2024.04.15
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意外と知らない"デジタル読解力"(第1回) PISA型読解力の定義と変遷

皆さんが経験してきた国語の授業は、どのようなものだったでしょうか。どんな教材が扱われ、どんな感想を抱きましたか。大人になっても世間話の一つとして、「そういえばこんな物語があったよね」と盛り上がったこともあるのではないでしょうか。ここでは、そんな思い出深い国語+情報教育の未来について、一緒に考えていただけますと幸いです。第1回では、PISA型読解力、デジタル読解力の定義を見ていきましょう。

第2次「PISAショック」からの回復

紙よりもパソコンやスマートフォン、タブレットなどの端末でテキストを読む方が多いという人が増えているのではないでしょうか。このようなインターネット上にあるたくさんの情報の中から必要な情報を見つけて読み取る能力を「デジタル読解力」と言い、PISA*のデジタル読解力調査が有名です。

*PISA(Programme for International Student Assessment)…OECD生徒の学習到達度調査。 3年に1度、OECD加盟国などの15歳(日本では高等学校1年生)を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野の習熟度を調査する国際的な学力調査。2022年調査では約69万人(うち日本は183校・約6000人)が受検した。『世界標準の読解力』(2007)によると、問題は、日本、アメリカ、オランダ、オーストラリアの4ヵ国が共同で作成しているそうである。

2023年12月に公表されたPISA2022の結果で、コンピュータ使用型調査に移行した2015年調査、2018年調査と順位が低下していた「読解力」の順位が回復したことが話題になりました。主な要因としては、次の2つが挙げられています。

  1. 日本はほかの国に比べて、新型コロナウイルスを原因とする休校期間が短かった。(他の国の得点が低下した。)
  2. コロナ禍により予定が前倒しされたGIGAスクール構想による1人1台端末の実現により、生徒がコンピュータを用いたテストに慣れてきた。

図からもわかるように、日本の「PISAショック」は2回ありました。1回目(2003年の第2回調査で読解力の順位が大きく下がったこと)を受けて、いわゆる「ゆとり教育」から「学力向上」へと舵が切られ、2007年には全国学力・学習状況調査が43年ぶりに復活し、「PISA型読解力」向上のための取組が始まりました。

PISA型読解力とは

PISAが計測している「読解力」と、従来日本の国語科教育が重んじてきた「読解力」との一番の違いは、その守備範囲といってもいいでしょう。これまで私たちが受けてきた日本の国語科教育では、連続型テキスト(文と段落から構成され、物語、解説、記述、議論・説得、指示、文章または記録など)をきちんと読む力が重視・評価される傾向にありました。

これに対し、PISAでは、連続型テキストと同様に、非連続型テキスト(データを視覚的に表現した図・グラフ、表・マトリクス、技術的な説明などの図、地図、書式など)も重視されており、写真と文章で構成されるパンフレットや雑誌、図表を伴う報告書など、連続型テキストと非連続型テキストを組み合わせた混成型テキストが多く出題されています。社会科などでは頻繁に見る非連続型テキストですが、国語科となるとほとんど記憶にない方も多いのではないでしょうか。

また、答えを導いた考え方や求め方、理由を説明するなど、長めの語句で答える「自由記述形式」の問題が4割を占めます。「読む」だけでなく、「活用」も求められていることがわかります。

令和5年度全国学力・学習状況調査の調査問題を見ても、このような問題が多く出題されています。話が逸れますが、視覚障がいを有する児童生徒は非連続型テキストの読み取りに苦労しているそうです。点字版では図を表などに置換したり、点で図を示すなど提示方法の変更・調整が行われています。弱視の場合は拡大文字版を利用しますが、グラフの濃い灰色・薄い灰色のちがいなどは見えづらいそうです。

読解力の定義と変遷

PISAが始まった2000年はまだ紙で調査を行っていましたが、その報告書に、社会・経済・文化の変化に伴って「読解力」の捉え方と要求水準は拡大してきており、社会生活を営む上で必要な最低限のスキルとしての「識字(Literacy)」 や文章を読んで内容を理解するという意味で用いられることが多い「読解(Reading)」ではなく、さまざまな状況のなかで、周囲との相互作用を通じて、自らの言語認知プロセスを振り返り、制御し、生涯にわたって向上させていく能力が「読解力(Reading Literacy)」とあります。定義を下の表に示しました。

調査年 
定義
測定する能力
2000 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、使用し、熟考する能力 ・情報の取り出し
・テキストの解釈
・熟考と評価
2009 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、使用し、熟考し、これに取り組む能力 ・情報へのアクセス・ 取り出し
・テキストの統合
・解釈 ・テキストの 熟考・評価
2018 自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、テキストを理解し、使用し、評価し、熟考し、これに取り組む能力 ・情報を探し出す
・理解する
・評価し、熟考する

2009年に「これに取り組む」が追加されています。これは、「読むことに対してモチベーション(動機付け)があり、読書に対する興味・関心があり、読書を楽しみと感じており、読む内容を精査したり、読書の社会的な側面に関わったり、読書を多面的にまた頻繁に行っているなどの情緒的、行動的特性を指す」そうです。

