年の授業でPCやタブレットなどを使用したと回答しています。公立高等学校でも2024年度中に1人1台端末が整備される(自治体により保護者負担)予定なので、PISA2025では向上するのではないでしょうか。

情報活用能力調査(令和3年度実施)の結果

2022年1~2月に実施された情報活用能力調査では、下記のような課題があったそうです。

小学校5年生:複数の情報を読み取ることなどについて、約50%の児童が身に付けていない。
中学校2年生:目的に応じて情報を整理したり、複数の事象を示した図を読み解いたりすることなどについて、約57%の生徒が身に付けていない。
高校2年生:信頼できる根拠を選択したり、データの矛盾点を指摘したりすることなどについて、約55%の生徒が身に付けていない。

いくつもあるハイパーリンク先の、スクロールで流動するデジタル・テキストを記憶しながら、読み進めるというのは、紙よりも負荷の高い作業です。また、テストでは広告表示は無いかもしれませんが、テキスト情報の理解にはあまり関連の無い、美しいカラー写真などに注意を惹きつけられてしまうこともあるでしょう。

「情報活用能力育成のためのアイデア集」には、次のような指導改善のポイントが示されています。

  • 複数の情報を確認したり、情報の発信元や引用元等を確認したりして、情報の真偽を確かめる学習活動を取り入れる。
  • 比較や分類等について、図や表を使って視覚的に行うための「思考ツール」や、「比較する」、「分類する」、「関連付ける」のような「考えるための技法」を活用する。
  • 情報を引用する場合は、情報の信頼性を確認するとともに、その情報の出典を明記できるようにする。
  • 自分の考えを発信する場合は、意見だけでなく、その根拠となる情報を用いて説明できるようにする。

上記の「複数の情報」は主にWebサイトをイメージしていますが、PISA型読解力は、一つのテーマについて複数の本を読み比べることで身に付くような力も求めており、新学習指導要領でも「国語科の学習が読書活動に結び付くよう」指導するとされています。このような指導改善を受けて、PISA2025では、他国の得点も回復すると思われますが、得点アップが期待されます。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 田鎖 智恵

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