2024.04.08
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学び合いを通して考えを深め、数学的な見方を働かせる(後編) 習熟度別学級で学びの質を高める

新学習指導要領へ移行して4年。知識・技能の習得だけでなく、児童同士で意見を出し合い、主体的に学びを深める授業が多くの教育現場で導入されている。後編では、主に算数科で「学び合い」を含む「個別最適な学び」の研究に注力する東京都品川区立品川学園の平野 正隆 主幹教諭へのインタビューを紹介する。

誰もが主体性を持って話し合い、学びを深められるように

平野 正隆 主幹教諭

―本単元で、つまずきやすい点を教えてください。

平野 正隆 主幹教諭(以下、平野) 水槽に入る水の量が示されていないため、「仮の数値」を入れるところがつまずきやすいです。4年生までは問題文中に全体量の数値が示されていたので、算数に苦手意識がある子どもにとっては特に難しいと思います。本時の問題は全体量が30Lでも1Lでも同じ解を得られるため、「どう仮定しても解は同じだからまずは全体を1として考える」という方向に進めました。

ただ全体量を30Lとしたときに、その10分の1は「3L」と導き出せない子どもが多かったのは想定外でした。そのまま先に進むと理解が不十分になるので、あえて時間をとり、全体を60Lとした場合についても考えてもらいました。

―本単元で工夫した点を教えてください。また子どもたちの反応はいかがでしたか。

平野 算数が苦手な子どもにとって、最小公倍数の30や割合として考える1 を当てはめるのは困難と予想しました。そこで「水槽の量がわかれば解ける」に気付いた時点で、見通しを持てたと判断することにしました。

ワークシートは用意せず、ノートに定規を使って1/15を刻むのが難しいということも体験してもらいました。

また誰もが主体性を持って話し合えるよう、班は4人程度としているのも工夫している点です。2~3人では「わからないね」で終わってしまう可能性があり、また5人以上では話し合いに参加しない子が出てきます。解決の兆しが出てきて、学習意欲がわき、算数が好きになるような話し合いにしたいですね。

友達と話しながら考えたい子には、話し合える環境を用意すべき

―品川学園では、どのように算数少人数指導を行っていますか。

平野 本校で定めている「習熟度別算数学習基本方針」に従って、α、β、γの3つにクラス編成しています。αクラスは自分の考えを発表したり、友達の考えと比較したりして考えを深めます。また基礎問題だけでなく、応用問題にも取り組みます。βクラスは自力解決や学び合う時間をしっかり確保し、様々な解法を導き出すことで、数学的に考える力を高めていきます。γクラスは解法を自他の力で導き出すことで、数学的に考える力を高めていきます。α:β:γの人数比の目安は3:2:1です。

―クラス分けはどのように行うのですか?

平野 学期ごとに子どもに希望調査を行い、その結果をもとに分けています。9割の子どもは自分の学力レベルに合ったクラスを選びますが、中には「頑張りたい」という思いからαクラスを選んだり、反対に「たくさん問題を解くのは、疲れちゃうから」という理由でγクラスを選んだりする子もいますね。実態と合わない場合は、教員から声をかけるようにしています。

―習熟度別の方が学びの質は高いと思いますか?

平野 算数においては、通常のクラスで授業を行うと苦手な子どもは萎縮してしまいがちです。習熟別にすることで「自分も活躍できる」と思えるので、普通なら手を挙げない子どもも手を挙げて、自分の気づきを伝えることができます。

また通常のクラスでは、「教える人、教わる人」の関係になってしまいがちです。一方で習熟度別では「それはこうじゃない?」と、切磋琢磨して進められるので、とても有益だと思いますね。

―個別最適な学びのための工夫をお聞かせください。

平野 個別最適な学びは「指導の個別化」と「学習の個性化」に分けられます。本日の学習内容は問題の難易度が高いことから、「指導の個別化」を意識しました。算数が苦手な子どもにとって、授業中にわからないまま15分放置されたら地獄のような時間になってしまいます。一方で、班で相談できればその15分はわからないだけで終わらず、共に高め合える時間になります。これも指導の個別化につながると思います。

「学習の個性化」については教員からの投げかけがカギになると考えます。例えば子どもにまとめ方を工夫させるなら、まず教員が「どんなまとめ方でもいいよ」と伝えることが重要です。また発表させる際には、子どもが興味を持つことをテーマにするのがいいと思います。

学校で学習する意義は、共に学び合い、共に課題を解決することだと思います。一緒に考えられる友達がいることが学校の良さであり、学び合うことで相手を大事にする気持ちも芽生えます。将来社会で通用する力となるはずです。

また学び合いは主体性につながると思います。大人が仕事で行き詰まったときに同僚に相談するように、子どもたちも授業中に相談できる友達がそばにいれば主体的に学びたくなるはずです。

頑張りを形に

平野検定カード

―本日の授業でシールを配られていましたが、どのようなものなのでしょうか?

