7月に入りました。三学期制の学校では、通知表作成の時期に入ります。急に暑くなったり、強い雨が降ったりと、梅雨特有の不純な天候が続いていますので、体調に気を付けて多忙な時期を乗り切ってほしいと思います。退職しても、同僚が忙しいだろうなということは、ついつい気になってしまいます。
前回は、子どもたちの見る力や真似る力を活用することによって、ソーシャルスキルを型から学ぶことも大切であるという話をしました。型から入ることは学び方のひとつであり、マニュアルによって関わり方の水準を保つことにも役立っているからです。また、私たちはもっと相手の素振りを見て理解しようと努めるべきではないかという話もしました。例えば家族の話を聞くときには何かをしながらではなく、きちんと表情を見ながら話してほしいと思います。体調や心の不安などを見逃さないようにして、支え合っていくことが大切だと思うからです。
そんなことを考えていたら、6月11日のNHKスペシャルで、家族の関係性をよくしようとする研究成果が報告されていました。中でもオキシトシンというホルモンが共感や思いやりにも関係していて、相手を見ることや一緒に何かをすることによって分泌が促されるという説明を聞き納得しました。恋人でなくても、人とよりよい関係を維持構築しようとするなら、相手を見る、相手に手を貸すということがポイントなのだろうと思います。
さて、今回は「聞く」をテーマに考えてみたいと思います。実は私の唯一の趣味は、エアロビクスです。かれこれ10年近くもスポーツジムに通っていて、しかもエアロビクスしかやっていません。きっと音楽に合わせるのが好きなのだろうと思います。私の世代に近いインストラクターの選曲が、私のお気に入りになっているのも理由のひとつだと思っています。
先日、エアロビクスのレッスンに参加したところ、先生がいつになく何度も、「音楽に合わせて動きましょう」と呼びかけていました。確かに、音楽とは無関係な動きをする方がいるように感じることもあります。でも普段は、「間違ってもいいんですよ」というリラックスを促す言葉かけが多い先生なのに、不思議だなと思っていました。
その日はとても混雑していて、私は普段とは異なる場所で、顔見知りとは言えない人たちの間にいました。すると、同世代と思われる女性が、音楽のテンポとずれているのに気がつきました。遅れるならなんとなく理解できますが、ワンテンポ早いのです。先生の動きを見てから動くなら遅くなるのに、早いというのはどうしてなのだろうと考えてみました。
まったくの想像でしかないのですが、彼女の中には、別のテンポや音楽の流れがあるのではないだろうかと思いました。また、彼女は周囲の動きには無頓着のようで、混雑しているのにもかかわらずオーバーアクションであったため、私と何度もぶつかりそうになり、足も踏まれました。一般的な人よりも、意識が自分の中に入り込んでいるのかなとも思いました。そして、これも推察にすぎませんが、人との関わり方でも苦労があるのかもしれないと思いました。
昨年度、まだ小学校の現役教師であったとき、音楽の若手を指導することがありました。そのときに、こんな話をしました。「音楽という授業の役割は、単に歌を歌うとか、楽器を演奏するとか、鑑賞するとかではないんだよ。表現力ももちろんだけど、聞く力を伸ばすことでもある。クラシック音楽をBGMのように聴く楽しさという意味だけではなく、人の話を聞くことができるように聞く力を伸ばしているのだということも忘れないでほしいの」と。
私は、このエアロビクスのレッスンを通して、この指導のことを思い出しました。そして、ソーシャルスキルを学ぶには、音楽に合わせる力も必要なのではないかと思いました。人の言いなりになるということではなく、他人のテンポに合わせるという力が、人との関わりには必要なのです。呼吸を合わせるという力でもあります。
それでは、どのようにしたらテンポを感じ取ることができるようになるのでしょうか。私は、赤ちゃんが寝るときにトントンと身体を優しく叩くとか、子守唄を歌って聞かせるということは、最も大切な働きかけのひとつではないかと思っています。今の時代に子守唄なんてと思われるかもしれません。でも、やってみようかなと思われる方がいらしたら、ぜひやってみてください。決して無駄なことではありません。
それから、子どもがもう少し大きくなったら、簡単なわらべ唄を歌ってやるとか、手足を拍子に合わせて動かすとか、手遊びをするとかといったことをしてほしいと思います。子どもの身体に、心臓の拍を打つようなリズムが入っていくのです。そして、さらに成長したら、縄跳びや「まりつき」などで、リズムが入るようにするといいと思います。
自分でも書いていてびっくりですが、日本の昔遊び、特に歌に合わせて遊ぶことによって、自然とリズムとか拍が身体に入っていっていたのですね。私は親からお手玉の歌なども教わりましたが、今は遊びと歌、もしくは仕事と歌が結びつくことは少ないのだと思います。そういった文化が廃れていくのは、とてももったいない話です。
余談ですが、昔遊びは身体のバランスを必要とし、練習すれば上達したことがはっきりとわかります。また、わらべ唄は、西洋音楽と音階が異なっていて、日本語の流れに沿った節回しであることなどを考えると、子どもを育てるのに適しているといわれています。
拍を感じ取ることは、相手のテンポやリズムを感じる土台であることを再認識して、子育ての中でも聞く力、呼吸を合わせる力を培っていってほしいと思います。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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