前回は、お互いが使う言葉が共通の意味をもっていないと、誤解が生じてしまうという例をお伝えしました。また、コミュニケーションを取る相手と、経験や習慣などの土台となる部分が異なることもあるので、丁寧な話し方が必要であるという話をしました。今回は、その表現を次に繋げていくためには、何が大切なのかを考えていきたいと思います。
まず、ある場面をイメージしてみてください。例えば貴方が今、何かの困りごとを抱えたため、勇気を奮い立たせて表現したとしましょう。その結果はどうだったでしょうか。「よし!うまく伝えられた」とか「次はもっと上手く伝えよう」と思ったでしょうか。それとも、「やっぱりダメだ。こんなことなら我慢しておけばよかった」とか、「あの人に言っても無駄なんだ」などと思ったでしょうか。
言うまでもなく、結果は大きく二つに分かれます。これまでにも申し上げた通り、心を込めて表現したとしても成功するとは限りません。しかし、たとえ不本意な結果であったとしても、次につながらない結果になってしまったり、表現することそのものを諦めてしまってはもったいないと思います。
では、多少の反省点はあったとしてもポジティブな気持ちを維持し、意欲を保っていくためにはどのようなことが必要なのでしょうか。ひとつには、表現したあとの気持ちが心地よいという経験を重ねることです。安心感をもって表現できる機会を増やしていくと言い換えてもいいでしょう。その経験の積み重ねの中で「信頼し合うことはいいことなのかもしれない」とか「友達っていいよなぁ」といったイメージが獲得されていくのです。
「信頼」「友情」あるいは「思いやり」「親切な気持ち」などといった抽象的な言葉のもつ意味の解釈は、人それぞれ違います。深さも広がりも経験によって異なってくるからです。子どもたちに、そのような言葉の意味を教えようとしても、言葉だけで伝えたのでは限界があるのです。経験を重ねる中で、それらの意味が心に刻まれていくということを、もう一度確認したいと思います。
さて、漫画を見てみましょう。これは、かなりスキルの高い子どもたちの会話です。大人であっても、このような場面で八方丸く収まるような表現をするのは難しいのではないでしょうか。では、この漫画に登場する子どもたちの、どのような点が優れているのかを考えてみてください。
人のせいにしない、人を責めない、失敗を許すことができる、どのようにしたら問題を解決できるか知っている、相手に安心感を与えることができる、友達っていいなと思わせることができる、Win-winな提案ができる。まだまだ挙げることができると思います。
理想論を掲げるなら、日頃から心地よい表現を大人が手本として示し、それを見習って子どもたちも日常的にスキルの高い表現を繰り返し行っていくことが、ソーシャルスキルを磨き、次に繋げるためのコツだといえます。そして、子どもたちの心の中に、確固たる「信頼」や「友情」といったイメージが作られていけば、人生を歩んでいく際の大きな糧となるでしょう。心の中に核のようなものができれば、それは経験とともに大きく育っていくのです。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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