初任の先生からの質問~「NO」と言える教育を!(NO.9)
この連載の6回目初任の先生からの質問「人との距離感を探ること!」で、人との距離感のお話をしました。実は少し前に、私と子どもたちとの距離が近すぎるばかりに、ちょっとしたトラブルが起きました。フレンドリーで人懐っこさがあるのが魅力な子どもたちですが、垣根を越えて物を言うことがあったのです。彼らに何を教えればいいのか、今後どのように関わっていけばいいのか、教育の原点を考えさせられるできごとでした。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
価値観が多様化し、私が子どものころのような躾が古いものと感じられることがあります。また、教育の現場でも、教師が厳しく叱ることが果たしていいのだろうかと不安に思うこともあります。
長年教師をしている私でさえ揺らぐことがあるのですから、若い先生たちが子どもたちへの対応に迷うことはたくさんあるでしょう。ただ、対応の仕方に「正解」もないのです。その基準を一緒に考えていただけたらうれしいです。
Q 優しく言い聞かせても効果がないときに、叱ってもいいのかどうか・・・
A 「NO」と言うこともときには大事です!
以前、自分の考えが通らないときに、大声で叫んだり泣いたりする子どもを担任したことがありました。私も周りの教師も、子どもの表現の激しさに、どのように対応すべきかを四六時中考えさせられました。そして、試行錯誤の上で出した答えは、「ダメなことをNOと言い切る」というものでした。
あるとき、その子が給食の配膳をしていた際、とても時間がかかったことがありました。理由は、友達によっておかずの量を変えたり、内容を吟味したりしていたからです。「○○さん、そういうやり方をしていると時間がかかるので、やめましょう」と数回声をかけましたが、全く言うことを聞きません。限られた給食の時間はどんどん減っていくのに、配膳のために並ぶ子どもたちの列は一向に短くならなかったのです。
それで私も堪忍袋の緒が切れてしまい、「今日の配膳は別の友達にやってもらいましょう」と伝えました。すると予想した通り、大声で叫んで拒否しました。埒が明かないので、手を引いて配膳をやめさせることにしました。そこからが修羅場で、泣き叫んだり暴れたりされました。
私は今でも、その子と出会ったことは、教師人生の中の宝だと思っています。ダメなことに「NO」を突きつけることが、教師の仕事だとはっきり分かったからです。
残念なことに、「NO」と出す基準もありません。だから、「NO」と言い切るには勇気が要るのです。でも、「こんなことを言ったら子どもに嫌われないだろうか」とか、「保護者や同僚から、何か言われないだろうか」と悩むことなく、「NO」を出せる教師になってください。優柔不断で八方美人を装うより、最終的には信頼を得られると思っています。
ただ、「NO」と言い切ったあとは、平静を保つようにしましょう。表現の仕方に「NO」と言ったにすぎず、相手の存在に言ったわけではないことを知らせる必要があります。そして、良い表現をしたら即座に褒めることを忘れないでください。「このようにすべき」といった指示するような表現でなくても、例えば喧嘩の仲裁に入ると「謝りなさい」という圧力をかけてしまうことはよくあります。しかし、謝ることでさえ、本人の決断なしにやるべきではありません。自ら考え、決断し、表現しようとする力を育てていかなければならないのです。
Q 子どもたちにアドバイスするときの基準はありますか・・・
A 相手の思いや立場を尊重すること・・・
人は誰でも異なった存在です。見た目だけではなく、価値観も表現の基準も全て違うのです。「こうしたらいいと思うよ」というアドバイスがうれしいと思う相手もいれば、放っておいてほしいと思う相手もいるのです。
そうであっても、何か基準をというならば、ぜひ次のことを心に置いておいてください。「自分の言動が、相手の自由な決断に干渉しない」ということです。
「このようにすべき」といった指示するような表現でなくても、例えば喧嘩の仲裁に入ると「謝りなさい」という圧力をかけてしまうことはよくあります。しかし、謝ることでさえ、本人の決断なしにやるべきではありません。自ら考え、決断し、表現しようとする力を育てていかなければならないのです。
もちろん、この考え方が、全ての場面に当てはまるとは限りません。学校というのは教育の場でもあるので、「こういったときには、謝って解決するといいよ」という指導も必要です。時と場合に応じて、あるいは子どもの個性に応じて、声をかけたりアドバイスしたり、指導したりすることはとても難しいものです。経験を積んで、教師自身も成功例を積み重ねていってほしいと思います。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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