日常生活に生かせる力を育む算数指導「概数」第4学年(後編)
国際数学・理科教育調査(TIMSS2019)によれば、小・中学校において、算数・数学の「勉強は楽しい」「得意だ」と答えた児童生徒の割合は増加していますが、日本は国際平均より下回っています。また、中学校において、「数学を勉強すると、日常生活に役立つ」「数学を使うことが含まれる職業につきたい」と答えた生徒の割合は、国際平均より下回っています。
そこで、 文部科学省は「日常生活や社会の事象、数学の事象から問題を見出し主体的に取り組む数学的活動を充実させること」などを施策として挙げています。今回は、第4学年の「概数」を例に、日常生活に生かせる力を育む算数指導について考えていきたいと思います。
本記事は前編の続きになっております。
東京都品川区立学校 平野 正隆
実践「がい数とその計算」 (啓林館「わくわく算数四下」)第3時
①本時の目標
四捨五入の仕方をもとに概数の表す範囲を考え、「以上」「未満」「以下」を使って表すことができる。
②活動内容
・四捨五入で百の位までの概数で表したとき、500になる数のうち、最大と最小の数を考える。
・「以上」「未満」「以下」の用語を知り、これらを使って、500になる数の範囲を表す。
・概数を使って全体を見積もり、その数が表す範囲を「以上」「以下」「未満」を使って表す。
③評価
(知)以上、未満、以下の意味を理解し、それらの用語を使って数の範囲を表すことができる。
(思)四捨五入の仕方をもとに、概数から実際の量の範囲を考えたり、説明したりしている。
④指導の工夫
〈日常の事象を数理的に捉え、見通しをもち筋道を立てて考察する力を育成する学習指導〉
本時で扱う「渡り鳥の数」や「全校児童生徒数」は、概数が用いられる場合の③「真の値を把握することが難しく、概数で代用する場合」にあたります。他の2つの場合とは違う場面であることを整理しながら、実生活で概数を用いる場面に触れさせ、概数を使うことの良さや利便性を実感させていきます。
また、「以上」「以下」「未満」という用語を技能として指導するのではなく、全校児童生徒数を予想するなかで活用させることで、日常生活での活用へと繋げていきます。
〈主体的・対話的で深い学びを実現する学習指導〉
本時で扱う「渡り鳥の数」など、日常生活には概数で表されたものがたくさんあります。実生活で出会うであろう場面から「以上」「以下」「未満」という用語とその使い方を知ることで、主体的に学ぶ態度を引き出します。
次に扱う「全校児童生徒数」は、児童にとって身近な内容です。自らその数値を「以上」「以下」「未満」という用語を使って予想することで、主体的に取組むことができます。また、その予想をグループで検討していくことで、筋道立てて考える力を育て、深い学びにつなげていきます。
⑤授業の流れ
◯写真内に渡り鳥が何羽いるか数える
最初に出す写真は数えられる程度のものです。その後、数えられないくらいたくさんの渡り鳥が写っているものを出し「この湖には例年500羽来るらしい」と伝えます。ここでのねらいは、ぴったし500羽なのかという疑問を抱かせ、これが概数であることや、「渡り鳥」という実際の数を把握することが難しいために概数で代用していることを理解させます。
◯百の位までの概数で表すとき、500になる範囲を確認する
500という数値が概数であることを理解した子どもたちに、実際にはどれくらいの数の渡り鳥がいたのか興味を抱かせます。「例えば599羽だと約500羽と言えるかな」などと問いかけ、関心が「500になる範囲」に向くようにします。「では550は?」「450は?」と聞きながら、感覚としてもっているものを学習として「以上」「以下」「未満」といった用語を使って百の位までの概数で表すときの範囲を整理していきます。
◯学校の全児童生徒数を班で考える(学び合い)
身近な「学校の全児童生徒数」を考える活動を通して、概数を日常生活に生かしたり、日常生活の中で使われている数値を概数として捉えたりできるようにします。
これも、「真の値を把握することが難しく、概数で代用する場合」であることを確認し、学校全体のクラス数や一番人数が少ないクラス、一番多いクラスを伝えます。例えば900人と予想した場合、その概数が表す範囲850人以上950人未満(949人以下)が答えの範囲とします。つまり、ピッタリ当てることを目標とせず、その範囲に実際の人数がくればいいのです。
子どもたちは班で話し合いながら「特別支援学級をまとめて1クラスとして考え、36クラスにしました。30人以上のクラスもありますが、30人以下のクラスもあるため、1クラスを約30人として、30人×36クラス=1080人→約1100人と考えました。」のように予想を立てます。
◯各班の考えを共有し、その概数の範囲を確認する
各班の予想を発表させながら「四捨五入して1100になる範囲はどこでしょうか?」と、「以上」「以下」「未満」の用語を使って確認していきます。
最後に、現在の児童生徒数を伝え、概数で考えてもおおよその人数を知ることができることを実感させながら、概数の範囲についてまとめていきます。
実践を終えて
・子どもたちにとって身近な児童生徒数の予想や答えの範囲を協働的に考える活動は、概数の数理的処理を主体的に行う有効な手段となりました。1100人(1050人以上1150人未満)と予想したグループが3つ、1200人(1150人以上1250人未満)と予想したグループが2つでした。実際の人数は1149人で、かなり近い値を出したことから、「概数で考えてもおおよその人数を知ることができる」と実感したことと思います。
・渡り鳥500羽から、「概数の範囲を考える」という本時のねらいに自然に導くためには「ぴったり500羽なのか」という疑問を抱かせることが大切です。ここで、実際には把握が難しい数で、概数には範囲があることに気付かせる必要があります。
・大問が2つあり、時間配分が難しいです。概数の範囲に着目する時間を充分に確保するためにも、児童生徒数の予測理由を発表させるのを全てのグループにさせるのではなく、いくつかのグループにするのがいいかもしれません。また、残り時間が少ない場合には、予想理由の発表はさせないという選択肢をもっておく必要もあります。
・本時では十の位を四捨五入したものの範囲を考える問題のみを扱いましたが、子どもたちは数が大きくなればなるほど、範囲を考えることにつまずく傾向があるので、百の位を四捨五入したものの範囲を考える活動を次時で扱うなどして、補う必要があります。
まとめ
日常生活に生かせる力を育むには、まず、子どもたちが普段から感覚的にもっているものを、学習に結び付けることが大切です。次に、学習で身に付けたことを、子どもたちに身近な問題に生かします。そうすることで、日常の事象を数理的に捉えることができるようになります。こうした学習を重ね、日常生活に算数で学んだことを生かそうとする子どもたちを育てていきたいです。

平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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