2023.07.31
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どう変わる? GIGAスクール時代のPC教室 New Education Expo 2023 リポート vol.9

未来の教育を考えるNew Education Expo2023 東京。特集リポート最終回となるvol.9では、GIGAスクール時代のPC教室のあり方をテーマにしたセミナーの模様をリポートする。1人1台端末の導入によって普通教室でのPC活用が可能になり、 改めてPC教室の活用方法が問われている。子どもたちの学びの変化に伴い、PC教室はどう変わっていくべきか。各校の事例や活用方法をもとに考える。

PC教室のこれからを考える〜GIGAで変わるPC教室の今後の在り方〜

東京学芸大学附属 竹早小学校 幸阪 創平氏
流通経済大学付属 柏中学校・高等学校 水鳥 未那人 氏
パワープレイス株式会社 教育・公共ソーシャルデザイン部 観音 千尋 氏

子どもの学びを広げる「SUGOI部屋」の可能性

東京学芸大学附属 竹早小学校 幸阪 創平氏

最初に登壇したのは、東京学芸大学附属竹早小学校教諭の幸阪創平氏。同校は、東京学芸大学が竹早地区の附属学校・幼稚園で進める「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」に取り組んでいる。行政、教育、企業が三位一体となって2030年に目指す学校を実現しようというもので、さまざまなプロジェクトがある中、幸阪氏らはGIGAスクール時代の学習環境を考える活動を行っている。その一環として、(株)内田洋行との共創により同校に設けられたのが表題の「SUGOI部屋」だ。

SUGOI部屋の名称は、Smart(洗練された)、Unlimited(制約を受けず)、Growing(成長する)、Open Innovation(異分野の技術を組み合わせた革新的な)の頭文字をとってつけられたもの。壁一面を埋めつくす巨大スクリーンの前にキャスター付きの机と椅子が並ぶ広々とした空間は、活用の自由度の高さと導入しやすいコストを兼ね備えている。

幸阪氏らは「1人1台端末環境ありきで、そこに子どもをあてはめる」のではなく、「以前からあった子どもの学習シーンにSUGOI部屋と1人1台端末をどう活用できるか」を検証。その実践と効果が発表された。

なかでもSUGOI部屋の特徴が際立ったと思われるのが、「創作する」学習だ。2年生の探究学習で行った映画作りプロジェクトでは、「机と椅子が自由に動かせるSUGOI部屋の方が撮影しやすい」という子どもたちの声を受け、普通教室から移動して授業を実施。段ボールでスタジオを作り、三脚にタブレットを立て、コマ撮り映画ソフトで撮影を進める中、それぞれの作品をスクリーンに投影して意見交換するなど、SUGOI部屋のフレキシブルな共創空間としての側面が見られた。

「対話する」学習では、タイの学校と教室をオンラインでつないで現地の小学生と交流したり、日本の農家の方とオンラインで話し合ったりする社会科の活動を紹介。幸阪氏は「SUGOI部屋の大画面がもたらす臨場感により、まるで対面で話しているかのような環境が実現できた」と語った。

「スクリーンはホワイトボードを兼ねていて、マーカーで書き込むこともできるので、デジタルとアナログの融合も可能です」と幸阪氏。現在もSUGOI部屋を活用した新たな授業を考案中とのことで、今後の展開が期待される。

Web上に構築する「もうひとつの学校空間」

流通経済大学付属 柏中学校・高等学校 水鳥 未那人 氏

続いての登壇者は、流通経済大学付属柏中学校・高等学校教諭の水鳥未那人氏。数学を教えながら、PC運用面のトラブル対応も担っている。

2023年度に開校したばかりの中学校にはオンラインでの遠隔授業を想定した「バーチャル留学ルーム」が設置され、高校のPCルームもアクティブ・ラーニングに適した環境へとリニューアルされている。いずれも(株)内田洋行が手がけたもので、活用が進んでいる。

教員の端末は各人が使いやすいものを利用しているが、生徒用の端末は中学校ではWindows、高校ではChromebookを1人1台整備している。普通教室には備え付けのプロジェクターとマグネットスクリーンがあり、Wi-Fi経由で接続が可能。教員のICTスキルにばらつきはあるものの、かつてのように機器の接続などに時間を取られることはなくなっているという。

一方、Google ClassroomやTeamsといったWeb上に展開される「もうひとつの学校空間」となると話は別で、同校に限ったことではないが、教員の誰もがそれを効率よく構築できるわけではないようだ。

