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心のコップを上に向ければ、学校は驚くほど変えられる/原田隆史さん

心のコップを上に向ければ、学校は驚くほど変えられる/原田隆史さん
「熱血教師」という言葉で連想するのは武田鉄矢の金八先生? それとももっと古くて森田健作? いずれにしろ、テレビの中だけの話、と思っていませんか? ところが、現実の学校にも「熱血教師」は存在した! 大阪で荒れた学校を次々に立て直し、おまけに生徒のやる気を引き出し陸上日本一を続出させた原田隆史先生がその人。その、カリスマ教師の実践論を聞く。 (PHOTO:岩永憲俊)




 



 

 

 




 



 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 




 

 










 

 

■今の教師に足りないのは「人間力」

----これまで学校で実践されてきたことを簡単に説明していただけますか?

 現場に出て、最初の10年間はノウハウの勉強をしました。その当時は「ノウハウ論がすべて」と思うてたんです。いい授業のノウハウ、いい授業案さえ教師がもてばいいと。ところが、10年前ぐらいからノウハウだけでは通用しにくくなったんです。

 今から8年前に大阪の阿倍野区と西成区にある中学校に移りました。学区内には多くのホームレスの方々がいます。不況の影響をまともに受ける地域も抱えています。赴任当時は、学校も多くの問題を抱えていました。そこで生活指導を担当しました。ところが、やはりそれまでのノウハウが通用しないんです。「おかしいなぁ、何が足りんのかなぁ」と考えると、「人間力」、「先生の人間としての力」、これが足りないんですわ。

----具体的にはどういうことですか?

 生徒が、学びたい、勉強したい、教えてほしい、という素直な気持ちでいるとします。それを「心のコップが上を向いている」といいます。その状態なら、ノウハウを注いでいけばその人を育てることができます。そやけども、その心のコップがふさがったままの子供が出てきたんです。つまり嫌々、やる気がない、態度が悪い。だから、心のコップを上向けてあげなあかん。それを「態度教育」といっているんです。

 心のコップが上向いてる、素直なまじめな子と、心のコップがふさがってるやる気のないだらしない子で何に違いがあるのか。素直まじめな子は挨拶するし返事もちゃんとする。服装も乱れてないし授業中はノートをとる。イスは入れるし靴もそろえる。それに対して心のコップがふさがっている子は、挨拶しない、返事をしない。イスは入れないし靴はメチャメチャ。そうした態度をきちんとしたら、子どもたちはちゃんとなるんちゃうかな、と思ったんです。

 だから、心のコップがふさがっている子にも、挨拶とか姿勢とか返事をきちんとさせるんです。「そんな些細なこと」言いますが、ちゃうでぇ、と。そういう小さなことを放置しておくと心がすさんでみんなの態度が悪くなる。そういうことで、挨拶とかイスを入れるとか、いい姿勢で聞くとかいうことにこだわったんです。しんどかった学校が、みるみる学校としての機能を取り戻してええ学校になったんです。だから、「態度教育」というのは、いまの幼・小・中・高・大・一般社会の若者を教育するときには、ノウハウ論より前に必要なものだ、ということです。
 
 でも「挨拶しろ」とか言う教育は、一対一でないとできません。だから、そうしたことを広く多数に広める必要がある。今語ったようなことが「ほんまに正しいねん」て、形にして出さなあかんのです。こうやって、そのことが大切だ、価値がある、だからやってみましょう、と広く広めていくことを私たちは「価値観教育」と言っています。この「態度教育」と「価値観教育」が教師の「人間力」なんです。このふたつの次にノウハウとして「数学の教え方」や「走り幅跳びの飛ばし方」がある。今の世の中では、この3つがあって初めて教育ができるんです。これは学校でも、家庭でも、企業でもまったく一緒です。

■こだわることが結果を出す

----確かに取材に行くと、学校によっては授業中に寝ていたり化粧をしている生徒も少なくありません。先生も何も言わない。あの状態を本当に変えることが、そんなに簡単にできるんでしょうか?

