2017.09.15
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スキルトレーニングの極意(No.10「ソーシャルスキルの土台となる価値観」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

学校では2学期が始まり、運動会や学習発表会など、秋の行事に向かって忙しいことと思います。今年の夏は地域によって暑かったり雨が続いたりと、不安定な様子でした。食欲の秋、読書の秋といわれる季節は、身体も心も穏やかに過ごせるような陽気であってほしいです。

 さて、前回まで、人が人との関わり方を学ぶのは、生活の全ての場面であることや、意図的な授業を行うことができれば、子ども達のスキルは格段にアップすると思うことを書いてきました。それは、人との関わりが希薄になっているとか、家庭教育や社会教育の力が下がっているといわれる中、学校教育に期待されることの量や質の大きさを感じているからに他なりません。もちろん、学校教育にも限界がありますし、教師個人の資質にも課題があります。ですから、何もかもを学校任せにするのは問題だとも思います。家庭と協力して進めていくことができれば、それが一番効果的だと思っています。

 私はこのところ自宅で仕事をする機会が増えたので、気分転換にアメリカのホームドラマを見ていました。家庭教育のあり方を学ぶ機会になったので、今回はまずそれをご紹介しながら、子どものスキルアップを図るためには、どこを目指すべきなのかについて考えてみたいと思います。

 私がそのホームドラマから見習うべきだと思ったことは、家族の中でトラブルが起きたとき、それも感情の行き違いや思い違いが生じたときには、必ず話し合いの場を設けていることでした。親が子どもに自分の価値観を教え込むのではなく、子どもの気持ちを尊重しつつ、社会の仕組みや親の考え方を伝えていくのです。どんなに時間がかかっても、ときには親が謝ることになったとしても話し合う時間を大切にし、解決した後は抱き合って愛情を確かめ合う姿に、自分自身の子育てを反省させられました。

 子育ては、大人の価値観の表れだと思っています。親がどのような子どもに育てたいのかを、具現化するのが子育てです。だからといって、思うようにいくとは限りません。その中で、大人も子どもも学んでいくのです。しかし、ネグレクトや虐待などの事件を見聞きすると、せっかくの学びの場を放棄してしまっているのだなと残念でなりません。加えて、子どもが安全安心の中で育っていないことが想像され、とても悲しいことです。

 十分な愛情を受けずに育ってしまうことは、その場限りのことではありません。心が安定しないばかりか、相手に対しても愛情表現ができなくなるという話をよく聞きます。それが連鎖となって、次の世代に引き継がれてしまうとすれば、大きな問題を残すことになります。学校での学びや教師の愛情は、親にとって代わることができません。でも、できる限りの努力を、社会も学校も、そして家庭も行っていかなければならない時代なのだろうと思っています。


 さて、大人の価値観が子どもに伝わっていくとすれば、その価値観とは一体どのようなものなのでしょう。何を規準として、私たちは生きているのでしょう。たとえどんなに緊張感や不安感が高かったとしても、心おだやかに幸せな気分で生活することを否定する人はいないでしょう。昔話に出てくるような意地悪ばあさんのような存在でさえ、本当は周囲の人と仲良くしたいと思っていたのかもしれないのです。ですから、人は人と円滑に関わり、愛情を注いだり注いでもらったりして生活したいと願っているのではないかと思います。

 実は、その価値観が明確に自覚されることがないと、ソーシャルスキルを身に付ける意味があいまいになってしまいます。私は孤独が好きだから関わるのは最小限にしたい、人を騙しても登りつめたいと思っているので仲良くする必要性を感じない。本心からそう思っているとすれば、ソーシャルスキルの方向性そのものも変わってしまうからです。

 ところが、価値観が多様化し、自分はこれが正しいと思っていても周囲がなかなか理解してくれないということに悩み、本当にこれでいいのかと不安になることがあります。誰に対しても思いやりをもって生活したいと思っていても、その考えが全ての人に当てはまるわけではないからです。ある本の中で、そのようなことを嘆いている人に対して、友人が「倫理的に正しいことをすればいい」と答えている場面がありました。価値観は多様であっても、それが倫理的に正しいかどうかが、判断基準になるというのです。良心に従うと言い換えてもいいでしょう。

 堅い話になりますが、社会や人と関わるときの価値観を学ぶ最も大切な時間が道徳の授業です。来年度の学習指導要領改訂に伴い、道徳は「特別の教科」となります。道徳授業のあり方も、これまでとは異なってきます。教師が価値観を教え込むのではなく、子どもたち一人一人が自ら考え、多面的多角的に物事を捉えられるように仕向けることが、ポイントになってきます。そして、最初に紹介したホームドラマのように、授業を通して子どもたちが納得した形で価値観を培っていくことが求められるようになるのです。人として目指すべき方向性を自ら見出し、それに向かって生きていこうとする子どもを育てていくために、私はまたとない機会であると思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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