2009.01.20
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科学エッセイ:マグマの粘りけと火山の形のいろいろ

第11回のテーマは「マグマの粘りけと火山の形」。秋田大学教育文化学部教授の林信太郎がご案内いたします。

中学校一年生理科の教科書には、マグマの粘りけと火山の形との関係が書いてあります。マグマの粘りけが強いと急な斜面を持った盛り上がった形の火山ができあがり、マグマの粘りけが弱いとなだらかな火山ができる、という内容です。しかしながら、実際の火山の形はもっと複雑な要素がからみ合って決まります。火山は複雑な自然現象ですので、中学校理科の教科書から見ると、例外にあたるものがたくさんあるのです。まず、はじめに教科書の通りの火山を紹介しましょう。

キラウエア火山と大根島

〈写真1〉
キラウエア火山で野外調査中の筆者。

キラウエア火山で野外調査中の筆者。

ハワイ列島の東の端にあるハワイ島のキラウエア火山〈写真1〉 は、いまも玄武岩の溶岩を流し出す活動を続けています(2008年11月現在)。この火山に行きますと、たいていの場合、海に流れこむ高温の溶岩を見ることができます。真っ赤な溶岩が、海に流れ込んでいく様子はいくら見ていてもあきないものです。まるでちょん切れた水道管から水が飛び出しているように溶岩が出てくるのです。ここで見る溶岩はとろとろとしていて粘りけの弱いタイプのもので、玄武岩と呼ばれます。

 溶岩が海に入るところは「オーシャンエントリー」と呼ばれていますが、その周辺は火山ガスもきつく、噴気からぱらぱらと飛んでくる小さな雨滴が目に入ると、チクッと痛みます。きっと酸性化した雨なのですね。また、火山ガスの匂いもかなり感じられます。

〈写真2〉
溶岩トンネルの例。アメリカ合衆国・ハワイ島サーストン溶岩トンネル。

溶岩トンネルの例。アメリカ合衆国・ハワイ島サーストン溶岩トンネル。

このような様子を見ているとまるでここが噴火口のように思えますが、実は違います。マグマが地表に出てくる場所は、この場所から12キロメートルも上にあるのです。地表に出た溶岩はすぐに溶岩トンネル(溶岩自身の中にできます)〈写真2〉 に入って、海までほとんど冷えずにやってきます。キラウエア火山の溶岩は粘りけが弱いことに加えて、溶岩トンネルができやすいために、とても遠くまで流れることができます。これが、キラウエア火山が長い裾野を引くことのできる理由です。
〈写真3〉
楯状火山の例。アメリカ合衆国・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂部(標高4、205メートル)。

楯状火山の例。アメリカ合衆国・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂部(標高4、205メートル)。

日本の火山になれた人が、キラウエア火山に行くと、きっととまどいます。快適でなだらかな道路を走って、そろそろこれから登りになるかな? と思ったときにはもう頂上についているのです。キラウエア火山には、日本の火山のような傾斜の急な頂上というものがありません。全体に「楯」をふせたような格好をしています。楯と言ってもスポーツ大会で優勝したときにもらうあれではなく、西洋の騎士が使った丸い楯ですが。このような火山は粘りけの弱いマグマでできる火山の典型です〈写真3〉 。日本では、島根県の大根島(だいこんじま)がとても近い形をしています。直径3キロメートルほどの火山島ですが、標高が42メートルしかありません。

 この火山は、もうだいぶ前に噴火をやめてしまった火山ですが、その地形はハワイにそっくりで、のっぺりとした形をしています。何年か前、大根島をドライブしていた時のこと。ふと気がつくと私は道路右側の対抗車線に車線変更しようとしていました。片側一車線の道路なのに、危ないですね。火山学者にとって、ここの風景はあまりにもキラウエア的でしたので、ついつい錯覚を起こして、ハワイにいる時のように右側を走ろうとしてしまったのです。

 それにしてもハワイのキラウエア火山を走るのはいいものです。溶岩が流れているのを見る場合、たいていは山頂から海に向かって下っていくルートを車で走ります。広大な斜面のほとんどは真っ黒な溶岩からできていて、あまり樹木がありません。見晴らしよく太平洋と溶岩を眺めることのできるドライブは、開放感にあふれていて最高に気持ちがいいものです。

昭和新山

昭和新山は粘りけの強いマグマによる火山の代表として、その写真が理科の教科書によく載っています。昭和新山は名前の通り昭和時代に誕生しています。

 1944年からの一年半ほどのあいだに、麦畑にあたらしい火山が出現しました。この火山がどのように盛り上がってきたかは当時郵便局長だった三松正夫が詳しく記録したことで知られています。この時の噴火については、昭和新山のふもとのとても小さな博物館「三松正夫記念館」に詳しい展示があります。洞爺湖方面にお出かけのときにはお寄りになられると面白いと思います。昭和新山のオーナー(なんと、昭和新山は私有地なのです)である三松三朗さんが直接火山について説明してくれるかも知れません。

