4年生の実践「特色ある地域のくらし~大阪府堺市~」
前回は、3年生の実践について書かせていただきましたので、今回は4年生の実践について紹介したいと思います。
大阪府堺市は、「堺打刃物」という包丁を中心とした刃物の伝統産業が盛んで、おそらく全国にも知られていると思います。研究授業のために何度も堺市に足を運んだ、自分にとっては思い入れのある教材です。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
教材の条件
4年生の「特色ある地域のくらし」の伝統産業を扱う授業では、全国でいろいろな教材が開発されていると思います。それを知るだけでも楽しいでしょうが、伝統的なものは、やはり子どもの日常からは遠いものが多い印象があります。しかし、この堺打刃物(さかいうちはもの)は、包丁やはさみですので、子どもの日常とはそんなに遠くなく、興味・関心が高まりやすいように思います。なかには自分の包丁をもっていたり、毎日使っていたりする子もいるかもしれません。また、何より私が「職人の方が好き」ということもあり、楽しみながら教材を作っていました。
大阪市では、4年生の副読本に昔から教材として扱われています。そのため、私の場合は教科書で取り上げられている伝統工芸士の味岡知行さんを取材させていただきました。堺打刃物の職人さんは、そのような自分の仕事を発信していくことを厭わずやられているように思いました。
さらに堺打刃物は600年の歴史があり、プロの料理人からの需要も高いです。今では海外でも売れていますが、売り上げが低迷した時期もありました。教材開発をしている時期に、外食をした際に(主に居酒屋ですが・・・)、調理されている方に包丁のことを聞いたことがあります。自分が聞いたほとんどの方が堺打刃物を使用されていました。ある方は、「やっぱり違うんよね~」とおっしゃっていました。それほどの切れ味がある堺打刃物は、教材としての価値は高いと思います。
つまり、
①子どもにとって身近ではあるが、あまり詳しくは知らない
②人が登場する
③うまくいかない課題もある(伝統の継承)
④社会での認知度が高く、市としてのバックアップがある。
……のような条件がある価値ある教材だと思います。
単元計画
単元の目標は
「伝統的な技術を生かした堺市の包丁づくりについて、人々の活動や産業の歴史的背景、人々の協力関係などに着目して、各種の資料で調べ、その地域の特色を考え、表現することを通して、堺市では、人々が協力し、特色あるまちづくりや観光などの産業に努めたり、伝統産業を守ろうとしたりしていることを理解できるようにする。」としました。
各時間の問いは以下の通りです。
第1時・・なぜ堺市の包丁は切れ味がよく、包丁づくりが盛んなのだろうか(学習問題)
第2時・・堺の包丁はいつごろからつくられているのだろうか。
第3時・・包丁は、どのような流れで、店で売られているのだろう。
第4・5時・・「鍛冶」や「とぎ」の職人は、どのような作業をしているのだろう。
第6時・・1998年ごろから2006年ごろまで包丁の売り上げが減少しているのはなぜだろうか。
第7時・・近年、包丁の売り上げがのびているのはなぜだろう
第8時・・学習問題に対する自分なりの答えはどうなるだろうか。
今回は第1時と第7時の具体を述べたいと思います。
単元の導入(第1時)
今回の単元のように伝統産業を扱う場合は、実物を使いやすいのではないでしょうか。高額で手が出せないものもあるかもしれませんが、その場合でもお借りすることは可能ではないでしょうか。実物の威力にまさるものはありません。第1時では、100円ショップで販売されていた包丁と堺打刃物の両方を用意し、比較することからスタートしました。
先生:どっちの包丁がよく切れると思う?
子ども:Aの包丁は英語も書かれていてよく切れそうな感じがする
子ども:Bはもつところが木なので高級感がある。だから高くてよく切れると思う
子ども:Bは光る感じがよく切れるような気がする
子ども:切ってみたらわかる…。
先生:そうですね…じゃあ切ってみましょうか。
ということで、紙を切りました。これはやってみればわかりますが、本当に切れ方の違いがわかります。自分のクラスでやったときは子どもたちから「おおー」という感嘆の声が上がりました。良い包丁はスーッと紙が切れます。きゃべつなどの野菜を切っても良いと思います。
ここで堺市でつくられている堺打刃物であることを紹介し、プロの料理人の90%が利用していると言われていることを知らせます。ここまでの過程があれば、「なぜ切れ味が鋭いのか」「なぜ堺市で包丁づくりが盛んなのか」「なぜそこまで人気なのか」という問いは醸成しやすいでしょう。
ここで無理に子どもの言葉で学習問題をつくらずとも教師から「堺市でつくられた包丁はなぜ切れ味が良く、盛んにつくられているのだろうか?」と提示しても、子どもにとって違和感はないでしょう。その後、予想(仮説)を出し、大まかな方向性(作り方・歴史・盛んにする取り組みなど)を決め、学習計画として終わります。
第7時
第6時で、伝統のある堺打刃物が1998~2006年ごろまで、安価な包丁の台頭や家で包丁を使う機会が減少していること、人口減少、職人の高齢化などのよって売り上げが減少していることを学習します。その事実を理解した上で、グラフを見せます(図2:大阪府全体の出荷額なので、堺の刃物だけではありませんが、大まかな推移を把握するには有効です)。
すると2010年あたりから出荷額が急増していることがわかります。そこで、「なぜ、近年は売上がのびているのだろう?」という問いが立ちます。そして資料から「外国で和食が人気」「外国での宣伝活動」「外国のプロの料理人に評判が良い」「国内では、堺刃物職人育成道場がある」「堺刃物まつりのような知らせる取り組みがある」事実をつかむことで、国内での取り組みと国外での取り組みの両方を進めていることが理解できます。
そこで「今後、堺市は国内での取り組みと国外での取り組みのどちらに力をいれればよいと思いますか?」と問います。
先生:今後、売り上げを伸ばすために堺市や職人さんは国内と国外のどちらの取り組みに力を入れたら良いと思いますか?
子ども:国外での取り組みをもっとやったほうが良いと思います。なぜなら、多くの国に行けば人も多く、売れる可能性があるからです。どんどんいろいろな国で宣伝したら良いと思います。
子ども:外国人の職人さんも出てきているので、その職人さんの力を借りて外国で宣伝して売り上げを伸ばしたら良いと思います。
子ども:今は和食が外国で人気があるけど、そのブームはいつか終わるから、国外より国内に力をいれていったほうが良いと思うけど…。
子ども:外国でたくさん売れるかもしれないけど、そもそも職人さんを増やさないと堺打刃物がたくさん生産できなくなる。
子ども:日本で和食はなくならないので、日本でたくさん売ることを考えたほうが良いと思います…。
対立構図をつくるためにやや無理やりな感じはありますが、二項対立は話し合う内容が焦点化され、考えやすくなり、友だちの意見も理解しやすくなり、結果として内容が深まることが多いように思います。
伝統産業が盛んな地域
伝統産業が盛んな地域は、伝統を守りつつ、新しい取り組みによって持続可能にしていく事例がたくさんあります。
だからといってうまくいっているとは限らない…でも課題に立ち向かっていく…という人の営みが見えやすいので、子どもたちにどっぷり共感的に理解してほしいと思います。それが小学校段階において「社会を理解する」ことの一つだと考えています。
関連リンク
石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
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