例えばGoogle Classroomにホームルーム用のクラスを作成すると、教員・生徒間の連絡や課題の配布・提出などが容易に行える。しかし、クラス作成や教員・生徒の登録を一つひとつ行うには、かなりの手間と時間が必要だ。そこで水鳥氏は、Googleのサービスを自動化するためのプログラミング言語であるGoogle Apps Script(GAS)を使って、各クラスの作成と、各クラスへの担任、生徒、教科担当教員の登録を一括で行う方法を紹介した。これを新年度までに行っておくと、年度始めからスムーズに活用できる。

「ICT環境のハード面が整った今、仮想的な学校空間の構築についても考えるべき時期にきている」と水鳥氏は指摘。そのために確保すべき人材として、私見と断った上で「ガジェット好きな人、何でも調べて動いてみようとする人」を挙げた。例えばGASであれば、解説本よりネット上の関連記事の方がわかりやすいため、積極的に検索してやり方を見つけられる教員が望ましいという。さらに水鳥氏は「他の教員からの質問に快く対応できる人、8割ほどの完成度でも仕組みを動かすことを優先できる人、映像配信ができる人」を挙げ、こういった教員がチャレンジできる仕組み作りの必要性も訴えた。

新しい学びを実現する「これからのPC教室」

パワープレイス株式会社 教育・公共ソーシャルデザイン部 観音千尋 氏

最後に登壇したのは、パワープレイス株式会社の観音千尋氏。同社は内田洋行グループの一級建築士設計事務所で、観音氏はPC教室など学びの空間の構築に携わってきた。PC教室は2015年前後からアクティブ・ラーニングへの対応が進み、現在は1人1台端末を活用したより能動的に学べる空間が求められているという。

「これからは整備されたICTを活用し、どのように新しい学びを実現していくかを考える必要があります。学校からの要望でよく口にされるのは、STEAM教育、ハイフレックス型授業、プレゼンテーション、海外提携校との遠隔授業、オンラインでのキャリア授業といった新しい学び。プログラミング教育では実際にモノを動かす学習をしたいという声が増え、デジタルデータを用いてものづくりをするデジタルファブリケーションや、クリエイティブな発想で解決策を見出すデザインシンキングを取り入れたいという要望もあります」(観音氏)

観音氏らが主に提案する教室は、普通教室の1.5倍~2倍程度の大きさが多く、設備としては、マルチ投影・大画面投影環境、遠隔授業用カメラ・マイク設備、可動式家具、全面ホワイトボード、高性能PC・モニターのほか、3Dプリンターなど各学校の特色に応じた機器を導入するケースも多いそうだ。

  • 近江高等学校 Mirai Lab

  • 鴻巣市立鴻巣中央小学校 のすっ子未来教室

  • 郁文館夢学園 Future Lab

  • 成城学園初等学校

例えば、2023年度からグローバル探究コースを新設した近江高等学校では、大画面スクリーンと高性能のマイク・カメラを備え、海外の学校との遠隔授業を実施。鴻巣市立鴻巣中央小学校はハイスペックPCを使ってデジタルコンテンツなどを創作し、スクリーン前に設けたステージで発表するといった活動を行っている。さらには郁文館夢学園のように、課外活動やプロジェクト型学習の内容をデジタルサイネージに表示し、学内で共有している例もある。

このようにPC教室はより特色のあるものへと変わりつつあるが、さらに1人1台端末の活用が進むと、「PC教室以外にもラーニングコモンズのような、個別学習や自主活動、グループ活動に使用できる多目的な空間が必要になってくる」と観音氏。すでに私立の小中高校では、そうしたスペースを新設する例も見られるという。

「教科や学年ではなく、授業内容や学習目標に合わせて適した場所を選ぶ時代になってきていると感じます。それに伴い、教職員のICT活用、リテラシー・意識の向上が必要になり、STEAM教育などの教科横断学習の実践により教員のコミュニケーションや働き方も変わってくる。教職員もまた、授業外でも業務や作業に応じて場所を選ぶようになっていくのではないでしょうか」(観音氏)

記者の目

PC教室のあり方が課題になる中、本セミナーでは新たなPC教室の形が数多く示された。特に公立校の鴻巣中央小学校の事例は、自治体の関心も高いと思われる。また、環境ありきではなく子どもの学びを起点とする考え方や、Web上の学校空間の構築に関する指摘も、今後のPC教室やICT活用に向けて参考にすべきと感じた。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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