学び合いを通して考えを深め、数学的な見方を働かせる(前編) 品川区立品川学園「算数」授業リポート

新学習指導要領へ移行して4年。知識・技能の習得だけでなく、児童同士で意見を出し合い、主体的に学びを深める授業が多くの教育現場で導入されている。今回は、主に算数科で「学び合い」を含む「個別最適な学び」の研究に注力する東京都品川区立品川学園の平野 正隆 主幹教諭の授業実践を取材した。
品川学園について

品川区では2006年度から全国に先駆けて小中一貫教育を開始。品川区立品川学園は2011年4月、品川区で5番目の施設一体型小中一貫校として開校し、温水プールや体験型経済学習施設「スチューデントシティ」を併設する。学校教育法の改訂に伴い2016年度、義務教育学校として新たなスタートを切った。
4-3-2制を意識して、フロアごとに教室の仕様が異なるのが特徴で、例えば1〜2年生のフロアは集中力を向上させるためドアは後方のみ設置。5〜7年生のフロアは廊下に面するドアはスライドさせればフルオープン可能だ。校舎全体が明るく開放感があり、6歳から15歳の子どもたちが毎日一緒に学校生活を送っている。
運動会や合唱コンクールなどの行事は1~4年生と、5~9年生とに分かれて実施しており、5年生から、50 分授業・教科担任制・定期考査・部活動が始まり、制服も変わる。
授業概要
学年:(小学校)6年生
教科:算数科
単元名 :啓林館「図を使って考えよう」(1/2)
単元の目標:文章題において、問題場面を図に表して全体と部分の割合に着目して解法を考えることを通して、全体を1として割合を考える考え方を使って解くことができるようにする。さらに用いた図や見方・考え方を生活や学習に活用しようとする態度を養う。
授業者:平野 正隆 主幹教諭
使用教材・教具:ノート
品川学園では、3年生から算数の授業を習熟度別に3つに分けて行っており、今回は算数に苦手意識を抱く子どもが集まる「γクラス」の授業を取材した。
課題をつかむ
【課題】
水槽いっぱいに水を入れるのに、Aの蛇口を使うと10分、Bの蛇口を使うと15分かかります。
両方を一緒に使うと何分でいっぱいになりますか。
問題場面の動画(1.75倍速で掲載)
冒頭では児童が問題場面を具体的にイメージできるよう、アニメーション付きスライドを用いた説明が行われた。
平野教諭「水を入れる様子をよく見てね。まずはAの蛇口から、続いてBの蛇口から水を入れます」
「続いて、AとBを同時に入れてみましょう」
児童「おおー、早い!」「すごい!色が混ざっている!」
平野教諭「“AとB両方を同時に使うと何分でいっぱいになるか?”を考えていきましょう。まず、この段階で何か予想できた人はいますか?」
児童1「Aの10分とBの15分をそれぞれ2で割ると5分と7.5分になります。それらを足した12.5分が答えだと思います。」
平野教諭「みんなはどう思いますか?12.5分で合っているかな?」
児童2「Aの蛇口は10分です。Bも一緒に入れるのに、それよりも時間がかかるのはおかしいと思います。」
解決の見通しを立てる

