2017.04.18
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

スキルトレーニングの極意(NO.1 「ソーシャルスキルとは」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 学習指導要領の改訂に伴い、新しい教育への指針が示されました。中でも、「主体的・対話的な深い学び」の充実が求められています。道徳は「特別の教科」となり、教科書も使用されることになりました。主体的な学びを推進するためには、道徳授業の中にも体験的な要素が必要になってくると思われます。スキルトレーニングは、体験的な活動のひとつです。

 そこで、今回から新シリーズとして、スキルトレーニングについて書いていこうと思います。その中のひとつである、「ソーシャルスキル」についての説明から始めましょう。

 
 私が「ソーシャルスキル」という言葉と出会ったのは、今から10数年前のことでした。余談ですが、英語が苦手な私にとって、カタカナ言葉というのは嫌なものです。学校の中で使われる言葉にも、どんどん英語が使われてきていて、しかもそれが日本独自の意味合いをもたせたものであったり、アルファベットの頭文字だけで表されたりしているので、覚えるのに苦労しています。きっと同世代の教師、あるいは若手の中にも、こういった事象に変な煩わしさを感じている人も多いのではないかと感じています。

 では、「ソーシャルスキル」とは、いったい何なのでしょうか。直訳すると、「社会的な技能」となりますが、これでは身も蓋もありません。私が教えをいただいた先生の本によれば、「人づきあいの技能・コツ」ということになります。この言葉の解釈をするために、私たちが社会の中で生活をしていくためには、どのようなことが必要なのかについて考えてみましょう。

 私たちが社会生活を送るためには、まず自分たちが暮らす地域のルールやマナーを知り、それを守ることが大切です。それによって地域にとけ込み、その地域の人たちと上手く関わっていくことができるようになるからです。

 それから、文章化されているようなルールやマナー以外にも、守った方がいいと思われることがあります。「暗黙の了解」と呼ばれるものです。例えば、「授業中は、手を挙げて指名されてから発言する」、「出し抜けに答えを叫んではいけない」といったルールです。あえて説明しなくても、小学校に入るころまでには、自然と身につけているだろうと思われるふるまいの仕方です。

 加えて、「場の空気を読む」といったことも必要です。「空気には文字が書いていないのに…」という笑い話もありますが、私たちは相手と会話をするときや、行動をするときには、場の雰囲気にふさわしいものになるよう努めています。社会の中では、場や話の流れにそった言動を求められているといっても過言ではないでしょう。

 さて、これらのことを全て理解し、それを自分の言動に反映させていくと、人との関わり方は上手になっていくでしょうか。しかし、これだけでは足りないのです。「相手の気持ちを尊重する」「自分の気持ちを素直に、誤解を与えることなく表現する」ことが重要なポイントになります。人工知能の開発には目を見張るものがありますが、ロボットに学習させるやり方をしたとしても、人間関係を円滑に維持していくことは難しいということは、疑いのないことです。

 私は、社会生活の中で人と上手く関わっていくための知識や技能を身につけ、それに自分の気持ちを入れて表現していくことがソーシャルスキルといえるのではないかと思っています。「人づきあいの技能やコツ」という短い表現の中には、これらのことが含まれているのです。

 

 簡単な例を用いて、もう少し詳しく説明させていただきます。

 若いAさんが、大きな会社の社長さんにインタビューするという場面を想像してみてください。Aさんは、その社長さんに失礼のないように、服装を整えます。スーツにネクタイをし、靴も磨いておこうと思うかもしれません。そこには、「目上の人と会うときには、しかも初めて会うときには、身だしなみを整える必要がある」という知識があるからです。しかも、若い男性であれば、ネクタイをしてスーツを着る、靴も磨く、髪型も整えて、ひげも剃るといった身だしなみに関する知識があるということを意味しています。そして、その知識に沿って技能を発揮し、自分を表現することが大切だということもわきまえていなければならないのです。

 さて、いよいよ社長さんと会うタイミングが訪れました。Aさんは、笑顔で丁寧に挨拶をすることでしょう。それから、簡潔に質問を始めると思われます。相手が応えてくれることに、相づちを打つこともするでしょうし、興味のあることには質問を重ねるかもしれません。この、「笑顔」とか「相づち」なども、そうすべきことが大事であるという知識があり、技能を身につけていて、表現力を発揮しているということになるのです。

 このAさんが、身だしなみを整えることを知らなければ、その社長さんからの印象はとても悪いものになるはずです。インタビューにも十分に応えてもらえないかもしれません。この場面は仮想的なものですが、私たちはあらゆる場面で、その場や相手に応じた表現を求められているのです。

 人づきあいに大切な知識、表現力(技能)、相手を尊重して自分の思いを伝えようとする気持ち。この3つが融合することによって、ソーシャルスキルは向上していきます。そしてそこには、上達するためのコツも潜んでいるのです。

 
 私たちはこれまで、ソーシャルスキルを大人の手本を頼りに、自然と身につけてきました。しかし、人との関わりが希薄になり、手本となるべきモデルを目にする機会が減ったために、自然と身につけることが難しくなってきたのです。そうであるならば、学校で体系的に学習をしてはどうかという流れが生まれました。私もその考え方に共感し、様々な試みを続けてきた一人です。

 どのようにすれば、人との関わりがもっと豊かになるのか、円滑になるのかというのは、大人になっても大きな課題となります。子どものころから基本的なことを身に付けられるよう、これからもスキルトレーニングに関する情報をお伝えしていこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
pagetop