2024.03.30
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給食に島野菜が出るわけ 【食とSDGs】[小学4年生]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第204回目の単元は「給食に島野菜が出るわけ」です。

授業情報

テーマ:食とSDGs

学年:小学4年生

沖縄県宮古島市立結の橋学園4年生で担任の儀間 裕勝先生と栄養教諭の宜保 律子先生、藤本が取り組んだ授業を紹介します。
4年生は、夏に熊本県と石川県のオンライン交流をしました。その時は、ハンダマを使った料理を家の人に聞くということをしました。それから、ハンダマ栽培と、1月末に自分たちでハンダマ料理を考えて、調理実習をしています。
今回は、給食の献立に出る島野菜を調べる活動を通して、気候や地理的条件の違いを生かして島野菜が栽培されていることを知り、守り続ける姿に気付くことができることを目標にSDGsとしての視点を入れました。

なお「ハンダマ」は、宮古島で「パルダマ」と呼ばれています。
「原産地の熱帯アジアから中国を経由して日本に伝わったとされるキク科の多年草。寒さに弱いため、日本国内では沖縄から南九州の温かい地に自生していますが、石川県では金時草の名で栽培されています」
「沖縄では古くから[血の葉・不老長寿の葉]と言われ、民間療法薬としておおいに活躍していました」
「ハンダマは、葉表が緑色、葉裏が紫赤色しており加熱するとヌメリが出るのが特徴です。茹でて和え物、雑炊、汁の具にするとほんのり紫に色づきます」(沖縄食材情報サイト!くわっちーおきなわより)

パルダマが入っている給食献立から学習を振り返る

授業の冒頭、パルダマ(ハンダマ)について知っていることを引き出し、本時学習への意欲を高めるようにします。
「4年生は、これまでパルダマのことを学習しましたね。どんなことを学習しましたか」と担任の先生が問いかけます。子どもたちからは、パルダマが島野菜であることやコナカイガラムシを牛乳スプレーで駆除できたこと、オンラインでパルダマを他県の小学生にPRしたことやパルダマ料理に挑戦したことなど、自分たちが探究してきたことが次々に挙げられます。

次に、栄養教諭が「この献立にはパルダマが入っています。どこに入っていますか」と尋ねて、給食の献立にパルダマが入っていることを確認します。
「宜保先生、パルダマは島野菜と呼ばれます。どんな野菜なんですか」と担任の先生が聞きます。
栄養教諭の「島野菜は、以前は沖縄でも身近な野菜として郷土料理に利用され、親しまれてきた野菜です。全部で28種類あります」の言葉を受けて、
「みんな、パルダマのほかにも知っている島野菜ありますか」と担任の先生が子どもたちに問いかけます。
「ゴーヤ」「島人参」などの意見がどんどん飛び出します。

島野菜が使われている献立を探す

続いて、献立表から島野菜を探すことで、栄養教諭の思いに目を向けるようにします。
「ほかにも献立に島野菜が入っているかもしれません。どの献立に島野菜が入っているか見つけて教えてください」と藤本が問いかけます。
すると、子どもたちは「ゴーヤ」「パパイヤ」「ヘチマ」「大根」「紅芋」「パルダマ」「島にんじん」と発言が続きます。
ここで藤本が「大根は島大根とは書いてないけど…」とつぶやくと「じゃあだめだ」と子どもたちが声を上げます。
そこで、栄養教諭に尋ねると、「大根」は28種類に入っている島大根とは異なることが明らかになりました。

今度は給食の献立に島野菜が使われている理由を話し合います。藤本は担任に問いかけます。
「どうして宜保先生は島野菜をこんなに使っているのでしょうね」
すると、子どもたちからは「島のものは栄養がいっぱいあるから」という声が。
「安いからじゃないの」と藤本が問うと担任は「でも島バナナは高い。1万円を超える」と答えます。
続いて「じゃあたくさん採れるから?」と聞くと、子どもたちは「だけど時期があって…」と答えます。
「では、どうして島野菜がこんなにも給食の献立に使われるのでしょうか」
子どもたちは、給食の献立に島野菜が使われている理由を考えます。

