2024.10.30
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日常生活に生かせる力を育む算数指導「比」(第6学年)

国際数学・理科教育調査TIMSS2019によれば、小・中学校において、算数・数学の「勉強は楽しい」「得意だ」と答えた児童生徒の割合は増加していますが、日本は国際平均より下回っています。また、中学校において、「数学を勉強すると、日常生活に役立つ」「数学を使うことが含まれる職業につきたい」と答えた生徒の割合は、国際平均より下回っています。

そこで、 文部科学省は「日常生活や社会の事象、数学の事象から問題を見出し主体的に取り組む数学的活動を充実させること」などを施策として挙げています。今回は、第6学年の「比」を例に、日常生活に生かせる力を育む算数指導について考えていきたいと思います。

東京都品川区立学校 平野 正隆

はじめに

算数を学ぶ意義は、①基礎的な知識・技能を身に付ける②数学的な考え方を養う③問題解決・活用する態度を育成するーーといったことが挙げられます。

③の「活用する」とは、算数で学んだことを日常生活に生かすことや、既習事項を生かして新たな知識や技能を獲得することを指します。

小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編にも「適切に用いる」「活用する」といった記述が目立ちます。また、例えば第6学年の数学的活動の一文に「日常の事象を数理的に捉え問題を見いだして解決し,解決過程を振り返り,結果や方法を改善したり,日常生活等に生かしたりする活動」との記載があるように、数学的活動を通して、どの学年にも発達段階に応じた日常生活に生かす力の育成が求められています。

本実践の第6学年「比」の学習では、日常生活で比が用いられる場面を思い起こしたり、既習の「割合(第5学年)」と統合的に考えたり、未習の学習で活用したりして、生かす力を育成していくことが考えられます。

なぜ「比」を学習するのか

5年生までに、2つの数量を比べる際、比較量が基準量のどれだけにあたるのかを表したものを割合として表すことを学習してきました。しかし、日常生活の中では、基準量を1として考えるよりも、2量を整数の組み合わせで捉える方がよい場面があります。つまり「比」を学ぶ理由は、2量の数量関係を捉えやすくしたり、処理しやすくしたりするためです。

そのうえで、この単元では以下のようなねらいがあります。

①比の意味や表し方を理解する。
②図や式などを用いて数量の関係の比べ方を考え、それを日常生活に生かす。
③日常の事象を、目的に応じて比で捉えることやその処理のよさを感じて、それらを学習や生活に生かそうとする態度を養う。

日常生活で比が用いられる場面を考える

子どもたちと考えたところ、日常生活で「A:B」「A対B」という表記で比が用いられているものには、以下のようなものがありました。

・めんつゆを水で割る比率
・ミルクティーをつくる際の紅茶と牛乳の比率
・地図の縮尺率
・キャラクターを描く際の頭と身体の比率(二頭身、三頭身など)
・プレゼンテーションソフトのスライドサイズ
・プロジェクターの画面サイズ
・地球から太陽までの距離と、地球から月までの距離の比率(400対1)

日常生活の中でも比が用いられることが様々な場面にあることが分かりました。

比を割合と統合的に考える

子どもたちが出した意見の中には「◯倍希釈」のような表記もありました。これは「比」として考えていいのかという議論にも発展しました。

「◯倍は比ではないと思う」
「でも、◯倍は◯:1の比の値としてみれば良いかもしれない」
「だったら◯倍じゃなくて◯:1と書くべきじゃないかな」
「◯倍は割合だと思う」
「割合と比は似ている。割合は片方を1として見ていて、比はいろんな見方がある感じ」

割合と比を統合的に考えることができました。

比を未習の学習に活用する

「拡大図・縮図」では、対応する角の大きさが等しく、対応する辺の長さの比が等しいことを学びます。いくつかの図形があり、それが全て長方形だった場合、角の大きさは全て90°で等しいですが、対応する辺の長さの比が等しいとは言い切れないため、長方形同士は拡大図・縮図の関係ではありません。全てひし形だった場合、辺の長さの比は等しくなりますが、対応する角の大きさご等しいとは言い切れないため、ひし形同士は拡大図・縮図の関係ではありません。全て正方形だった場合、対応する角の大きさが等しく、対応する辺の長さの比が等しいことから、正方形同士は拡大図・縮図の関係にあると言えます。

このように、比を活用して他の新たな学びに生かすことができるのです。

まとめ

日常生活で比が活用されている場面を想起したり、具体的な場面を通して比の意味を理解し、扱い方に慣れたりしていくことが重要です。また、既習の内容と統合的に考えたり、他の学習や生活に活用したりすることで、数学的活動を通した活用力の育成が望めることと思います。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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