
前回は、「自分にも相手にもいい」、Win-winな関係を作っていくために、「作戦ゴリラ」を活用してアサーティブな表現を心がけていこうという話をしました。前々回と前回の漫画を見比べていただければ、表現の仕方の違いが明確になると思います。
自分の気持ちを表現しつつ、相手の気持ちを理解しようとする表現
もちろん、漫画で示した表現が全てではありませんし、完璧ということでもありません。各自が相手との関係性や場に応じて、表現の仕方を工夫していってほしいと思います。そして、いくら相手の気持ちを尊重しつつ自分の思いを伝えようとしても、必ずしも成功するとは限らないということを、心の片隅においておきましょう。相手の感情が自分の予測したものと違っていることもありますし、自分の思いを伝える力が未熟なために思うように伝わらないこともあります。また、相手が互いの思いを伝え合うという場面に慣れておらず、トラブルを避けようと話し合いの場に応じないことがあるかもしれません。自分が決意して表現しようとしても、相手によっては上手くいかないことがあるというのは、誰もが経験することなのです。
そうはいっても、アサーティブな表現をしていくことには、大きな意義があります。「自分さえ我慢すれば」とか、逆に「強く出ないと相手に負ける」と考え方が基になった表現は、時間と共に人間関係の歪みが大きくなっていく場合が多いのです。何かトラブルが起きたときや起きそうになったときには、気持ちを伝え合って話し合うことが大事なのだということを、子どものころから学んでほしいと切に願っています。
では、このような表現を子どもたちに教えていくためには、どのようなことから始めたらいいのでしょうか。まずは道徳的な価値観をしっかりと培っていくことが必要です。自分にも相手にも都合がいいからといって、倫理的に間違ったことをしてしまっては問題です。社会生活を営むためのルールやマナーを知り、それを守ろうとした上で人と関わっていかなければなりません。
次に大切なことは、大人が手本になることです。倫理的に正しい言動とかWin-winの表現というのは、必ずしも道徳の授業だけで身につくものではありません。家庭や地域で人を批判するような場面を目にすることが多いと、子どもたちはそういった表現を見習ってしまうのです。
そして、背中を押すような声かけやできたときの褒め言葉が、表現への意欲につながることも忘れないでいてください。子どもが言動で何かを表現しようとするときには、大人が感じる以上の不安感や緊張感が伴うものです。高く厚い壁が立ちはだかっているように感じる子どももいるのです。それを乗り越えて表現していくために大きな勇気が必要なのは、大人でも同様ではないでしょうか。
漫画を見てください。これは実際にあったワンシーンです。身体表現の場面ですが、言葉での表現であっても同じです。人の真似をしてもいいのだ、模倣を通して人は学んでいくのだということを、大人も子どもも知っていてほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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