2024.04.22
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「振り返り」に値する中味(授業)が大事~参観会・懇談会編~(6)

「子どもにとって中味のある授業」を創るには、どうしたらよいでしょうか。新年度を迎え2週間余が過ぎ、子どもたちの様子が少しずつつかめてきた頃でしょうか。「子どもたちとの出会い」に続き、ドキドキの緊張は「保護者との出会い」でしょうか。この保護者との出会いも、教師にとっては授業づくりの貴重な学びの機会ではないかと思います。今回は参観会・懇談会の実際について、私の小学校教員時代の「週案簿」を手掛かりに考えてみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

私が記していた「週案簿」

私が小学校教員をしている頃、以前も話題にしましたように「週案簿」という記録を記していました。
1週間の授業計画とその記録、振り返りです。
そして、それを定期に教務主任の先生に提出していました。
私の場合、提出するから「書きます」というわけでもなく、日記のように書いていることが多かったように思います。

参観会の「振り返り」 6年算数の授業で私が考えたこと

20xx年4月27日。参観会の記録です。

どんな授業をすると、子どもが本気になって取り組むのか。
まだまだそこまでは、無理なのか。
せめて、できるだけ多くの子どもたちが発言できるような授業を保護者にも見てもらいたいと思った。
しかし、考えれば考えるほど不安になった。
こんなに不安になるのもこれまでにないほどだった。
こうして考えたのが、昨年度も最初の参観会で行った算数の教材であった(今は、教科書教材にもなっています)。
「この中から2枚のカードを選びます。例えば、5と7を選びました。これを使って、2けたの数をつくります」

授業の導入

「何ができる?」(すると、子どもたちから「57」という声)。
「もう一つは?」(というと、すかさず「75」という声)。
「じゃあ、これを引き算します。できる?」手が挙がる。
全体の様子を確かめる。
私が答えを問うと「18」という声。
これは簡単だ。
そして、「じゃ、ちがう数を選んでやってみよう」と言って、31-13=18。
ここで、子どもたちから「全部、18になるの?」という声が聞かれた。
そこで一つを子どもが選び、その後、私が一つ数字を選んで計算してみるようにした。
「98-89=9」「違う答えにもなるんだ」
「やり方は分かったね。二つの数を選んで引き算をしてみよう。どんなことが分かるだろうね」と投げ掛け、個々の活動に入っていった。

授業を終えて…

(整理すると、こんなふうになる。が、授業では、子どもたちが積極的に手を挙げたものの、ここまで整理することはできなかった)
子どもたちの反応は、普段よりも悪くなかったかもしれない。
筆算を発表するときは、多くの子どもが手を挙げた。
簡単であったかもしれないが、親がいるからか。
しかし、まだ教師とのやりとりは硬いし、自然なつぶやきも少ない。
そして、友達の発言に対する反応もほとんどない。
しかも、この結果から分かることに話し合いが及ぶと、手はパタッと挙がらなくなった。
発言に対する反応も全くないに近い。
出された意見は悪くないから、それらを掘り下げていくと面白いと思ったが。
深めるための手立てを私自身が持っていなかったということも大きい。
今の子どもたちの状態がもっと「見え」ていれば、手立てもきちんと打てたかもしれない。

子どもたちからは、こんな意見が出された

子どもたちからは、こんな意見が出された。

〇 2つの数の間(差)と9をかけると答えになる。
〇 並びの数字(差が1)の時は、答えが9になる。
〇 2つの数がいくつ離れる (差)かで答えが決まる。
  1のとき…9 2のとき…18 3のとき…27 4のとき…36
〇 答えは、9の整数倍である。
〇 だから、9の倍数になっているということである。
〇 2つの数の差が同じであれば、答えも同じになる。
〇 差が少ないほどたくさんの式がある。
〇 縦で見ると、ひかれる数も、引く数も11違いになっている。
〇 縦で見ると、十の位も、一の位も1ずつ減っていく(増えていく)。

6年生ならもっと多様な見方・考え方がでるはず。
そういう思いがいけないのかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。

