すっかり春らしい季節になってきました。桜の開花も待ち遠しいですね。
間もなく今年度も終わり、新学期が始まります。そこで今回は、新しいクラスを担任したときに、まずやってほしいことをお伝えしようと思います。実は最近、子どもたちの我慢する力を上手に育てることが、クラスを上手にまとめることに繋がるのではないかと感じたことがありました。ソーシャルスキルの中で、「我慢」ということはあまり注目されずにきましたが、アンガーマネジメント(イライラする気持ちなどをコントロールすること)と共に、教師が意図的に育てていかなければならないのかもしれません。
さて、私が「我慢」に注目したのは、新しいクラスを担任することになって子ども達と出会ったときに、授業中にもかかわらず出し抜けに答えを言ったり、言わなくていいことを呟いて空気の流れを止めたりする存在に戸惑ったのがきっかけでした。この状況をイメージされたときに、「それは発達障害の子どもに関してのことだろう」と思われるかもしれません。しかし、学校現場では、必ずしも発達障害とはいえないのに、我慢がきかない子どもが増えていると感じました。
家庭の中や、少人数の会話の中であれば、相手が話したことに反応するのは大切なことです。一方、30人以上にもなるクラスの中で授業を受ける際には、教師の話にいちいち反応することが適切とはいえません。教師が、「今朝は何を食べてきましたか」のような質問をしたときになら、「ご飯!」「パンを食べてきた!」などと反応しても、問題にはなりませんが、「答えが24になるかけ算の式には、どのようなものがありますか」と聞かれたときに、出し抜けに答えを叫ぶのは考えものです。また、出し抜けに答える友達に対して、「手を挙げないで答えちゃダメなんだよ」という反応が出てしまうのも問題です。このような状態を長引かせてしまうと、クラスをまとめることはとても困難になってきます。言うまでもなく、子どもたち全体のモチベーションが下がりますし、出し抜けに答える友達への評価も下がってしまいます。教師にとっても、この状態で授業を成立させるためには、多くのエネルギーを使うことになり、疲弊してしまうのです。ですから、最初のうちに適切な対応や指導を行い、子どもにとっても、教師にとっても、授業をやりやすいものにしていかなければなりません。
ところで、我慢には、「やってはいけないことを我慢すること」「やりたくないのに我慢してやること」の二種類があるという話を聞いたことがあります。これらの我慢は、学校のような社会生活の中で、子ども達が身につけなければならない力です。この力が、実際の社会で働くときに土台になっていくからです。
授業以外の例をご紹介しながら、我慢についてさらに考えてみましょう。あるとき、とても口の達者な子どもAさんが、友達Bさんにきつく言いすぎて喧嘩になりました。Bさんにも課題があるかもしれませんが、何かにつけてAさんから厳しい言葉を浴びせられたのではたまったものではありません。しかし、Aさんは、自分は正しいことを言っているのだから、悪くないと言い張ります。このことが保護者の耳にも入り、大人を交えての揉め事に発展してしまったことがありました。
実は私の息子にも同様の傾向があり、随分と心配した時期があったのを思い出します。「君は正しいことを言っていると思う。ただ、それを相手に強要することはいいことではない」。そんなことを、繰り返し話してきかせた記憶があります。相手の気持ちを考えて、言いたいことを我慢することも大切なのです。そして、もし言いたいと思ったなら、相手の気持ちを逆撫でするような言い方を避けるべきだと思います。
この問題が起きてから、改めてAさんの様子を観察してみると、愚息と同様にいつも友達に正しさを求める傾向がありました。しかも、授業中でも我慢ができずに、相手の未熟な点を指摘することが度々あることもわかってきました。出し抜けに解答することだけではなく、授業中に不要な声を発することも我慢する必要があるといえます。
私はAさんと話をし、言いたくても我慢することは、友達と関わる上ではとても大切なことだと伝えました。そして、Aさんが我慢することができたときには、必ずその場で褒めるようにしました。しばらくすると、Aさんの心配されるような傾向は、ほとんど見られなくなりました。
短期間で成果を上げられたポイントはいうまでもなく、自分の不利益にならないように我慢することの必要性を伝えたことと、本人の努力を認めたことです。残念なことに、同様の指導を行ったとしても、すべての子ども達を短期間で改善させることは困難です。でも、我慢ができる子ども達をクラスの中に増やしていくことは、意義のあることだと思います。トラブルが減りますし、授業がやりやすくなるからです。
個別的な指導の他に、クラス全体に約束を確認することも有効です。当たり前のことですが、授業規律を再確認するのです。もう高学年なのだから、わかっていて当然だと思わずに、やってみてほしいと思います。「答えがわかったら手を挙げて、指名されたら返事をし、それから答える」、「先生への質問は、先生が話し終わってからにする」など、実態に応じて約束を確認し、できたときには褒めるような指導を積み重ねていってください。
私が教師になりたての頃は、こういった指導を必要としなかったように思います。それは、子どもの様子が変わってきたからなのか、自分が気づくようになったから気になるのか、微妙な問題だなと思います。しかし言えることは、我慢というのはソーシャルスキルのはじめの一歩であるということです。社会生活では、家庭生活と異なり我慢を強いられることが多いからです。大人が手本となって、基本的なルールやマナーを守っていくようにしたいものです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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