2024.03.25
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ロボットプログラミングを通して、課題発見力を高める(前編) 千葉県印西市立原山小学校「情報探究」授業リポート

新学習指導要領において、言語能力や問題発見・解決能力と同様に、学習の基盤となる資質・能力として位置づけられている「情報活用能力」。さらにコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用した学習活動の充実を図ることが示されている。そのような中、指導方法や教材の工夫を行う教育現場が目立ち始めている。
今回は、日本教育工学協会(JAET)に2022年度「学校情報化先進校(情報教育)」に認定されている千葉県印西市立原山小学校での実践を取材した。前編ではテクノロジースポーツ「ロボッチャ」を取り入れた授業の様子を紹介する。

印西市立原山小学校について

1989年に開校し、今年で35年目を迎える印西市立原山小学校。最寄りの千葉ニュータウン中央駅から成田空港へは特急で約20分という距離だ。

2023年度は、情報活用能力の確実な育成のために、授業時数特例校の指定を受けて、1~2年生の生活科、3~6年生の総合的な学習の時間を増やした。2024年度は、教育課程特例校の指定を受けて、週3時間「情報探究」の授業を実施する。

ネクストGIGAの新しい学びに向けて、「データサイエンス」、「情報デザイン」、「メディア表現」、「プログラミング」、「コンピュータとネットワーク」、「デジタルシティズンシップ」の6つの領域を設定し、複雑な状況において自分なりに課題解決への見通しを持ち、目的に合わせて情報を整理・分析、表現することを軸とした学習活動を行っている。

2023年9月には、アマゾン ウェブ サービス(AWS)により「Think Big Space」が開設された。これはAWSが無償で提供するSTEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育を支援するための最新鋭のスペースで、世界では69か所目、日本国内では初めての試みとなる。旧コンピュータ室を改装し、椅子や可動式の机、大画面の電子黒板、レゴ®ブロックのプログラミングキットが設置され、ホワイトボードになっている壁にプロジェクションマッピングを投影することもできる。今回取材した授業も同スペースで実施された。

ロボットに安定した投球をさせるには

授業概要

学年:小学4年生
教科:総合的な学習の時間(6/12)
単元名 :「原山ロボッチャカップをかいさいしよう」
単元の目標:ロボット制御によるボッチャ競技を通じ、ビジュアル型プログラミング言語(Scratch)を用いた条件分岐、データや変数などを含むプログラムの作成方法を理解することができる。また、課題や必要な動きを分解して考え、効率的な組み合わせを考えるとともに、データをもとにして分析しフィードバックを活用した改善をすることができる。さらに、目的達成のためにチームで互いに尊重し合い、協働して取り組もうとする。
授業者:佐々木 佑崇 教諭
使用教材・教具:ロボッチャ(Roboccia®)*、ノートPC

*株式会社エデュソルが開発したプログラムコンテンツで、投球用のオリジナルロボットを作り、プログラムを組んでゲームを進行するテクノロジースポーツだ。ボッチャの10分の1サイズの競技コートとボールを使用する。インクルージョンやダイバーシティへの理解を深めつつ、STEAMの分野から問題解決力や想像力をチームワークでの協働性を学ぶことができる。

同単元は体育科2時間と総合的な学習の時間10時間で構成。体育科ではパラスポーツの「ボッチャ」のルールを確認し、実際に体験した。さまざまな立場の人がスポーツをする良さや難しさを話し合い、多様性を受け入れ、さらに相手を尊重することの大切さについて考えた。

総合的な学習の時間は、ロボットを動かすプログラムを作成し、投球させた結果を整理・分析して、意図した場所へ投球できるようにロボット改造とプログラム修正を行い、試合を行う。

授業冒頭では前時までの振り返りが実施された。子どもたち全員で本時の課題「ロボットの特徴を活かすにはどんな場面で使えばいいだろうか」と読み上げた後、佐々木教諭より詳しい説明が行われた。

「ロボットにボールを投げさせ、どこにどれだけ集まったか(落下地点)を記録していきます。そうするとロボットの特徴が見え、どんなプログラムにすれば狙った場所にボールを投げられるのかに気づくことができます。実験を行うときはロボットやボールを置く位置、ロボットの腕が水平になっていることをしっかり意識してください。