子どもや保護者は、どう感じたか

その日の日記には、こんなことが書かれていた。

○ 今日、参観会の授業で、算数をやりました。たしざんのなぞを解くのは、ぼくは4つ発見しました。けど、分かりやすくみんなが答えていてちょっぴりくやしかったです。でも、きまりをさがすのは、結構はやめにできてよかったです。(A男)
○ 今日の五時間目は6年生になって初めての参観会でした。お楽しみと書いてあったので、楽しみにしていました。そして、カードを使ったきまりを考えることになりました。ひみつが見つかったときは、びっくりしました。(B男)
○ 今日の参観会の授業は、自分が見つけた法則を発表し合う、国語のような授業でした。最初は、まったく分からずもやもやしていましたが、分かったときはうれしくてすっきりしました。たぶん数学者は、このような喜びとすっきりのためにやっているのだと思います。(C男)
○ 今日は、6年で初めての参観会でした。授業は、算数で遊びながら?勉強できたし、発表できたので、自分の中ではチョー満足しています。参観会で親に見られるのはなんかいやなので、ずっと前を見てたんです。でも、楽しい参観会でした。(D女)

マイナスの意見は見られなかった。先生に見せる日記だからかもしれないけれど。
一方、保護者からは、こんな声があった。

○ 算数の授業、なかなか難しいことをやっているんですね。子どものひらめきに感心させられました。
○ 授業中のクラスの様子が変わったことに驚きました。みんな集中しているし、挙手も多く、勝手な発言もなく、当たり前のことですが、嬉しかったです。E女が6年生になって、授業が楽しくなってきたというのも頷けます。先生のおかげです。
○ 参観会、懇談会ご苦労様でした。F女は今年、発表をがんばるそうで、手を挙げている姿、発表する姿を初めて見ました。その調子!
○ 懇談会、無事終えることができ、ありがとうございました。子どもたちのからだ、顔つきが少し大人っぽくなった気がします。来年春までの成長が楽しみです。

これらは、休み明けに書かれた本読みカードのものなので、全く参観会に触れていない方もあり、全体にどんな印象を持たれたかは定かではない。
保護者からの声は大事にしたいし、きちんとモニタリングしていきたい。
授業の評価は、私自身とは当然異なるのだが、正直、道は険しいなと感じた。

この振り返りから、思うこと

この記録は、A4版3ページ使って綴られていました。よくも書いたものです。
振り返っているとおり、新年度の始まりで、まだまだ子どもの実態が見えていないのでした。
しかも、経験が浅ければ、平常でない自分がいますから、なおさら子どもが見えてこないかもしれません。
でも、その子どもの実態こそを見ようとすることが大切だと、今、振り返ってあらためて思います。
そして、保護者に見られていることで、自分と異なる視点での見方・考え方が学べます。
これも貴重な財産です。

むすびに~今あらためて思うこと~

初任者のころ、「週案簿」に参観会の振り返りを綴った私に、指導教官のI先生は、こんなふうに赤ペンで書いてくれました。

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参観会、ご苦労様でした。
ある本に
「有名なプロ写真家は、プロの評論を受けると共に、必ず素人の意見や感想を聞くことにしている。すると、素人の見方の中にプロが忘れていた又は、欠けていた面を指摘され、次の写真に多くの成果を得るものになる。そんな点を踏まえると、学校の先生は、どちらかというと密室に近い場所での仕事だけに、もっともっと授業を素人に公開すべきである。……」
と書かれていましたが、傾聴に値するものです。
常に専門職の教師である自覚と共に、他の人から得たものをどんどん吸収することが大切です。
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授業を開くこと、そしてその機会を大切にすることをあらためて教えてくれたのでした。
今、あらためて考えるに、多くの人に自分の授業を開き、耳を傾けることは、教師が教育のプロ、教育の専門家になるために大事なことなんだ。
それは、子どもを幸せにすることにもなるのだ。
ということです。
「開かれた学校づくり」「地域とともにある学校づくり」などと言われ久しいのですが、現実にはなかなか難しいところもあります。
近年は、コロナ禍による難しさもありました。
人は、何かに向かおうとするとき、やれない理由探しをしてしまいます。
でも、自分が、同僚、そして保護者や地域の人へと積極的に教室を開いていくことが、教師と子どもが共に創る授業の質をあげ、教師にとっても子どもにとってもよいことならば、やらないという選択はないのではないでしょうか。

ちなみに、この算数の授業、2年生のかけ算がすんでいれば、それ以降のどの学年でも実践可能です。
よろしければ、挑戦してみてください。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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