パルダマと金時草、スイゼンジナと比べる

「宜保先生にすぐに教えてもらうのでなく、考えてみよう。献立に入っている島野菜の秘密を見つけよう」と、パルダマはどこの野菜と比較したかを振り返ります。子どもたちは「石川」「熊本」「千葉」と思い出します。
藤本が「石川県でパルダマはなんと呼ばれているでしょう」と尋ねると、「金時草!」と子どもたちは声を揃えて答えます。
「では、熊本県ではなんと呼ばれているでしょう」と尋ねると、「スイゼンジナ!」とまた声を揃えて答えます。同じ野菜だけど、沖縄県では「パルダマ」として28種類の島野菜の一つとされていることを確認しました。

「では、他の金時草、スイゼンジナと違うところはどこでしょうか」と藤本が尋ねると、子どもたちからは「水分量」「色が濃い」「日焼けしている」などという声があがります。
「日焼けするということは何の影響ですか」
藤本が問うと、子どもたちは「日光」「日差し」と答えました。
続けて藤本は「気温や雨の降る量は違うのですか」と担任に尋ねます。担任は宮古島、熊本、金沢の3つの地域の位置と雨温図を電子黒板に映し、特徴や違いを考えさせます。
子どもたちは「平均温度が違う」「宮古島は温かいよ」などと野菜の特徴のちがいは、宮古島の温暖な気温が理由ではないかと仮説を持ちます。
ここで、藤本は「宮古島のほうが温かいから日焼けするというのはわかりました。では、降水量はどこが多いですか」と尋ねます。雨温図によると、宮古島よりも金沢のほうが降水量が多いのです。
「この謎はなんですか」
子どもたちは「気温が低いから…」とつぶやきます。
「気温が低いところでは雨は何になりますか」藤本は尋ねます。雪が降ることにより、金沢の方が降水量が多くなっているということに子どもたちは気付きました。

次に、子どもたちは栄養教諭から島野菜の特徴を聞きます。
「日差しが強いことと夏に雨がよく降る宮古島の環境がパルダマにあっていて、昔から食べられていることにつながるのだね。そのような意味がありますか」
藤本は子どもたちの考えをまとめ、栄養教諭に確かめます。子どもたちは栄養教諭から島野菜の特徴を聞きます。そこで子どもたちは、雨量や石灰岩質の土壌も島野菜に影響していること、健康長寿の一つのひみつであることを確認します。

それを受け、「宮古、そして沖縄の太陽をたっぷりあびて育った島野菜、そしてサンゴ礁でできたミネラルが多い土地で作られた島野菜は栄養がたっぷりふくまれています」と栄養教諭は答えました。
藤本は「分からなかったら、すぐに聞くのではなく自分たちが学習したことを使って、こうじゃないかなと考えてから聞くと更に深い学習ができるね」と自分たちで問いを持ち、探求することの良さを確認しました。
「さらに言うと、サンゴ礁でできた土地で栄養がたっぷりあるから、昔から食べられていて、環境に合っているということが、律子先生が島野菜を給食の献立に入れている理由なんだね」と島野菜を献立に取り入れる理由をまとめました。
栄養教諭は「この栄養がたっぷり含まれている島野菜を、昔のおじいちゃんやおばあちゃんたちは、たくさん食べて、長寿県1位になるほど長生きする人が多かったです。それだけ、島野菜は栄養満点な野菜です」と話してくれます。

