2018.01.24
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スキルトレーニングの極意(NO.18「協働とは何か」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 寒さ厳しい季節になりました。日本海側の各地では、大雪による被害も出ていると聞き胸が痛みます。福島に育った私は、雪の降り続くことを嬉しいと思ったことはありません。何度も雪かきをしなければならないからです。皆様の安全をお祈りいたしております。


 ところで、ここ10年くらいの間に、学校の現場では「協働」という表現を頻繁に見聞きするようになりました。それは、中央教育審議会答申に盛り込まれ、学習指導要領にも協働の重要性が示されたからです。では、「協働」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。今回は、その意味を探りながら、ソーシャルスキルのあり方を考えてみたいと思います。

調べてみると、「協働」の概念は1970年代にアメリカの政治学者によって唱えられたもので、まちづくりを行うにあたって行政や市民が相互に協力する場合に用いられ始めました。日本でも1995年に発生した阪神淡路大震災のころから、この考え方が広がってまちづくりに生かされてきたそうです。

 もちろん、教育における「協働」とは、まちづくりのノウハウを学ぶことではありません。互いに協力しあって学習することや、力を合わせることによって1+1が2ではなく、3にでも4にでもなるような体験活動をすることだと思われます。私も子どもたちと学習をしたり活動をしたりする中で、協働を意識してきた一人です。ただ、つい最近までは、グループ学習において発表のために力を合わせようとか、委員会活動などの場で互いに連携し合おうといったイメージしかもっていませんでした。

 このところ、学校以外の場所で働いたりボランティアをしたりして感じることは、「協働」の難しさです。私は地域食堂のボランティアをしていた関係で、デイサービスの仕事も手伝わせていただく機会がありました。デイサービスには、ご高齢の方が送迎車で来られます。その方が席に着く頃に、お茶をお出しする仕事を例にとって考えてみたいと思います。

 
 さて、このお茶を出す場面をイメージされた皆さんは、「そんな仕事なら一人でもできる」とか、「ずいぶん簡単な仕事だな」という感想をもたれるかもしれません。しかし、レストランなどの不特定多数のお客さまを相手にしている場と異なり、相手がご高齢の方というところに難しさがあります。ある方は熱めのお茶が好きだけど、ある方はぬるめにして持っていく必要がある。ある方は、コーヒーや紅茶にお砂糖を入れてはいけないし、もう一方の方には絶対に入れなければならない。またある方は、とろみをつけないと飲み込みにくいので全ての飲み物にとろみをつける。このように、まさに個のニーズに応じていかなければならないのです。

 お迎えをする担当、お茶を出す担当、席まで誘導する担当というように、ある程度の役割分担は決められています。しかし、この分担が絵に描いたように上手くいくとは限りません。常にイレギュラーなことが起きるからです。お迎えをしなければならないスタッフが他に手を取られていれば、お茶を出すように言われていた者が玄関に向かわなければなりません。そこで時間を取られれば、気がついた者が、お茶を出すこともあるのです。相手の動きを見て、それに合わせて自分も動くことは、とても大変なことなのだということがわかりました。

 そして、こういった職場では、まるで網を編んでいくように仕事をしなければならないのだといったイメージをもちました。誰かが編み損ねて穴を開けそうになったら、誰かがそこを補って編まなければならないのです。多少の綻びは許されても、取り返しのつかないような大穴を開けるわけにはいきません。そこには、周囲をよく観察する力と、気を利かせるという力が大切なのだろうと感じました。


 私は以前、学校で子どもたちからよく聞かれる言葉に違和感をもっていたことがありました。「それは自分の担当ではない」というものです。例えば、「ノートを配ってくれませんか」と頼んでも、「配り係の仕事だから」と返事をするだけで、配ろうとはしないのです。どうしてこうも思いやりのない答えが返ってくるのかと、それまでの子育てや学校教育のあり方を考えさせられたものです。

 ずいぶん前から大人の間でも、自分の仕事以外にはやろうとしないとか、相手が困っていても助けないといった風潮が多く見られるという嘆きを耳にするようになりました。それとあいまって、子どもの世界にも、自分さえよければという考え方が広がっているのかもしれません。確かに、仕事の種類によっては、何とかなることもあるでしょう。でも、人を相手にするような仕事や、常に連携を取る必要性のある職場では、利己的な態度が致命的になることもあるのではないかと思います。

 頼まれたからやる、頼まれていないからやらないといった線引きをするのではなく、互いが楽しく過ごすために何をすればいいかということを考えられることが、ソーシャルスキルの極意ではないかと考えています。そのために、「気を利かせる」「気を回す」という態度を育てること、互いが補い合ってこそ上手くいくという体験を積み重ねることなどを意図的に教育できるように、これからも頑張っていこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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