2024.04.05
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東日本大震災後生まれの子どもたちと学ぶ(5) 閖上の風船に想いを込めてメッセージを!(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが5回にわたって紹介します。最終回の活動では、被災者や大切な人々へのメッセージを風船に込め、3月11日の追悼式で空に飛ばしてもらいました。子どもたちが震災の重さや、命の尊さについて考える機会となりました。

震災学習で学んだことを振り返る

閖上の記憶のようす

子どもたちはこれまで、東日本大震災を取り上げた記事を読んだり、当時の様子を保護者から聞いたりしながら学んできました。また、連載3回目で報告したように、宮城県石巻市の大川小学校のご遺族であり、大川伝承の会共同代表の佐藤敏郎さんから実際に震災当時の話を聞くことで、震災を身近なものとして考えるようになってきました。
子どもたち一人ひとりの心に今回の学習がどのような足跡を残したのか…そんな思いを込めて、最後の活動として取り組んだのは、震災で亡くなられた方たちへ、そして自分の大切な人たちへのメッセージを書くことです。

被災地である、名取市閖上(ゆりあげ)は東日本大震災で壊滅的な被害を受けました。多くの犠牲者が出た場所です。現在ではかさ上げされ、閖上の街には大きな商業施設もでき、復興が進んできました。学校も再建され、防災施設としても活用できるようになりました。この閖上で当時中学1年のお子さんを亡くし、現在、伝承施設「閖上の記憶」で代表を務める丹野裕子さんも語り部のお一人です。私も何度か閖上を訪ね、丹野さんからお話をうかがいました。丹野さんは、息子さんが当時大好きだった漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」を今でも購入し続け、再建したご自宅の亡くなった息子さんの部屋の本棚に今でもおいています。

その丹野さんが代表を務める閖上の記憶では、毎年3月11日に追悼式がおこなわれ、被災者や全国の被災者を思う方のメッセージが書かれた風船が空に放たれます。これまでも、受け持ちのクラスの児童と風船にメッセージを書いたことがあります。今回も、最後の学習として、震災について学んできて考えたことをメッセージの形で風船に書きました。

閖上の風船にメッセージを込める

風船にメッセージを書く児童

子どもたちに、これまでの震災に関する学習の感想を聞いてみました。

「佐藤さんの話を聞いて、当たり前のことって本当は当たり前ではないんだと気づきました」
「家族にもしかしたらこのまま会えなくなってしまうこともあるんだと考えると、本当に大切にしなければならないと思いました」
「私と同じくらいの子もたくさん亡くなったと聞きました。私だったらどんな思いがしただろうと考えるととても悲しくなります」
など、様々な感想を述べていました。
どの感想も、東日本大震災を過去のことではなく自分事として捉えられていると感じました。

その後、最後の活動として、閖上の記憶の追悼式について紹介し、そこで空に放たれる風船にみんなでメッセージを書こうと呼びかけました。もちろん、自分の家族が亡くなっているわけではないので、これまでの学習で知った被災地の方へのメッセージでもよいし、自分が大切だと思っている方へのメッセージでもよいこと、また、これから自分がどんな気持ちで生きていきたいかなどについて書いてもよいことを知らせました。

子どもたちに風船を渡すと、みんな思い思いにメッセージを書き始めました。子どもたちのメッセージを読むと以下のようなものがありました。

「亡くなった人たちを忘れません。私も強く生きていきます」
「命をこれからも大切にしていきます」
「わたしもこれから家族をもっともっと大切にしていきたいと思います」
「次に大地震が起こっても、自分の命や大切な人の命を守ります」
「ふだんから、命を守ることについて考えていきます」

どのメッセージも子どもたちがこれから大切にしていきたいことが書かれていました。震災を取り上げた学習を通して私自身が子どもたちに感じてほしいことをしっかりと感じることができていると思います。これから子どもたちには成長していく過程で、さらに学び続けてほしいと願っています。
メッセージを書いた風船は、閖上の記憶に送り、3月11日の追悼式で空に飛ばしていただきました。その様子を子どもたちと、配信された動画で視聴しました。いつか機会があったら子どもたちにも閖上を訪ねてほしいと思います。

今後の震災・防災学習について

児童がメッセージを書いた風船

今回の震災学習の活動を通して、改めて震災を取り上げた学習の重要性や必要性を感じました。しかし、それと同時に授業をおこなう難しさも感じました。小学校では、教科担任制が取り入れられるようになり、自分の担当する教科が限定されます。また、授業の内容も大変多く、これまで私がしてきたように各教科の内容に合わせて柔軟に実践することが難しくなってきました。今回の実践でも、本当はもっと子どもたち自身が震災や防災について探究する活動を取り入れたかったのですが、かないませんでした。

しかし、元日に能登半島地震があったように、次の震災がいつ起こるかはわかりません。子どもたちに防災意識をもたせ、その先にある命や人とのかかわりの大切さを学ばせることは絶対に必要であると考えています。今後も、できる限り工夫をしながら実践をおこなっていこうと考えています。来年度は、もう一度原点に戻って「命の大切さ」をテーマに震災学習を計画してみようと考えています。この夏、再び被災地を訪ねる予定です。きっとそこで新たな出会いがあるはずです。私自身も学び続けてまいりたいと考えています。

文・写真:菊池健一

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