2017.05.04
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スキルトレーニングの極意(NO.2 「ソーシャルスキルの必要性」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回から、新しく「スキルトレーニングの極意」というシリーズで書かせていただいています。また、2月に行った授業も「授業実践リポート」のコーナーにアップしていただいていますので、併せてご覧ください。

 実のところ私は、スキルトレーニングの手法を多くの方々に伝えようと、この4月からフリーになりました。来年度の学習指導要領改訂では、道徳が教科化されたり、指導方法の変革を求められたりしています。そのような背景にあって、学校教育の中にスキルトレーニングの手法を取り入れることは有効であると思いますが、どのような授業をすればいいのかというのは案外伝えにくいものです。先日も、「どんな授業をやればいいのか、実際にやってみせてもらえませんか」というご要望をいただき、これこそがやりたかった仕事だなと嬉しく思いました。百聞は一見に如かず、一度でも授業を見ることができれば、イメージをもつことができるからです。

 しかし欲を言えば、その根底にある考え方も知ってほしいなと思っていますし、実際に授業をお見せすることが難しくても、有用な情報をお届けしたいと思っています。今後も、この教育つれづれ日誌の場をお借りして文章を綴っていきますので、ぜひ参考にしてください。また、映像でもご覧いただくことができます。http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s_dotoku/movie/index.html 授業を見せてほしいというご要望がありましたら、私が理事を務めるNPOのホームページ、お問い合わせからお願いいたします。

 

 さて、前回は「ソーシャルスキルとは何か」について考えました。ソーシャルスキルは、社会生活を送る上での技能であり、とりわけ「人付き合いのコツ」であるといわれます。それは、社会の中で生きていくためには、常に人と関わっていく必要があるからです。

 そして、そのスキルを身につけるためには、ルールやマナーを守ること、「暗黙の了解」と呼ばれている誰もが習慣として行っていることを知ること、ときや場に応じた振る舞いを工夫することなどが必要となってきます。さらに、自分が相手に伝えようとする気持ちを込めること、相手の気持ちを尊重することも大切なポイントです。

 私たちは幼いときから、TPOに応じた言動を見よう見まねで学んできました。前回私も、「自然と身に付けてきた」という表現をしました。もちろん、小さな子どもたちは周囲を模倣する力に優れているので、見よう見まねで身につけていることもたくさんあるでしょう。しかしそれだけではなく、「躾」という家庭での教育によって、教え込まれてきた部分もあるということを忘れてはいけないと思っています。箸の上げ下ろしや来客への対応の仕方など、生きる上での基本的なことは、事細かに教えられながら身につけてきたのです。

 ところが、私が育った高度経済成長期以降は、学業ばかりが優先されるような風潮が主流を占め、手伝いをしたり人と関わって活動をしたりすることよりも、勉強に時間を割くことに価値が置かれるようになってきました。それによって学校の中でも、挨拶や返事ができない、鉛筆や箸の持ち方がわからない、雑巾を絞れないといった様子が問題になりました。

最近は価値観が多様化してきているので、学力偏重とばかりはいえませんが、親が社会生活に必要なスキルを教えているかというと疑問に思うところです。私自信も、我が子を躾けることができたのかと問われても自信はありません。それは、自分自身も親に躾けられるという経験に乏しいため、我が子にもスキルを教えることに意識が向きにくいのではないかと思っています。

 このような状況を憂慮して、「学び損ねたスキルは、学び直せばいい」という考えが生まれてきました。また、子どもたちの多くに、人との関わりが上手くいかずに苦労している様子が見られるということも、スキルトレーニングの必要性を後押ししてきたと思います。さらに、道徳が「特別の教科」となったのも、社会問題となっているいじめに、正面から取り組んでいこうという意欲の表れだと思っています。いじめは決して許されることではありませんが、人との関係作りが上手になっていけば予防の効果も期待できます。ソーシャルスキルを身につけることの必要性は、とても高まっているのです。

 では、従来のような躾をきちんと行っていけばいいのかというと、そうとばかりは言い切れません。私たちは家庭の中で関わり、地域と関わり、仕事を通して社会と関わっています。そして、その中だけで生活していくなら、誰かを手本として真似たり、教え込まれたりすることによってスキルを身につけられるかもしれません。

 しかし、近年インターネットの普及によって、周囲にある情報はとてつもなく大きなものとなり、逆に世界はとても狭いものとなってきました。海外への往来も急増し、外国の方たちと共に生きていく時代に入ってきています。ですから、「スキルを教える」「スキルを真似る」だけではなく、「自分でスキルを生み出す」ことが重要になってきているのです。学校の授業で扱う場合であっても同様で、子どもたちが将来に渡って、場に応じたスキルを考えていけるような指導をしなければなりません。基礎的・基本的なことを教え、応用を利かせることができるように仕向けていく必要があるのです。

 基礎的・基本的なことは何かと申しますと、ひとつはソーシャルスキルの土台となる考え方です。私が先輩から教わったときには、「自分にもいい、相手にもいい」という合い言葉で表現されていました。「Win-Winの関係」といわれることもありますし、「アサーティブな関係」という言葉も広がりつつあります。人との関係は、自分にとっても相手にとっても心地よいものであり、互いが納得したものでなければならないという考え方です。

 もうひとつは、スキルを向上させていくためのポイントを知っているということです。「表情」「視線」「声の大きさやイントネーション」「仕草」「相手との距離」などに気をつけつつ、「自分の思いを言葉で表現する」ことが大切となってきます。

 これらのことについて、次回からもっと詳しくお伝えしていこうと思います。

 最後に、授業リポートを読んだ感想をいただきましたので、掲載させていただきます。


道徳の授業の話、読ませていただきました。とてもわかりやすい内容で、確実に学校や社会、家族、恋人の間にも日々起こる事象で考えさせられました。

実際に昨夜、わたしと友達は電話越しにお互いの言いたい事をぶつけ合って揉めました。普段はお互いを尊重し合える関係だけれど、昨日はお互いが、自分たちの心をストレスに独占されたような発言をしてしまいました。「ごめん」という言葉も言わされている、言ってあげていると受け取れるようなものだったと思います。

大人であっても、冷静に相手の気持ちを考えて発言するのは難しいです。それを若い世代のうちから考えていくのは大切です。誰しも、言葉を使って傷つける傷つけられる状況に出会い、悩むものだからです。

荒畑先生の授業内容での子供たちの議論から、友達との関係や社会との関係に活かせる考え方、win-winで互いにストレスを減らして理解し合える人間関係構築の要素を教えていただいた気がします。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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