2018.01.08
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スキルトレーニングの極意(NO.17 「寛容であること」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

皆さまお揃いで、新年をお迎えのことと思います。今年もよろしくお願いいたします。今回は、年の初めにあたって、関わりの極意のひとつである「寛容」をテーマに書いてみようと思います。

 
 例えば、友達から職場での人間関係が上手くいかないと悩みを打ち明けられたとき、私は適度な自己主張は必要だとアドバイスしてきました。それはアサーションを学んだことが大きく影響しています。アサーションの考え方によると、人の会話のパターンはおおむね三通りに分類されます。自分の思ったことを強引に主張するようなタイプ、何も主張せず受け入れてしまうタイプ、互いの気持ちがすっきりするようにWin-Winな関係を目指して主張するタイプです。皆さんは、ご自身の表現がどのタイプに当てはまると思いますか。

 私は子どもの頃から気が強く、周囲の人からは自己主張が強いと思われていました。しかし、大人になってからは、自分さえ黙っていれば上手くいくに違いないとか、相手の怒りを収めるために穏やかに接しようといった態度を取るような癖がついてしまいました。子どもたちに、Win-Winな関係を築くためには主張することも大切であり、利己的であっても受身的であってもいいことではないと教えるようになってから、自分自身の主張の仕方も考えるようになりました。

 ただ、大人であってもWin-Winな関係を作ることは難しいし、自分の思いを伝えることも簡単ではありません。ある時、職場の先輩の中に、何でも教えてくれる方がいました。しかし、その方は言い方がきつく、教えてくれているのだから感謝しなければならないと思うものの、相手を操作しようとしているのではないかとか、言葉によるパワハラではないかと感じることもありました。私はその方とどのように接したらいいのか、とても悩みました。「そのような言い方はやめてください」と単刀直入に言ったら、関係性がさらに悪化すると予測したからです。だからといって、穏やかな話をするようなチャンスもありませんでした。

 他の同僚たちは、「聞き流すことだよ」とか、「あの方は自分に満足していないから、怒りのエネルギーをぶつけるんだよ」とか、それぞれに分析した結果を教えてくれました。確かにそうかもしれないと思う点もあり、その分析力はすごいなと思いました。でも、私自身はきつく言われる度に不愉快になってしまい、聞き流すことは困難でした。親しくなる必要がなくても、仕事をしている間に不愉快になるのだけは避けようと思ったのですが、何を言ってもうまくいかないことに自信をなくしそうになりました。

 しばらく悶々とした日々を過ごしてから、もしかしたらと感じることがありました。その方は、記憶が薄いことがあったり、こだわりがとても強かったりすることがあったのです。また、体調も思わしくないようで、エネルギーが低いのではないかと心配するような場面もありました。私自身が、もっと寛容にならなければならないと思い直しました。

 
 寛容というのは、「心が広くて、人を受け入れること」「過去をとがめだてせず、人を許すこと」といった意味がありますが、「言うは易く行うは難し」ですね。皆さんは、寛容になれる相手はどのような人でしょうか。

 まず、ひとつの要素として、年齢が挙げられると思います。幼い子どもが何か言ったりやったりしても、鷹揚に構えることができるからです。また、ご高齢の方が気難しことをおっしゃっても、人生の先輩だからと受け止めることができるかもしれません。

 それから、不自由さを抱えている方にも、私たちは寛容な態度を取ることができます。足を骨折して松葉杖を使っている方が、前をゆっくり歩いていたとしても、押しのけるようなことはしないでしょう。また、悲しみを抱えているような相手にも寛容になれます。相手の背景にある困難さや心境などを想像する力があれば、ある程度は寛容な気持ちをもつことができるのです。

 ところが、相手が自分と対等だと思われる場合には、相手を許すことが簡単にはできないかもしれません。もちろん、心の広さや奥行きは人それぞれですから、寛容の度合いも異なるのは当然です。そうはいっても、同世代や同姓であると、ライバル心の方が大きくなりがちのように感じます。

 しかし、寛容になれない自分を責めたり、自分にとって不都合な表現をする相手を責めたりしても解決には至りません。責めることをやめて、距離を置くなどの工夫を重ねていくしかないのではないかと思っています。また、時間が解決することもあるのだろうと思います。

 人との関わりというのは、相手の個性に応じたものであるので、それぞれに異なりますし正解もありません。大人であっても、うまくいかないこともあるのです。これは、一生を通しての学びであり、算数や国語を学ぶことと一線を画していると覚悟してかからなければならないものだと思っています。

 さて、2018年の初めは、縁あって2年生の担任を引き受けることになりました。子どもたちに人間関係を作っていくためのコツを伝えながら、共に学び続ける一年にしたいと思います。そして、子どもたちとの関わりの中で教えられたことを、皆さんにもお伝えしていきたいと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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