2017.11.01
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スキルトレーニングの極意(NO.13「ソーシャルスキルの黄金律 その2」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 台風が頻繁に訪れますね。例年と異なり、急に寒くなったり、雨が続いたりしています。体調には、十分にお気を付けください。

 ところで前回は、ソーシャルスキルの黄金律として、「自分の気持ちを尊重してもらえると嬉しいように、相手の気持ちを尊重する」ことを取り上げ、実際に幼い子どもたちに教えるときには、「自分がやられていやなことは、相手にもしない」という逆説的な表現を使うと伝わりやすいという話をしました。

 この投稿を読んでくださった方から感想をいただき、ソーシャルスキルというのは、相手を尊重しようと思う相手でなければ、全く意味をなさないのだと改めて考えさせられました。日常的には深刻な問題に至らなくても、相手を大事にしようとしない関係を目にすることはよくあるものです。例えば、パワハラなどもそうです。小さなことだからと我慢していることは、誰にでもあると思います。上司だから威張っていてもいい、部下は上司の顔色を伺って耐えるといった時代を終わりにしなければなりません。誰もが、自分も相手も心地よい関係を築こうと努力し、相手と築くのが難しいと思ったら距離を置くことも必要だと思っています。

 
 さて、ソーシャルスキルの根源的な話に舞い戻ってしまいましたが、今回も前回に続いて「黄金律」についての話を続けたいと思っています。というのは、いくら相手の気持ちを尊重して接しようと努力したとしても、伝わりにくいこともあるし、誤解を招かないように完璧な表現をすることは難しいのではないかと思う出来事があったからです。

 前にもお話ししましたが、私は4月から手話の勉強会と、地域食堂のボランティアに参加しています。この両者にすんなりと溶け込めたのは、全員が初心者で初対面であったからだと思います。しかし、最近、私は既に人間関係が出来上がっているグループの中に入って活動するという経験をしました。結果はとてもひどいものでした。気を遣いすぎて疲れ切ってしまったのにもかかわらず、相手には自分の思いが伝わっていなかったのだと気付かされたからです。

 おそらく、こういった経験をする方はたくさんいるのだと思うのですが、ソーシャルスキルを研究し、皆さんに方法をお伝えしようと思っている自分が大きな壁にぶつかったという状況の中で、変なプライドが湧いてきてしまい、一層苦しい思いをしました。


 そんな苦しいときに、成人して働いている娘と話すことができました。彼女は今、仕事を始めたばかりで研修を受けています。ですから、出来上がっている環境に一人で踏み込んでいるという状況が似ています。その娘は、自分はいつも年上の女性との関係を作るのに時間がかかるという話をしてくれました。だから、どこの組織やグループに参加するときにも、そのことを覚悟しているというのです。生意気な娘なのですが、このときは教えられたなと思い、謙虚な気持ちでアドバイスを受け止めました。

 確かに思い起こすと、私が集団に慣れるときにも特徴がありました。ひとつは小学校の教師をしていた当時、異動して2年くらいの間は、保護者からの評価が定まらずに苦労することが多かったことです。それが3年目を迎えることになると、どこにいても、誰と関わっても居心地がいい雰囲気になっていきました。それから、はっきりと物を言うタイプの同僚が苦手で、何を聞いても快く応じてくれる同僚であれば、年齢を問わずに仲良くなれました。それも、男性の方が楽に関われたかもしれません。


 こんな風に考えているとき、自分が若いころに先輩から教えられた言葉が蘇ってきました。「人との関係には時間が必要なのよ。だから、パートナーをもつとしたら、二人で歴史を作ること」この先輩のご主人はご高齢になられてから寝たきりになり、ほとんどの記憶を無くしてしまったそうですが、不思議と奥さんの名前だけは忘れなかったそうです。時間が作る関係というのは、とても大切なのだと思い出されました。

 このような経験や思いから、ソーシャルスキルの黄金律の二つ目は、「人との関係を築くには時間がかかる」ということをお伝えしておこうと思います。どんなに相手を気遣っても、自分の気持ちが伝わり、相手にも私という人間を受け止めてもらうためには時間がかかるのです。ですから最初のうちは、出会った人や、新しく参加しようとする集団に慣れずに苦労することもあるでしょう。そしてそれは、自分だけではなく、誰でも同じだと思うのです。他人はすんなりと関係を作っていると見えることがあったとしても、内心はわかりません。ですから、時間をかけることに勇気をもってほしいと思います。


 それから、自分の関わりの癖を知ることも大切です。娘の例のように年上の女性から受け入れられにくいタイプなのか、気楽に話せるのが異性なのかといった特徴です。それを知っていると、「今を乗り越えれば上手くいくだろう」という見通しをもつことができるようになります。ただ、癖とか特徴とかを知るには経験の回数も必要になってくるので、ソーシャルスキルを磨くには時間がかかるということにつながっていくのかもしれません。

 さらに、全ての人と仲良くしようという考え方を変えてもいいと思います。人には親しくなりやすいタイプと、苦手とするタイプがあります。極端に避けたり、嫌な気分にさせたりというのは問題ですが、苦手なタイプの人とは適度な距離を置くというのも、大事なスキルなのです。

 自分が大事だと思う人と、時間をかけて関係を築いていく。そんな思いがあれば、もっと気楽に人と関わることができるのではないかと考えています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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