〈写真4〉
溶岩ドームの例。鳥海山・新山溶岩ドーム。1801年の噴火活動によってできた。溶岩ドームとは、粘りけの強いマグマがほとんど横に流れずに、その場所に盛り上がってできた火山体のこと。

溶岩ドームの例。鳥海山・新山溶岩ドーム。1801年の噴火活動によってできた。溶岩ドームとは、粘りけの強いマグマがほとんど横に流れずに、その場所に盛り上がってできた火山体のこと。

 昭和新山のでき方は次の通り。はじめ地面が広い範囲で盛り上がり、屋根山という山を作りました。その後、その一部をつらぬいて、高温の溶岩が顔を出しました。この溶岩のもとは、粘りけの強いマグマだったので「溶岩ドーム」
〈写真4〉 ができあがりました。その高さは、屋根山の上からおよそ110メートルにもなったそうです。

 粘りけの強いマグマだったので、盛り上がると言ってもとてもゆっくりです。一番速い時でも盛り上がりの速度は、一日2メートルしかなかったそうです。また、あまりにも粘りけが強かったために、横にはほとんど流れていません。雲仙火山の溶岩ドームの場合は溶岩が少し流れましたので、それとは少し違っています。なお、昭和新山を造ったマグマはデイサイトと呼ばれ、流紋岩と似た岩石です。

 さて、たしかに昭和新山は粘りけの強いマグマが盛り上がってできた火山ですが、実は独立した一つの火山とは言えません。行った方にはわかると思いますが、昭和新山は有珠火山(うすかざん)の一部です。有珠火山の周りには昭和新山のような溶岩ドームがたくさんありますが、すべて親イモの周りの小イモのようなもので、みな有珠火山という一つの火山の一部です。

 有珠火山は2000年に噴火を起こしましたが、その時にできた潜在溶岩ドーム(地下にできた溶岩ドームにより地面が押し上げられたもの)も「小イモ」の一つです。ここも有珠の見所の一つです。潜在溶岩ドームの上にはたくさんの火口があり、西山火口散策路を歩くとそれらを見学できます。まだ噴気をあげる火口群や地殻変動でひびだらけになった道路など、火山が生きていることを実感できる場所です。

 さて、ここまで紹介しましたキラウエア火山と昭和新山には共通した特徴があります。それは火山体のほとんどが溶岩でできているということです。溶岩だけでできた火山の場合、中学校の教科書にある通り、マグマの粘りけでほぼ火山の形は決まってきます。しかし、火山を造るもう一つの構成要素である火砕岩(かさいがん)が含まれると事情はだいぶ違ってきます。さて、火砕岩とはなんでしょう?

溶岩と火砕岩

 火山の噴火というと、たいていの人はドロドロの高温の溶岩が火口から流れ出す所を思い出すでしょう。このようなタイプの噴火は近づいても安全なので、迫力のある映像が撮れます。しかし、このような噴火の他に、激しい爆発を伴う噴火もあります。このような噴火の場合、近づくと生命に危険がありますので、あまり迫力のある映像は撮れません。

 粘りけの弱い溶岩によるキラウエア火山のようなタイプの噴火を「ハワイ式噴火」と呼びます。しかし、噴火にはほかにもいろいろなタイプのものがあります。ストロンボリ式噴火、ブルカノ式噴火、プリニー式噴火などなど、解説は省略しますが、実にいろいろなものがあります。
「ハワイ式噴火」以外の噴火のタイプの多くは、たくさんのマグマのしぶきをまき散らすような火山活動を行います。すみませんが、ここで、頭の中に炭酸水のボトルを思い浮かべていただけますでしょうか?
 さらに次のような想像をしてください、その炭酸水のボトルを持って外に出てみましょう。それからふたを開けましょう。そうしたら、思い切りふってみるのです。そうすると……炭酸水の中には泡ができて、たちまちボトルから飛び出してきます。そのとき、出てきた炭酸水はしぶきになって飛び散ります。

 この炭酸水の爆発の様子がマグマの爆発ととても似ているのです。マグマの中には炭酸水と同じようにガスが溶け込んでいます。マグマの場合は主に水蒸気、炭酸水の場合は二酸化炭素です。マグマ中のガスが急激に泡になると勢いよく火口から飛び出してしぶきになってしまいます(ちなみに炭酸水を放置しておくと気が抜けますが、この状態になったものが溶岩にあたります)。

 この「マグマのしぶき」が固まったものが火砕岩です。正確に言うと一つ一つのしぶきを火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)、それの集まったものを火砕岩と言います。火山砕屑物には「軽石」や「火山灰」や「火山弾」があります。軽石は泡だらけで白い火山砕屑物、火山灰は直径2ミリメートル以下の細かな火山砕屑物、火山弾は、完全に固まらないうちに空中を砲弾のように飛行する、いろいろな、しかも特殊な形になった火山砕屑物です(リボン状、パン皮状と形によりいろいろな名前がつきます)。

 溶岩のほかに、火砕岩が火山体にあると火山の形はどう変わるでしょうか?

