夏休みも折り返し地点を過ぎました。連日の猛暑に身体も疲れていることと思いますが、少しでもリフレッシュされますように。
さて、前回は音楽を通して人との関わり方を培うという話をしました。歌を歌ったり合奏をしたりすることを通して、多くの仲間と呼吸を合わせることやテンポの取り方を学ぶことは、人と話すときにも大いに役立ちます。また、前回では触れませんでしたが、音楽ではまず自分の声を聞くことから始めなければなりません。みんなと歌っているときに全体の声は聞こえやすいものですが、その中で自分がどのような声で歌っているのかを聞き取ること、隣の特定の友達がどのような声で歌っているのかに耳をすますことはとても難しいことなのです。さらに、音程がずれていないのかどうか、音量はふさわしいのかどうかなど、聞き取らなければならない要素はたくさんあります。大人のみなさんも、ぜひ自分の声を聞き取ることに挑戦してみてください。自分の声を知ることや、何を伝えようとしているのかを客観的に把握してみることは、人と関わるためのスキルアップにつながると思います。
音楽のことを2回続けて書いたので、人と関わるには音楽だけがとりわけ大事のような印象をもたれた方がいらっしゃるかもしれませんが、決してそういうことではありません。ただ、ひとつ言えることは、座学だと関わりが少ないので、友達と関わり合えるような授業では、教師は関わりについて意識的に扱っていく必要があるということです。それは、保育園や幼稚園などの就学前の教育でも同様です。
結論から申し上げると、子どもたちが関わり方を学ぶ最も手っ取り早い方法は遊びなのです。もちろんゲーム機によるゲームなどではなく、遊びです。鬼ごっこやドッジボールなどの外遊びだけではなく、トランプやかるたなどであっても遊びは大切です。小さな子どもたちであれば、ごっこ遊びはとりわけ大切だと言われています。就学前に遊び込むことができれば、人との関わりも豊かになるのではないでしょうか。
遊びが大切だといっても、小学校では長い時間遊ばせることはできませんし、教師が遊びに関わることがいいとはいいきれません。大人の目がないところで遊ぶことも大事だからです。しかし、体育の授業でなら、遊びに近い関わりを求めることができます。そこで今回は、体育を通して人との関わり方をどのように育てていけばいいのかについて考えてみたいと思います。
最初にボールを使ったゲームをイメージしていただくと、仲間との協力が必要になることがわかりやすいと思います。勝つことを目的としたゲームをするには協力が欠かせませんし、何より子どもたちのお気に入りの授業となります。ただ一方で、喧嘩の原因を作りがちであることにも配慮しなければなりません。誰と同じチームなら勝てるとか、誰と一緒だと負けるから嫌だという気持ちも湧いてしまうからです。しかし、そういった問題が起きるときこそが、関わり方を学ぶチャンスであり、問題解決を探る貴重な機会となります。
中学年の子どもたちが対象であれば、そういった我儘な気持ちや不満を少なくするために、特別ルールを作ることをお勧めします。例えば、シュート型のボールゲームでなら、全員がシュートを決めたら得点が2倍になるといったルールです。誰か一人が得点を重ねても、あまり意味をなさないように仕向けるのです。そうすることによって、子どもたちは協力することの楽しさを学ぶことができるようになります。高学年では、自分たちでルールを考えさせるのもポイントとなるでしょう。中学年で経験を積み重ねていることによって、問題解決の方法を見出しやすくなっていきます。
体育での関わりは、ボールゲームだけではありません。授業の準備や片付けをする場面でも、協力が必要になります。例えば跳び箱の授業では、マットを出す、跳び箱をセッティングする、踏み切り板を用意するなどといった準備が必要です。しかも、それを一人で行うことはできません。数人が声を掛け合って、力を合わせる必要があるのです。子どもであっても力の強い者もいれば、力仕事を苦手とする者もいるでしょう。ゼッケンを畳むことなどの、細やかさと丁寧さが必要とされる仕事の方が得意な者もいます。個に合わせて活動することも、関わり方を知るためには、大切な学びとなるのです。
それから、相手を意識した動きが必要とされることも、体育の授業にはたくさんあります。例えば、走り幅跳びで跳んだ距離を測定するときには、二人組で行います。友達が跳んだら素早く測定しなければなりませんから、呼吸を合わせることが求められます。測定が終わったらそれを記録したり、地ならしをしたりしなければなりません。それらを交代で行なったり、適材適所で行なったりすることも、関わり方の学びになっているのです。
また、高度な技能になりますが、バスケットボールとかサッカーなどでは、ゴールに向かって走っている相手に都合がいいように、ボールを投げたり蹴ったりすることがあります。相手の動きを予測してボールを扱うのです。相手のテンポや技術を知っていなければ、ボールを上手く届けることはできません。もちろん、止まっている相手にであっても、受け取りやすいボールを届けるように意識することは必要です。キャッチボールは単純な活動であるように思いがちですが、相手を思いやるという側面をもった活動であるともいえるのです。
私たち教師は、協働を意識すると、それを総合的な学習の時間などの調べ学習で培うものだと思いがちです。確かに、調べ学習では知恵を出し合い、協力しあって発表までこぎつけることが求められるので、協働ということを重点的に学ぶ授業といえるかもしれません。しかし、他教科であっても、常に関わりを意識した授業を行なっていくことによって、スキルアップが期待できるのです。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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