2024.03.25
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ロボットプログラミングを通して、課題発見力を高める(後編) 独自の情報活用能力体系表とカリキュラムを作成

新学習指導要領において、言語能力や問題発見・解決能力と同様に、学習の基盤となる資質・能力として位置づけられている「情報活用能力」。さらにコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用した学習活動の充実を図ることが示されている。そのような中、指導方法や教材の工夫を行う教育現場が目立ち始めている。
今回は、日本教育工学協会(JAET)に2022年度「学校情報化先進校(情報教育)」に認定されている千葉県印西市立原山小学校での実践を取材した。後編では松本博幸校長と授業者の佐々木佑崇教諭へのインタビューを紹介する。

4年生の「情報探究」で育成する力

さまざまな情報スキルを経験させながら、自ら課題を見つける力を育成

佐々木 佑崇 教諭

―単元「原山ロボッチャカップをかいさいしよう」の単元づくりと今日の授業で工夫した点を教えてください。子どもたちの反応はいかがでしたか。

佐々木 佑崇 教諭(以下、佐々木) ロボッチャという普段の授業では扱わない教材を使用したため、とても生き生きと活動していたと感じています。これまでも授業前に「今日はロボッチャやるよ」と言うと、「やったー!」と元気な返事が返ってくるなど、前向きな姿勢で学んでくれています。

ロボットのプログラミング修正を行う際に、子どもたちが自ら課題を見出せるように意識して進めました。また、すでに学んだデータサイエンスも課題解決を軸としていたため、それを応用した内容になるようにしました。本日の授業では子どもから「ボールを思い通りに飛ばすには、ロボットを制御すればいい」という意見が出てきたので、こちらの期待通りに考えてもらえたと思います。

―本日、休み時間に「ロボッチャで遊んでいいよ」と先生が伝えられた際、子どもたちはみんな大喜びしている様子でした。やはりおもちゃの要素があるからでしょうか。

佐々木 そうですね。ゲーム感覚で自由に遊ぶことで、ロボッチャをより知ってもらいたいという狙いもありました。ルールをしっかり把握できないと、この先の課題やアイデアが出てこないと考えたためです。とある班では、「遠くに飛ばなかったときはどうすれば良いのかな…」という意見が休み時間に出ていたので、遊ばせて正解だったと感じています。

学級ブログ

―今年度、4年生の「情報探究」では他にどのような単元に取り組みましたか。

佐々木 単元「まちの環境課題を解決しよう」では、データサイエンスとして、データ収集を中心に、「ゴミ問題を地域住民に伝える」というテーマのもとPPDACサイクル(問題→計画→データ収集→分析→結論)を体感し、新聞やポスターを作成しました。また、情報デザインとして、ユーザーが抱えるニーズを起点に課題解決を行う「デザイン思考」の5つのプロセス(共感→課題設定→アイデア出し→プロトタイプ作成→テスト)などを扱いました。5年生、6年生になったときに「こんなアイデアを試してみよう」や「こういうデータが必要だな」といった考え方ができることを期待しています。

メディア表現では、画像⽣成AIも活⽤しました。デジタルシティズンシップとはいわゆる情報モラル教育で、端末や情報の正しい扱い方を学びます。本校では4年生の4月下旬から日直が学級ブログを更新しています。個人情報が写っていないかなど、公開前に教員が確認しますが、「使っては駄目」ではなく、「インターネットや情報を正しく扱うにはどうしたら良いのか」を強く意識しています。

特例校の指定を受けて、1年生から情報活用能力をしっかり育成

FIRST LEGO League(ファースト・レゴ・リーグ)世界大会にも出場

松本 博幸 校長

―印西市立原山小学校のホームページに掲載されている情報活用能力体系表「原山小学校情報教育各学年リスト」について、簡単にご紹介いただけますか。

松本 博幸 校長(以下、松本) 学習指導要領の学習内容にある情報活用能力に関連した項目を網羅しつつ、さらに具体化させたのが特徴です。当校の職員が情報活用能力の育成方法をイメージしやすいようにまとめています。体系表の内容は各学年ごとに随時、達成度をチェックするなどして見直しをしており、子供たちの実態に合わせて調整しています。三度見直しを行い、現在Ver.4になっています。

―情報探究の時間は週に何時間あるのですか。

松本 授業時数特例校の指定を受けて、生活科・総合的な学習の時間などを活用し、低学年は週2時間ほど、高学年は週3時間実施してきました。そして2024年度は、教育課程特例校制度を利用し「情報科」を設定します。そこで、コンピュータサイエンス系のスキルも低学年から系統的に育成する探究的な学びを展開するため、低学年では年間50時間、高学年では105時間の「情報探究」のカリキュラム開発を行いました。保護者も協力的で、例えば、生成AI活用についてのガイドラインも、文部科学省の暫定版発表より前に、PTAにおいて検討し作成しました。