火砕岩と火山の形

日本の火山の多くでは火砕岩がよく出てきます。なにしろ日本の火山の大半は爆発的噴火を起こしますので、日本の火山のほとんどには火砕岩が含まれます。溶岩と火砕岩が多数積み重なってできた火山を成層火山と言います。成層火山が崩れた所では、その中身を見ることができますが、多くの溶岩と火砕岩が積み重なっているのが観察できます。実に多くの層が積み重なっている所は、バームクーヘンとよく似ています。成層火山の場合、何百回、何千回もの噴火でこのようなたくさんの溶岩や火砕岩の積み重なりができてきます〈写真5〉
〈写真5〉
成層火山の内部構造。鳥海山・東鳥海馬蹄形カルデラ。

成層火山の内部構造。鳥海山・東鳥海馬蹄形カルデラ。

火砕岩が火山の中にあるとどのように形が変わるのでしょう? 山梨県環境科学研究所の荒牧重雄所長の書いた『日本一の火山 富士山』を見てみましょう。 富士山は山頂火口からドロドロのマグマを上空高く噴き上げます。噴き上げられたマグマはまもなく落下してきて熱いまま斜面に張り付いてしまいます。このよ うにして山頂には「溶結した火砕岩」ができることになります。「溶結」とは熱いマグマのしぶきがべたべたとくっつくことです。このような噴火が起こると火 口の周りがだんだん「溶結した火砕岩」で盛り上がってきます。富士山の山頂の傾斜の急なところはこのようにしてできたのです。
〈写真6〉
裾野を引く富士山の遠景。

裾野を引く富士山の遠景。

『日本一の火山 富士山』は一般向けにわかりやすく書かれているので、たいへんおすすめです(ただ、非売品なので手に入れることがむずかしいのですが……)。実は、伊豆大島、桜島、富士山、鳥海山、十勝岳など日本の火山の大部分は成層火山です。これらの火山の山頂部はふもとよりも急傾斜となっています。これらの火山のほとんどは安山岩でできていますが、富士山のような玄武岩の多い火山でもときどき爆発を起こしますので、中心部が高くなります〈写真6〉

 というわけで、日本の粘りけの弱いマグマによってできた火山(あまり数はありません)のほとんどは、中学校の教科書から見ると例外的な形ということになります。ただ、今の中学校教科書の内容は、マグマの粘りけと火山の形の基本に気がつかせることをねらいとしています。この目的のためには、許容できる単純化ではないかと私は考えています。これ以上複雑にすると中学生には理解できなくなりますし。先生方は、ぜひ実際の火山の複雑な要素をご理解の上、授業に臨んでいただけたらと思います。

火山の形を決める要素

と、ここまでは火山の形の決まる要素として、マグマの粘りけ、そして火砕岩が含まれるかどうかをあげてきました。このほかにも火山の形を決める要素はいろいろあります。火口が広い範囲にあるのか、一カ所に固まっているのか。あるいは、複数の火山が合体しているのか、いないのか。また、カルデラという大きなへこみが作られると火山の形はまた大幅に変わります。さらに火山は大きく崩れてしまうこともあります。このような様々な作用によって火山の形は決まってくるのです。

さらに知りたい方へのオススメ

本文では火山の形について紹介しましたが、火山噴火全般についてわかりやすく学びたい方は私の書きましたこの本をどうぞ。火山噴火は巨大すぎてなかなか実感をつかみにくいものですが、この本では身近な食材を使った火山実験を交えながら、親しみやすくわかりやすく火山について学びます。小学校高学年から中学生向けですが、学校の先生にもおすすめです。1時間半程で火山の基本が学べてしまいます。現在、続編を執筆中です!!(林信太郎)
参考文献
  • 荒牧重雄・太田美代著 日本一の火山 富士山. 92ページ、2008年 山梨県環境科学研究所
  • 林信太郎著 世界一おいしい火山の本 チョコやココアで噴火実験. 127ページ、2006年 小峰書店

林 信太郎(はやし しんたろう)

所属・職位: 秋田大学 教育文化学部 教授
学位: 博士(理学)
火山史や噴火について研究する火山学者。幼少の頃から科学と登山が大好きで、両方を満足させる仕事として火山を専攻した。北海道大学理学部を卒業後、東北大学大学院に進学、その後秋田大学に職を得て現在に至る。専門の火山研究の他、小中学生向けの出前授業を繰り返しながら火山や地震教材の開発も行っている。趣味はソフトクリームの賞味、剣道の試合観戦などいろいろ。横浜マリノスおよびサッカー日本代表サポーター。

構成・文・写真:林信太郎/イラスト:みうらし~まる

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