また、2018年には、コンピュータ使用型に移行したことで、テキストの前の「書かれた」がなくなり、テキストの中の信ぴょう性、著者の視点、テキストと読み手の目標との関連性などの要素を検討する「評価」が追加されました。

測定する能力

次に、測定する能力を見てみましょう。デジタル読解力の測定が始まった2009年に、「(情報への)アクセス」や「(様々な箇所にあるテキストの)統合」が追加されています。生徒の解答結果に応じて出題内容を変える「多段階適応型テスト」と、テキスト処理の正確さと速さを測る「読みの流ちょう性課題」が導入された2018年には、「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」が追加されました。この2項目を問う問題の日本の正答率は低かったそうです。

  1. 情報を探し出す
    -テキスト中の情報にアクセスし、取り出す
    -関連するテキストを探索し、選び出す
  2. 理解する
    -字句の意味を理解する
    -統合し、推論を創出する
  3. 評価し、熟考する
    -質と信ぴょう性を評価する
    -内容と形式について熟考する
    -矛盾を見つけて対処する

国立教育政策研究所「PISA2009年デジタル読解力調査~国際結果の概要~」に、習熟度別のレベルの説明があります。レベル2は主に情報活用能力育成モデルカリキュラム**における学習項目例の小学校3・4年レベルに、レベル3は5・6年レベルに相当します。

**情報活用能力育成モデルカリキュラム…2012年に、特定非営利活動法人 情報ネットワーク教育活用研究協議会・P検協会(ICTプロフィシエンシー検定協会)が開発

習熟度レベル
特徴(できること)
PISA2009 デジタル読解力 での生徒の割合(OECD平均)
レベル5以上 あいまいな状況で、見慣れない文脈に関連した情報を探し出し、分析し、批判的に評価すること。テキストを評価する基準を作り出すこと。明確な指示がない複雑なサイト間のナビゲーションを行ったり、様々な形式のテキストから詳細な情報を得ること。 7.8%
レベル4 様々な形式でのテキストから構成されるいくつかのサイト間をナビゲーションしたり、見慣れた、個人的あるいは実際的な文脈に関連付けて評価のための基準を作り出したりしながら、いくつかのソースから情報を得て、それを評価すること。科学的、技術的な文脈において、わかりやすい基準に従って複雑な情報を説明すること。 22.5%
レベル3 わかりやすい対象の情報を見つけるために、いくつかのサイト間をナビゲーションしたり、課題が明白には示されていない場合、単純なカテゴリーを創り出したりしながら、情報を統合すること。情報が直接的にアクセス可能な場合のみや、アクセス可能な 情報の一部が求められる場合のみ、評価することができる。 30.4%
レベル2 通常見慣れた文脈に関連付けながら、わかりやすい情報を探し出し、解釈したりすること。明確な指示が与えられたり、低いレベルの推論が求められるだけの状況において、限られた数のサイト間のナビゲーションを行ったり、ドロップダウン・メニューなどのウェブツールを応用すること。定義付けられたカテゴリーに明白に適合する例を認識しながら、異なる形式で示された情報を統合すること。 22.4%
※レベル1以下は16.9%

マンガも非連続型テキスト

(早野他2018)図2より

GIGA端末を使って、小学生も日常的に図やグラフ、動画などを作り、情報発信する時代になりました。新しい情報伝達媒体から発せられる情報の核となるものを正確に受け取り、自ら発信していくためにも、非連続型テキストを読み解く力が必要な時代が到来しています。

さらに影響力と訴求力が強く、子どもの日常に深く関連している、マンガ、アニメ、ゲーム、ドラマ、映画、YouTube、SNSなどのマルチモーダル・テクスト(文字、色、イラストなど複数の手段を用いた伝達方法)、いわゆるサブカルチャー作品も国語教材になる日が来るかもしれません。『ひろがる言葉 小学国語5下』(教育出版) に採録されている「まんがの方法」はマンガの構成や表現方法について論じている教材文です。

国立教育政策研究所「PISA2018のポイント」の結果分析に「各問題の解答状況を分析したところ、自由記述形式の問題において、自分の考えを根拠を示して説明することに、引き続き課題がある。誤答には、自分の考えを他者に伝わるように記述できず、問題文からの語句の引用のみで説明が不十分な解答となるなどの傾向が見られる。」とあります。

PISA2022で「問6:情報の質と信ぴょう性を評価し自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する(自由記述)【③評価し、熟考する】」の正答率は8.9%から14.3%へと改善しましたが、問題文を読み進めることはできても、咀嚼して自身の言葉で述べる能力には依然として課題が残っているようです。解答の鍵になる箇所をそのまま書き写すことと、自分の言葉で説明することとの間には、理解のレベルに大きな差があります。説明する力、表現する力、伝える力を育てていくことが重要です。効果音、文字で構成されているマンガの一場面を、文章を用いて説明させる授業実践もあるようです。

第2回では、第2次「PISAショック」を受けて実施された海外調査や、2021年度に実施された情報活用能力調査の結果などを紹介します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 田鎖 智恵

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