2024.03.29
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東日本大震災後生まれの子どもたちと学ぶ(4) 被災地の語り部の話を聞く(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが5回にわたって紹介します。第4回では、大川小学校の遺族である佐藤敏郎さんにオンラインでお話をうかがいました。なぜ多くの児童や先生が犠牲となってしまったのか。なぜ避難が遅れてしまったのか。自分たちと同じ年頃の子どもたちに起きた悲劇を知ることで、防災の大切さを強く感じました。

語り部・佐藤敏郎さんについて知る

石巻市立大川小学校旧校舎

この12年間、毎年3学期に行っている震災・防災学習では、東日本大震災の被災地の方に震災の経験をお話しいただいてきました。
今回、ゲストティーチャーをお願いしたのは、宮城県石巻市立大川小学校のご遺族であり、大川伝承の会共同代表として今でも語り部として震災の経験を語り続けている、佐藤敏郎さんです。私も、初めて宮城県石巻市の大川小学校旧校舎を訪ねた際に、佐藤さんに震災時のお話を伺いました。

佐藤さんは、中学校の元教師であり、震災後国語の教師として担当する生徒と俳句の授業に取り組みました。生徒が、震災後に気持ちを吐露する場としての俳句作りの授業を実践され、多くの場所で紹介されています。これまでも佐藤さんに教室においでいただきたいと願っていましたが、なかなか叶いませんでした。しかし、ICT環境が整い、オンラインでの実施が可能となったため、宮城県とさいたま市をオンラインで結んで子どもたちに話をしていただくことになりました。

佐藤さんについては、様々なメディアで取り上げられているので子どもたちとニュースや新聞を見て、事前に学びました。佐藤さんが宮城県の新任校長の方たちに震災についての話をしているニュースや佐藤さんへのインタビューが取り上げられている小学生新聞を読んで感想を交流しました。

「佐藤さんは、むすめのみずほさんが亡くなったと知ったときにどんな思いだったろう」
「佐藤さんは、どんな思いで、今も語り部を続けているのだろう」
「大川小学校ではどうしてあんなにたくさんの被害が出たのだろう」
など、考えたことなどを発表し合いました。

また、佐藤さんにお話をうかがう前に質問を考え送ることができました(第2回「新聞社と連携して震災について学ぶ」)。また、担任の私が大川小学校を訪ねた際の写真を見たり、避難すれば全員が助かったと言われている学校の裏山に登った際の動画などを視聴したりすることで、佐藤さんのお話への興味が高まりました。

佐藤敏郎さんの授業

大川小学校の裏山

授業当日、佐藤さんは子どもたちにこう語りかけました。
「防災はハッピーエンドでなくてはならない」
「でも、大きな災害があったら冷静になれなくなってしまう。だから、普段の時に備えておかなければならない」

大川小学校では、東日本大震災の大地震の後に、避難をする場所も時間も情報もありました。しかし、当時の児童と先生たちは50分も校庭にとどまり、最後の1分で津波に向かって避難をしてしまった…どうしてこんなことが起こったのか?
もう二度とこんなことを起こしてはならない…佐藤さんの話を聞きなから、子どもたちは「もし、自分が当時の大川小学校の子どもだったら…どんなことを考えただろう」と自分と重ね合わせていました。
亡くなった74人(正確には行方不明の児童も含んだ数)は今の子どもたちと同じぐらいの歳の子どもたちです。これまでの震災の学習を通して、震災が自分事となっているので、佐藤さんの話を聞きながら当時のことをより具体的にイメージできたようです。

佐藤さんのお話の中で、大川小学校を案内している動画を流してもらいました。もし、そこに逃げていれば全員が助かったと言われる大川小の裏山です。担任の私も、何度か大川小を訪ねた際に佐藤さんに案内していただき裏山に登りました。その時の写真を事前に子どもたちに見せて感想を話しておいたので、子どもたちは強い関心を持っていました。

佐藤さんの話を聞きながら、
「どうして先生たちは山に逃げようとしなかったのかなあ…」
「裏山には数分で登れるみたいだよ。それなのに…本当に残念だよね」
「避難訓練は行われていたのかなあ…こんなに川に近い学校なんだから」
など、友達と話し合っていました。

佐藤さんのお話を聞きながら、「防災はハッピーエンドでなくてはならない」という言葉の意味がよく理解できたようでした。子どもたちの中には、地域の防災訓練に参加している子が数名います。震災の学習を行うことで、子どもたちの防災への関心が高まっているように思います。
今回、佐藤さんからお話を聞くことで、大川小学校という大きな被害を出してしまった学校のことがよく分かり、さらに防災について考えなくてはならないことを強く感じたようでした。

子どもたちの感想から

3.11に行われている大川小の「竹あかり」

佐藤さんからお話をいただいた後に、子どもたちが感じたことをまとめ、お礼の手紙として送りました。手紙の中には以下のような言葉がありました。

「ぼくもふだんから、大きな災害があったときにどこに避難するかなどを家族とあらかじめ決めておきたいと思いました」
「これまでは、避難訓練をしてもどこか本気でないところがあったけれど、これからは本当に災害が起こったと思って取り組まなければならないと思いました」
「佐藤さんは娘のみずほさんを急に亡くしてしまった。本当に悲しいことだと思う。わたしも、近くにいる家族をもっともっと大切にしていきたい」
「これからもっと東日本大震災について学んで、もし自分の住んでいる地域で災害があっても絶対に命を守ろうと思いました」

子どもたちの感想から、今回の学習が子どもたちにとって防災の必要性を強く感じられるものだったと確信しました。そして、佐藤さんが娘のみずほさんについて語ったことで、自分の家族や友達など、大切な人をもっと大切にしていきたいという気持ちももてたようです。これからも引き続き子どもたちと学びを深めていきます。
佐藤さんの授業の後、私も2023年3月11日に参加した、大川小学校の追悼行事「大川竹あかり」の写真を子どもたちに示しました。機会があったら、ぜひ子どもたちに大川小を訪ねてほしいと思っています。

文・写真:菊池健一

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