FIRST LEGO Leagueの練習フィールド

―校長室にもレゴ®で作ったロボットがありますね。

松本 今年度から、6年生のカリキュラムに、「FIRST LEGO League(FLL)に挑戦しよう」を設定しました。FLLとは、9歳から16歳の青少年を対象とした世界最大規模の国際的なSTEAMの競技会です。自分たちで設計・製作・プログラミングした自律型ロボットでミッション攻略を目指す「ロボットゲーム」と、社会問題に関するテーマでの研究活動ならびに問題解決策を提案する「プレゼンテーション」の複合評価で競い合います。

授業で6年生全体で取り組んだ後に、6年生の3チームが12月の予選大会に出場しました。1チームが2月の全国大会に進んだので、校長室で休み時間や放課後に練習しています。(※取材後に開催された全国大会で入賞し、アメリカのカリフォルニア州で開催される世界大会への出場権を獲得しました。)

―自校で新しく「情報教育」を研究テーマにしようという学校に、何から始めるのが良いかアドバイスをお願いします。

佐々木 まず、子どもたちにパソコンやインターネット、情報の正しい使い方をきちんと身に付けさせることが第一歩だと思います。どれだけタイピングが速くても、情報の扱い方を間違えれば大きなトラブルを引き起こしかねません。

本日の授業ではオンラインコラボレーションホワイトボード「FigJam」を利用しましたが、あのような時間に子どもたちが好き勝手に落書きをしない状況をつくることも大切です。具体的には「落書き禁止!」とただルール設定するのではなく、「なぜFigJamに落書きしてはいけないのか」をよく考えさせることが大事だと思います。

さらに「FigJamに書き込んで」という意味を全員がすぐ理解できるように、新しいデバイスやソフトは日頃から多くのシーンで活用するのがおすすめです。Scratchも本校では1年生から取り組んでいるので、4年生でScratchの使い方を1から改めて説明する必要はありません。

課題解決サイクルを4年生までに定着させる

子どもの主体性を引き出す授業づくり

選べる算数教材

―「課題設定~情報収集~情報の整理・分析~情報のまとめ・表現」といった情報活用の流れを意識した単元・授業デザインについて、従来の流れとどのように異なるのか教えてください。

佐々木 課題設定を軸とした従来の授業では教員が主導するという傾向にありました。現在は子どもの主体性を活かして、子どもの意見をもとに学習課題を設定するようになったことが大きな変化といえます。私自身の授業を振り返ってみても、以前より子どもの発言や意思を尊重して進めるようになったと感じます。

例えば、算数の図形を学ぶ授業の場合、基礎的な問題は全員で解き、公式は教えますが、その後に解く応用問題については子ども自身で気になる問題から取り組んでもらっています。すぐに変形した図形など難しい問題にチャレンジする子どももいれば、基礎的な問題にもう1回チャレンジする子どもなどさまざまです。子どもの主体性を活かすことで、「自分は何ができていて、何ができていないんだろう」ということに子ども自身が気づけるのも大きな価値があると思いますね。

―今後の課題、やってみたいことなどを教えてください。

佐々木 まずは課題解決のサイクルを子どもたちにしっかり定着させたいと思います。課題解決力の育成にあたっては、子どもたちが主体的に考えることが重要ですが、教員がそのように仕組むこともまた肝心です。「データサイエンス」「情報デザイン」「メディア表現」「プログラミング」「コンピュータとネットワーク」「デジタルシティズンシップ」のどの領域も5年生や6年生になるとレベルがさらに高くなるため、そのための準備として、基礎をしっかり習得できるように展開してきましたが、3学期は進級後の新しい学習にスムーズに取り組めるよう授業の内容を少しずつレベルアップしていきたいと計画しています。

また、本校は学習の中で地域住民の方々や企業に協力していただく機会が多いのが特徴です。そういった校外のネットワークづくりについても積極的に参加していきたいです。

記者の目

ロボットのプログラムの数値を決め、投球データを収集する実験では、各児童が自分の役割に責任を持ち、取り組む姿が印象的だった。さらに端末を扱い方も慣れている様子で、これまでの学びが大きく活かせれていると見受けられた。佐々木教諭の話にあったように、ゲーム感覚でプログラミングを学べることで、子どもの知的好奇心は間違いなく高められるだろう。国内初のThink Big Spaceを活用した授業づくりに、今後ますます注目が集まりそうだ。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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