初任の先生からの質問~習熟度に合った指導法~(NO.18)
算数の担当をしていると、習熟度別に教えることの難しさを感じます。私の場合、3年生から6年生までの4学年にわたって教えているので、学年毎に個性が異なるというのもあり、誰もが学力をつけられるように、あるいは飽きさせることなく授業を展開できるようにするのは至難の業だと思っています。でも、子ども一人ひとりには人生があり、保護者の方が一生懸命に育てているお子さんをお預かりしているのです。それを思えば、「どんなに工夫して教えても、理解してもらえない」といった諦めの気持ちをもつことは許されないのではないかと考えています。
今回は、学力を身につけさせるコツや、発展的な内容を扱うための教師の努力のあり方について考えてみたいと思います。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
Q 特に算数の苦手な子どもたちに、どうやって教えていったらいいのか・・・
A どこかに可能性が潜んでいると考えること!
例えば、滑らかな板で斜面を作り、そこに水を流すことをイメージしてみてください。水はとどまることなく流れ落ちていきます。私は、算数の苦手な子どもたちは教師の話す内容を、斜面を流れ落ちる水のようにとどめることが苦手なのではないかと感じています。教師が熱心に教えたとしても、その中身がするするとこぼれ落ちていってしまうのです。
しかし、子どもの思考がずっと滑らかな板のようであるとは限りません。どこかに凸凹ができて、何かをとどめることができるようになる可能性があるのです。ちょっとしたことがきっかけとなり、記憶が増えていくこともあります。
Aさんは、出会ったときには算数に興味がなく、教室を走り回ったり、友達にちょっかいを出したりすることが多い子どもでした。Aさんに算数を教えることができるのだろうかと、悩んだ時期もありました。
しかしあるとき、「課題が終わったらコンパスで模様を描いてもいいよ」という呼びかけに応えるうちに、丁寧にコンパスを操作して誰よりも上手に描けるようになりました。それが自信をもつきっかけになったのかもしれないと、今では思い出されます。その学習から数ヶ月後のAさんは、ノートもしっかりととり、話をよく聴き、発言もできるようになっています。さらに、ミニテストで100点を取ることもできるようになったので、ますますやる気が出てきたように感じます。
それぞれの子どもが、何をきっかけに変わるかというのは、誰かが教えてくれることはないでしょう。でも、諦めずに働きかけていると、子どもが変化を感じさせてくれるものです。これまで申し上げてきたように、責任感をもち、愛情をもって関わっていくことで、道は拓けると思っていてください。
Q 計算が早く終わってしまって、「次は何をやればいいですか」と矢継ぎ早に聞かれ・・・
A 学習課題に一捻り加えることが大切!
特に算数の場合、計算が得意な子どもと苦手な子どもとの間に、時間差という問題が潜んでいます。私が若いころは、習熟度別の指導というものはなかったので、今は子どもたちのペースに合わせることができていいなと思います。
しかし、苦手な子どもたちに丁寧にじっくりと教えるグループがある一方で、何をやらせても素早く終わってしまうグループがあることも事実です。彼らは、塾などの学習を通して知識が豊富であり、教科書の内容は既に学んでしまっていることも多いようです。ですから、教える内容を吟味しないと、授業に飽きてしまうという実態もあります。
だからといって、教師が常に発展的な内容を教えられるかというと簡単ではなく、単元や経験に左右されるのではないかと思います。そこで、お勧めする方法のひとつは、これまで学習してきた内容だけを使って、問題を解くという課題を与えることです。筆算を教わってなければ筆算は使えませんし、面積を教わってなければ他のやり方で広さを比べなければならないといった具合です。
もちろん、算数という教科の特性として「学習したことを使って解く」という方法を授業で用いることは、常に意識されるべきです。ですから、算数を得意とするグループには、殊更それを活用していってください。
また、絵や図に表現して、解き方を発表するというやり方も効果があります。高学年ともなれば、ひとつの解き方を身に付けただけで満足しているようでは困ります。友達の考えを聞いて、自分の考えを広げたり深めたりできるようにしていってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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