2024.04.22
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見通しを持ってプロジェクトを主体的に進める(後編) 裏に潜む問題を想像する力を育てる

変化の激しい社会に対応できる能力や資質を育てる教科として、総合的な学習の時間の重要性は年々増している。前編では、実際に京都市立待鳳小学校の6年生が2クラス合同で行なっている総合的な学習の授業の様子をレポートした。

後編は、単元開発者で研究主任の岩永祐輔先生と、授業者の阪本浩太先生に単元を開発する上で重視したことや、実際の授業で工夫した点などを伺った。

自分ごととして学習に向かえるよう、問題意識を喚起

研究主任の岩永祐輔先生

―今年度、生活科・総合的な学習をテーマに、学校全体で研究を推進するにあたり、重視したことや工夫した点を教えてください。

岩永祐輔先生(以下、岩永) 本校の学校教育目標は『考えを深め合い、夢に向かって挑戦する待鳳の子 ~未来を拓く「人」を育てる「チーム待鳳」』です。

近年、目まぐるしく変化していく世の中に適応するためには、自分で考えて行動し表現できる能力が重要になってきます。この学校教育目標を目指し、今年度の研究テーマを「自分ごととして考え、協働し、探究的に未来を創造する子の育成」に設定しました。

重視した点は、子どもたちが自分ごととして学習に向かっていくために、問題意識をきちんと醸成することです。それができれば、子どもたちは主体的な学びを進めていけるのではないかと考えました。

探究ペタ

―「エシカルでスマイル生活」は総時間 35 時間の大単元ですが、どのように構想したのですか。

岩永 総合的な学習では、子どもたちが自然な流れで学習のテーマに出会い、それを追究していき、自分ごととして問題を捉えて最終的に他者に発信していくということを大事にしています。

自然な流れの学習を作る一つの方策として、「探究ペタ」というものを使い単元を構成しました。

探究ペタはいわゆる設計図のようなもので、「エシカルでスマイル生活」の場合は、35時間の中に「発見」「追究」「提案」「熟成」「表現」という小単元を作り、子どもたちはこういう思考の流れで、最後はこういう力をつけていくのではないかと想定し、それが自然な流れになるように組み立てていきます。

作成した探究ペタを反映させた単元構想図に沿って学習を進めることにより、子どもたちが自分で線路を引いてトロッコ列車を運転するような主体的な学びになるよう構想しました。

また、単元構想図には、この単元で身につけた資質や能力を他教科と相互に関連付け、他教科横断的に内容的・方法的・資質能力的な視点で学習効果の最大化を図れるようにしています。

エクセルシートを共有し、単元を通して振り返る

―ICTはどのように活用していますか。

岩永 授業で学んだ振り返りをエクセルシートにデータで記録保管しています。エクセルシートを活用すると、縦軸では今の自分が書いたものと友達の書いたものがライブで共有でき、横軸では、これまでの自分の学習した足跡が振り返れるメリットがあります。

―鳴門教育大学の泰山裕先生には、どのようなアドバイスを受けていますか。

岩永 先ほどお話した探究ペタは、泰山先生のアドバイスで取り入れたものです。泰山先生は、ICTや思考ツールを使った授業を研究なさっている方で、本校はWindowsを利用しているので、授業でも、将来子どもたちが使うワードやエクセル、パワーポイントといったOffice アプリケーションを活用して慣れておいたほうが実用的と教えていただき、取り入れるようにしています。

より子どもの思考に沿った授業展開を目指す

阪本浩太先生

―昨年度の単元開発時と、今年度で変更したことはありますか。

阪本浩太先生(以下、阪本) 少し内容をシンプルにしました。「エシカルでスマイル生活」の単元は、昨年度の6年生も行なっていますが、今年度の6年生の実態に合わせて、わかりやすく設計しました。

―9月からこの単元に取り組んでいるそうですが、当初の計画から変更したことはありましたか。

阪本 11月の全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会で「エシカルでスマイル生活」の公開授業をすることが決まり、先に進めていた別の単元と交互に進めていく必要が出てきて、毎回「エシカル」を始めるときに思い出す時間がプラスされる形となってしまいました。子どもたちもしんどいだろうな、と心配していたんですが、3年生から積み上げてきた総合的な学習の流れをある程度把握していて、スムーズにいけた部分もあり、さすが6年生やなと感心しましたね。

―1組と2組の間で、どのような調整を行なっていますか。

阪本 この単元では、子どもたちがやりたいプロジェクトに入れるように、グループを1組2組混合にして2クラスに分かれて授業しているため、毎時間授業前にワークシートを先生同士で確認して、同じ進行になるように調整しています。

―本時の授業で工夫した点を教えてください。

阪本 ホワイトボード上の思考ツールで、話し合いがスムーズにいくようにしました。思考ツールの活用にまだ慣れていないグループには「こうしたほうがいいんじゃないかな」とアドバイスしながら、子どもたちが主体的に話し合えるようにしましたね。

モチベーションの維持が課題

―子どもたちの反応はいかがでしたか。

阪本 少し温度差があるかな、と感じます。やりたい企画をすんなりやれたグループは意欲的に取り組んでいますが、たとえば、子ども向けのスタンプラリーを計画していたグループは「エシカル消費」を広げるのに、子どもより大人向けにしたほうがいいと助言し変更したため、自分たちのやりたいことと違ってきて、モチベーションが下がってしまいました。今後、目的意識ややる気を高める声掛けをしていきたいです。

―このプロジェクトに取り組む中で、子どもたちに変化はありましたか。

阪本 今のところは、まだ感じられませんが、プロジェクトを通して「エシカル消費」について関心を持つだけでなく、自分の今見えている世界はもちろんのこと、目に見えない世界を想像する力を身につけてほしいなと考えています。実生活でも、友達の発言に隠された真実はないのかなと、常日頃考えられる人になってほしいですね。

―1学期の総合的な学習の時間では、どのようなことに取り組みましたか。

阪本 総合的な学習の時間では、毎年地域の良さを知るために地域素材を1本入れるようにしています。1学期は、この小学校の魅力は何だろうという問いから、待鳳地域にある大徳寺が話題に挙がり、そこから縁のある千利休につながって「茶道に込められた心」という35時間の単元に取り組みました。

―課題、今後やってみたいことなどを教えてください。

阪本 授業を進める中で、想定していた子どもたちの反応と実際の思考に差が出たとき、半ば強引に軌道修正することがあるので、より子どもの思考に沿った授業内容を展開していけるようにする、というのが課題です。

今後やってみたいことは、私は体育主任もしているので、体力向上や健康維持をテーマに単元構想図を作ってみたら面白いんじゃないかなと考えています。

記者の目

プロジェクト成功に向けて、他者と意見交換を行い、思考ツールを用いて課題や解決策を整理・分析し、計画の見通しを立て、世間に発信する。今回取材した総合的な学習の単元はビジネスシーンに大いに活用できそうだ。日常生活に潜む社会問題を見る力も含め、これからの子どもたちが生きていく上で必要な資質や能力が詰まっていると感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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