パソコンに投球結果を記録した後に、さらにFigJamにロボットの良いところと課題点を書きましょう。例えば、良いところは『試合のこんな場面で使える』、課題点は『このロボットをもっとこうしなきゃいけないな』『こんなところが上手くいかない』などがあります。データ入力でわからない点があったら、先生に声をかけてください。みんな、やることがわかりましたか?」

角度や速度の設定を変えて、投球し、結果を整理

スローロボットとキックロボット

全員が元気よく手を挙げて、班での活動がスタート。ロボットのプログラムの数値を決め投球し、ボールの落下地点を記録していく。投球データを収集してわかった「よかった点」と「課題点」はオンラインコラボレーションホワイトボード「FigJam」に書き込む。他の班の結果を参考にし、自分たちの課題の改善点を見出していくためだ。

ロボットは「スローロボット」と「キックロボット」の2つ。「スローロボット」のプログラムはスピードの値を17%に固定し、角度の値を90度に設定し、「キックロボット」のプログラムは、角度を45度に固定し、スピードを100%に設定し、実験する。その後「スローロボット」は角度の値を変えて、「キックロボット」は、スピードの値をそれぞれ変えて、同様の実験を繰り返しデータを収集していく。

キックロボットのプログラム

2~3人1組で実験を行う。3人の場合は、1人目はロボットとBluetoothで接続されているパソコンで設定値を変更し、実行する(投球させる)。2人目はロボットの腕を調整して、ボールをセットする。3人目は別のパソコンに結果データを記録する、のように役割分担していた。コートとなる125cm×60cmのシートは縦14マス、横11マス(A~K)に分かれており、1マスずつA-1、A-2…といった具合に座標が書かれているので、同じ設定で8回ずつ投球し、どのマスでボールが止まったか記録していく。

ロボッチャを使用する授業は5時目とあって、子どもたちはみな手慣れた手つきでボールやロボット、プログラムを操作。また、班のメンバーと意見を活発に出し合う姿も目立った。

佐々木教諭「残り時間が少しとなりました。FigJamにキックロボット、スローロボットそれぞれの良いところと課題点を書いてください。」

実験結果と気づきを共有

授業の終盤では、子どもがFigJamに入力した内容を電子黒板に示しながら、学習内容を整理。実験の結果や気づきが共有された。

佐々木教諭「データを収集したことで、ロボットの良いところや悪かったところ、いろいろな発見があったと思います。まず、スローロボットについて、みんなの意見を見ていきましょう。」

児童「手前でボールが止まることが多かったです。」
「スローロボットという名前なのに遠くに飛ぶことが多かったです。」
「色んな場所に飛んでしまい、安定していませんでした。」
「手前にも遠くにも飛ばせたので、いろいろな場所に飛ばせると思いました。」
「ボールを思い通りに飛ばすには、ロボットを制御すればいいと思います。」

佐々木教諭「みんなの意見から、スローロボットはいろいろな場所に飛ぶのが良いところでもあり、悪いところでもあることがわかります。また今話してくれたように、ボールを思い通りに飛ばしたいときはロボットを『制御』すればいいのですね。次に、キックロボットのわかったことを発表してください。」

児童「手前で止まるから、ゲームに勝ちやすいと思います。」
「狙ったところに飛ばしやすかったです。」
「狙いを定めやすかったが、場外になってしまうことも多かったです。」
「力が弱いから、(白のジャックボールに相手チームのボールが近づけないように)防壁を作りやすいと思いました。」

佐々木教諭「みんなにたくさん発表してもらいましたが、どれも似ていることがわかります。これからは狙った場所に飛ばすにはどんなアイデアを活用すれば良いかを考えいきましょう。アイデアをもとに実験を行い、さらに記録していってください。」

この後、練習試合、そして原山ロボッチャカップ2024に向けて、パターンによる戦略を立てるため、結果について話し合い、データのばらつきを減らし、再現性を高める方法を考えていく。

後編では松本博幸校長と佐々木佑崇教諭へのインタビューを紹介する。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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