日本各地にある地域野菜に関心をもつ

今度は、加賀野菜、なにわの伝統野菜を紹介して、日本各地にそれぞれの気候や地理的条件に関係する野菜があることに気付かせます。
「パルダマは島野菜だけど、金時草、スイゼンジナは何野菜だと思う」と担任が尋ねました。すると子どもたちは「県野菜」と答えます。
それを受け、藤本は「沖縄は昔なんて呼ばれていましたか」と尋ねます。
「琉球!」
続けて藤本は尋ねます。
「では、金沢がある石川は何だったか知っていますか」
子どもたちは知らない様子。そこで、藤本は加賀という言葉を提示しました。
「だから県野菜ではなく…」と言うと「加賀野菜!」
子どもたちは本土にも〇〇野菜があることを知りました。
「京野菜はどこの野菜かな」と担任が尋ねます。子どもたちからは「京都」の声がかえってきました。
続いて、なにわの伝統野菜のなにわはどこ」と担任が聞いても、難しいようで分かりませんでした。
「大阪は、昔なにわと呼ばれていました。そこでなにわの伝統野菜が大切に守られています。どうして大切に守られていると思いますか」と聞くと、「作る人が少なくなっている」「知っている人が減っている」という声を受けて、加賀の伝統野菜や京野菜、なにわの伝統野菜をパワーポイントで紹介します。子どもたちが知っている野菜とは違っていて、スーパーに並びにくい野菜であることを確認します。なにわの伝統野菜から、毛馬(けま)胡瓜や金時人参を紹介し、島にんじんとの違いに気づく子もいました。

続いて、担任の先生から、その地域にあるものをその地域で食べる地産地消についての話やお昼の校内放送の話を取り上げて、顔が見えて安心安全なという意味が島野菜を食べることにあることを話します。
「日本各地にそれぞれの気候や地理的条件に関係する野菜が残っていくことは大事なんですね」と問いかけ、伝統野菜を守ることは、生物多様性や地産地消、種の保存などのSDGsの視点からの価値があることに気付かせます。

藤本からSDGsについて、自分たちの活動がどの目標に関わりそうかを考えます。
子どもたちは、これまで探究してきたことをもとに「目標15の陸の豊かさ、目標3の健康に関わりそうだ」と予想を立てます。
それを受け、「SDGsとは2030年の世界の人たちの目標です。いろいろなタネを守る、地産地消、SDGsの意味もあるんです。4年生はこのパルタマのよさを伝えているからSDGsを実現することに大切なことをしているんだよ。」と話しました。
担任の先生が「それに地域を大切にすることもできますね。だから宜保先生は、給食からこうした取り組みをしているということですね」と答えます。

この後、宜保先生から「栽培するのに、宮古や沖縄の環境にあっていて、昔からたくさん作られている島野菜をみなさんに知ってもらいたくて、給食にたくさん使います。また、島野菜をたくさん食べていた昔の人は長寿1位でしたが、今はどうでしょうか?2020年の調査では、男性は43位、女性16位まで下がっています。47都道府県中、男性は下のほうです。みなさんが健康な体を作り長寿1位になるように、島野菜をたくさん食べてほしいと思います。沖縄料理に欠かせない島野菜は、みんなが健康で長生きすることを支えているので、これからも島野菜を食べてほしいです」と語り授業を終えました。

子どもたちが書いた振り返りを紹介します。

・今日、わたしたちがやっている活動は、SDGsになっていることが分かりました。SDGsになっていると思うと、この活動をつづけてきてよかったなと思うし、これからも、この活動をつづけていきたいと思いました。

・島野菜について勉強しました。そこから、まなんだことがあります。島野菜を食べるということが、未来にもかかわってくるということがわかりました。これからも島野菜をたくさんたべたいです。

・島野菜についてたくさん知りました。あまり島野菜のことは知らなかったけど、今日たくさん先生におしえてもらったので、おしえてもらったことをいかして、島の人々や世界の人にひろめていきたいなと思いました。

授業の展開例

〇地域の伝統野菜、地野菜にはどんな物があるか調べてみましょう。それを守り続ける人から話を聞きましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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