平野 勉強を頑張ったり、班で協力したくなったりする仕掛けとして取り入れています。問題のレベルに合わせて正解したらもらえる枚数を設定していて、個人単位でも、班全員がクリアしたら全員に2枚ずつのように班単位でももらうことができます。10級から1級、特1級から特10級、最後はマスターというランクを設定していて、10枚たまるとランクアップします。

マスターまで進んだら、シール無しでも頑張れるか、10級に戻って再スタートするかを選べます。私の息子が水泳教室で級が上がったときにすごくうれしそうにしていたことがきっかけです。「自分の頑張りを何か形にしてあげたい」と思い、導入しました。

義務教育学校の魅力

―品川学園では、5、6年生は7〜9年生(後期課程)と合同で運動会や合唱コンクールなどの行事を行っていると聞きますが、どのようなメリットがありますか。上級生についていけるのでしょうか?

平野 5、6年生からすると上級生は「憧れの先輩」といった存在です。そんな先輩たちから学び、成長しているので、「ついていけない」という感覚はありません。行事でも上級生と同じレベルを求められるということはなく、5、6年生なりに頑張っているという様子です。行事ではリーダーシップを発揮する先輩や涙を流しながらお互いを讃え合う先輩方の背中を見ることで、自らの未来を重ねているようです。

部活動は文化部では4〜9年生、運動部が5〜9年生で活動しています。運動部では5年生は最初は体力的にキツイこともあるようですが、6年生になると慣れる子どもがほとんどのようです。

気軽に話せる環境づくり

毎週発行する算数通信

―「先生、あのね」アンケートを行っているそうですが、どのようなメッセージが寄せられるのですか?

平野 アニメや漫画、ゲームなどの話題が目立ちます。一方で、時折、深刻な悩みを書く子どももいますね。理科や社会では月1回の単元テストの後に、タブレットで振り返りとセットで行ったり、算数では毎週月曜日に「算数通信」というものを出し、そこに書きこんでもらっています。

教員の生産性を上げるため、会議を精選

―教務主任として、教科担任制の時間割づくりや働き方改革など、工夫していることや取り組んでいることを教えてください。

平野 小学校(前期課程)の教員は中学校よりも少ないため、複数教科をかけ持ちせざるを得ない状況です。今年の6年生は4クラスあり、社会1人、算数2人、英語1人としました。国語は各担任が、理科は副担任が受け持っています。時間割づくりには3~4日かかる年もありますが、教員が働きやすく、子どもにとっても過ごしやすい内容となるよう工夫しています。

また、教員が授業準備の時間をしっかり確保できるよう、会議の精選をしています。本校には70人、常勤でない講師も入れると100人の教員がいるため会議は「分掌会議」と「企画会議」の2つに分けています。分掌会議は教務、生活指導、カリキュラム作成などを話し合い、企画会議は主幹教諭、副校長、校長が参加します。話し合われた内容を各学年主任が参加する「運営委員会」で決定し、パソコン上で周知するという流れです。会議の仕方を工夫したことで、生産性は確実に向上していると思いますね。

―最後に、今後やってみたいことを教えてください。

平野 他の先生のお役に立てるように、自分の経験や実践を広く伝えていきたいと思います。いつかは自分で本を出してみたいですね。先生や子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。一人でも明日の勇気や希望につながればうれしいですね。

記者の目

授業中の課題解決の時間では、他の班に移動し、自分の考えを生き生きと伝える子どもの姿も見られた。さらに平野教諭の問いかけに対し、ほとんどの子どもが手を挙げている光景が印象的だった。習熟度別のクラス編成により、算数が苦手な子どもとっては前向きに、楽しく学べると言えるだろう。同校の指導スタイルは多くの教育機関からのお手本となるに違いない。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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