 先生もほんまは、鏡出したり携帯電話する生徒をうっとうしいと思うし、やめさせたいと思ってるんです。でもできない。なぜかというと「態度教育」能力がないからです。僕はどうするかといったら、こだわるんです。

 最初は遅刻にこだわったんです。初めは100人ぐらい遅刻がいました。何で遅刻が減らないかといえば、怒らないからなんです。だから朝礼のときに場所を分けてしっかり怒りました。ほんなら、一週間ぐらいで遅刻が50人ぐらい減りました。次にクラスやクラブ担当のほかの先生に頼んで怒ってもらいました。ほなガーッと減りました。次に、親に協力してもらいました。それで10日もせんうちに100人の遅刻が2、30人になったんですね。

 ほんで残りの子には、「8時半に学校始まるから8時に正門で待ち合わせをしよう」といったんです。それでまた遅刻が減りました。でも、それでもあかん子もおるんです。それで、7時半に教師が迎えに行きました。それで100人の遅刻が一桁になったんです。でも、この残った5、6、7人ぐらいが手強いんですわ。なぜかというと親も「学校なんか行かんでええ」本人も全然興味がない、という子ですから。朝、教師が迎えに行っても、カギ閉めて居留守を使うんです。

 そうしたら僕の出番で、夜の9時ごろ家庭訪問するんです。それで叱るのではなく親と話をします。それで9時半になったら「おなか減った」と言って一緒に食事をします。それで10時になったら「泊まるから布団敷いてくれ」って言うんです。そうしたらそれが伝説になって、「原田は泊まりに来る。あの先生はそこまでやる」と。

 これが僕らが言う、「こだわり力」なんです。それで僕のオーラが変わるんです。原田先生は絶対遅刻を許さない、というオーラが出るんです。今の子どもは、校則とかルールとか法律とか言っても、誰も聞きません。ところが、その人のムードとかオーラには反応するんです。なぜかといえば、その人が本気だから、本物だから、人間力を通じた教育をするから。

■「ゆとり」とつけた時点で負け

----文科省が進めたゆとりの教育についてはいろいろ批判がありますが……。

 教育関係者で諸外国の失敗の歴史を知っている人は「あれは失敗するもんや」ってわかっていました。宗教的土壌のあるアメリカやイギリスが失敗したのに、そういう土壌のない日本で規制を緩めて子どもと家庭に任せても、あかんことわかりきってます。

 教育の原理原則は「主体変容」ということです。それを今の若者は、仕事を変えたら何かが変わる、と思っている。自分を変えて仕事への取り組みを変えるからいいものが出るのに、自分が変わっていない、つまり主体が変容していないからどんなとこに行ってもダメです。自立する力も選ぶ力もない子どもに、デパートみたいにたくさん選択肢を与えて自主性にまかせると言ってもうまくいきません。そのような間違いを文科省はここ10年やってきたんです。

 平成14年度からの教育指導要領のテーマが「ゆとりは最低ラインの基準」で、各自の「ゆとりの中で生きる力を高めなさい」という言葉を正しく理解したうえで指導できている先生はあまり多くないと思います。「ゆとり」って言葉が悪いじゃないですか。ゆとりって、しんどいから休めってことでしょう。ゆとりってつけた時点で負けや。「本気」とか「死ぬ気」とかつければ「こら、がんばらなあかんわ」って思うじゃないですか。

■人は変わるし変えられる

----教師になる人の資質も問題ではありませんか?

 教師になる人は、子どもが好きでなければならない、忍耐強くなければならない、薄給でも教育に価値観を見出している人でないと続かない。でも、それだけあったら態度教育も価値観教育もノウハウも技術として確立しているからそれを教えることはできます。あとネクラな人は今の教育界は厳しい。生徒にしてみれば、怒られても明るい先生のほうがいいですよ。ネチネチ言われたらやじゃないですか。

----では、ネクラの人が原田さんの教師塾に来たら?

 それは人は変わらないと思っているだけで、人は変わるんです。その技術があります。見事に変わります。自分を変えられたら、目の前の子どもを変える自信になります。それにネクラの人がネアカを演じてもいいじゃないですか。だから教師の条件としては「情熱」「公平さ」「ユーモア」「演技力」です。僕らは人は100%変わる、変えられる、自分も変わる、という立場だから影響力が違います。

 私の教師塾では、そういう先生をあと3年間で1000人作ります。そして日本全国の各地区に「なんか困ったら、この先生とこ行け」という人を置きます。国も地方の行政も関係あらへん。僕らの志だけで学校改革をします。

----大変そうですが、うまくいってほしいですね。

 成功するためにやってることやから。結果はドミノ倒し式に出ますから。どう考えても、失敗する要因ないです。利害関係ないし、それやったから困る人おれへんし、お金かからないし、何のマイナス要素もないんです。4月からは、関東教師塾も始めますよ。

(取材・構成/堀内一秀)






 

原田隆史(はらだたかし)さん

1960年大阪府生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市立の中学校勤務。陸上部の指導、生徒指導に尽力し荒れた学校を立て直し「生徒指導の神様」と呼ばれる。3校目の松虫中学校では7年間に13回陸上日本一を誕生させる。2003年3月に退職し、現在は天理大学講師。著書に『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社刊)『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社刊)がある。

原田隆史さんの公式サイト
http://www.haradatakashi.jp/


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