2018.02.09
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スキルトレーニングの極意(NO.19 「気を利かせること」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 今年の冬は例年になく気温が下がり、私の暮らす関東でも大雪が降って、日陰に積み上げられた雪がいつまでも解けずに残っていました。雪が冷たく吹き込む駅のホームで長い時間電車を待ちながら、数分間隔で運転されている電車は、雪を想定しているわけではないのだなと考えさせられる機会となりました。各地でも大雪のニュースを見聞きします。どうぞお気を付けください。 


 前回は「協働」の意味を考えながら、気を利かせることの大切さについてお伝えしました。人と共に仕事をするときには、協力し合い、補い合っていくことが求められます。そのために、気を利かせることの大切さを、子どものころから気付かせていきたいと思っています。今回は、子どもたちの様子を例にして、話を進めていこうと思います。

 ところで、「気を利かせる」とか「気を回す」といった行動をするためには、どのような心構えが必要なのでしょうか。ソーシャルスキルを高めるための第一歩は、相手の気持ちをイメージすることですが、それに加えて、「周囲を見渡す力」も大切なのではないかと思っています。目の前の一人のために動くばかりではなく、大勢の利益のために動くという視点も必要なのです。

 あるとき、クラスの中に、骨折をして松葉杖を使っている子どもがいました。教室内の移動はなんとかなるものの、音楽室などの特別教室への移動には気を遣います。そんなときに、子どもたちから声が上がりました。「先生、○○さんは歩くのに時間がかかるので、先に出発してもいいですか」というものです。私が了解したとわかると、数人の子どもたちが全体の移動に先立って教室を出て行きました。階段を使う場合には、誰かが松葉杖を持ってやる必要があると考えたのだろうと思います。

 子どもたちだけで向かわせるなんて、教師として配慮不足だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、何度も私が手助けをして移動したり、子どもたちが手伝っている様子を観察したりした結果、任せることにしたのです。それから、他の子どもたちもすぐに追いつき、階段では私が見守る形になることを想定しての話でした。そうであっても、自分たちで考えてサポートしようとすることを認めることで、怪我をしている友達のみならずクラス全体のことを考えようとする姿勢を認めることに、意味があると考えました。


 また、こんなこともありました。図工の授業で、紙を細かく切るような作業をしていたときのことです。床に紙くずがたくさん落ちていたので、普段は教室の隅に置いてあるゴミ箱を、教室の中ほどに置きました。片付けが終わった頃に、一人の子どもがゴミ箱を教室の隅に戻してくれました。低学年のクラスでのことなので、教師が戻しても当然だと思っていたのに、そのさりげない働きを嬉しく思いました。

 この話には後日談があり、その際に褒められた子どもはとても嬉しかったのでしょう。ことあるごとに役に立ちたいと思ったに違いありません。体育の時間に怪我をした友達が保健室に行くときにも、率先して付き添ったようなのです。ところが、はりきりすぎて段差につまずき、転んでしまいました。子どもというのは、とても可愛いなと思わずにはいられません。その不器用さも含めて可愛いのです。

 
 一方で、がっかりした例もあります。高学年を担任していたときに、教室の大掃除のために机や椅子を廊下に出したことがありました。翌朝、登校した子どもが協力して復元することになっていたのですが、身体の不自由な子どもの手伝いを誰一人しなかったのです。意地悪な気持ちからではなく、単純に気が利かなかったから手伝わなかったようです。そういう集団にしか育てられなかった自分にも責任があるなと、おおいに反省したことを覚えています。

 
 ある本に、自分のやっていることを、あたかも他人が見るように観察することが大切だということが書いてありました。これは、客観的、俯瞰的に見る力をもつことの重要性を指摘しているのだと思います。ソーシャルスキルを高めるためには、相手のことを尊重するばかりではなく、行動した結果を振り返ることも必要です。その際に、他人が自分を見るようにという視点で振り返ることができれば、スキルは格段にアップするのではないかと思います。

 提出物の期限を守らないときや、作業が雑でやり直しが必要になったときなどに、「自分が社長だったら、この仕事に対してお給料を払おうと思いますか」と問うと、子どもであってもNOと答えます。期限が守れなかったことには、何かしらの理由があるのかもしれません。しかし、十分に時間があり、健康であったのにもかかわらずにできなかった場合には、それを客観的に評価させていくことも大切だと思うのです。

 せちがらい世の中になり、私自身も自分の仕事に追われて周囲を見る余裕をなくしていることが度々あります。しかし、自分さえよければいいと思って仕事をしていると、充実感や達成感は低いように思います。偶然と思われるような出会いであったとしても、出会った人たちと心を合わせ、力を合わせることで生活することの楽しさを、子どものうちから味わってもらえるように頑張っていこうと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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