平野教諭「そうですね。AとBの2つを使うのだから、Aだけのときよりも早くなるはずだよね。ここからは線分図を使って考えていきましょう。Aは10分でいっぱいになりますが、1分だとどれくらい入るのでしょうか?」
児童3「水槽に何リットル(以下、L)入るかわかりません!」
平野教諭「いいことに気づきました!それが重要です。水槽に水が何L入るかわからない状態で、考えなければいけません。みんなで考えていきましょう。」
課題解決の見通しを立てるため、班で話し合う時間が8分与えられた。机は授業スタート時から4人グループの形になっている。
自力解決をする
平野教諭「(線分図の1目盛りを指しながら)ここの数字がわかった人はいますか?」
児童4「1/10Lだと思います。」
平野教諭「惜しい!1目盛りが1/10Lということは、全体で何Lなのでしょうか?」
児童5「1だと思います!」
平野教諭「正解です!全体を1と置いたとき、1目盛りは1/10になります。同じように、B の蛇口のみのとき、A・B 両方使ったときを線分図に表して、この問題を解いてみましょう。」
自力解決のため10分が与えられた。「全体1を1Lとして考えるとわかりやすいよ。」とヒントを投げかけながら班をまわる平野教諭。一人でノートに向かい黙々と考える子もいれば、同じ班の子どもと積極的に話し合う子などさまざまだ。
集団検討をする
そのまま集団検討の時間になった。「進んでいる子が3人います。みんなで協力すれば絶対にできるよ!」とエールを送る平野教諭の姿が印象的だった。進んでいない班には、わかった子を派遣する。
10分経ちアラームが鳴ったが、「あと5分欲しいです!」と子どもたちから声が上がった。
平野教諭「よし!大サービスだ!あと5分あげるから考えてみてください。」
5分間、再び子どもたちは解決に向けて考え始めた。
平野教諭「はい終わりです。最後のチャレンジです。わかった人は手をあげてください。うまく話せなくても大丈夫!頑張っている姿が大事です。」
児童6「AとBの2つの蛇口から同時に入れるから、Aの1目盛りは1/10Lで、Bの1目盛りは1/15Lです。1/10L+1/15L=5/30Lとなり、約分すると1/6Lとなります。だから6分となります。」
平野教諭「説明はほとんど正しいですが、式が1個だけ足りません。1/6だから6分と話してくれましたが、少し違います。わかった子はいるかな?」
どの子どもも自分の答えをつぶやくものの、なかなか正解には至らない。
平野教諭「例をあげるからよく見ていてね。(板書の線分図を指しながら)40Lの水槽の場合、1分で8L入る蛇口なら何分でいっぱいなるでしょうか?」
児童たち「5分!」
平野教諭「どうやって計算したの?」
「40÷8です!」とほとんどの子どもが大きな声で答えた。
平野教諭「だよね。では全体が1Lで、1分が1/6Lだったらどんな式になるでしょうか?」
児童1「1 ÷1/6だと思います」
平野教諭「そうですね。では本当に6になるか計算してみましょう」
黒板を使い、分数の割り算を全員で解いていく。
深める
平野教諭「今、ここを1Lと置きましたが、これが30Lになると答えは変わるのでしょうか?1目盛りは何Lになりますか?」
児童2「1/10!」
平野教諭「1/10を10回足したら1Lになっちゃうよ。30Lを10個に分けるだけだよ。」
児童5「3L!」
平野教諭「正解です。3L、6L、9L、、、、、30Lと3Lずつ増えていくんです。じゃあ蛇口Bのは1目盛りは何Lかな?全体が30L だったら1分に2Lだから、A+Bは3L+2Lで5L、30L÷5Lで6分になりますね。
じゃあ先生が最初に置いた「1」って何なのでしょうか?なぜならば、“わからない”から1と仮定していたんです。
この全体を「1」と仮定したのは5年生のときに習った「割合」の考え方からきています。全体を1としたら、下の1目盛りが1/10となるわけですね。それでは全体を60Lとしたらどうなるでしょうか?最後のチャンスです。誰か前に来て説明してみてください。」
児童6「1の部分が60になるので、60÷10で6Lになります。Bの1目盛りは1/15なので60÷15して、4Lになります。次に6+4をしてaとbは10になります。次に60÷10=6になるので、6分間になります。」
まとめる
平野教諭「水槽に入る量にどんな数字を当てはめても、同じ答えになることがわかりました。だから割合の1を当てはめて考えたのですね。それでは今日の学習でわかったことをノートに書いてください。」
最後にまとめたことを児童から発表された。
児童7「全体の数が1や30、60とか色んな数字に変わっても、答えは必ず一緒になる。」
児童1「仮定した数字が変わっても、線分図の目盛りは変わらない。」
平野教諭「皆さんよく頑張りました。今日は発表1回あたりシールを1枚、正解1回あたりシールを1枚あげます。自分で計算して取りに来てください。」
後編では平野教諭へのインタビューを紹介する。
関連記事
参考資料
取材・文・写真:学びの場.com編集部
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育リポート」の最新記事
