2024.06.04
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初任の先生からの質問「心に残る話し方の工夫を!」(NO.5)

私は今年度も算数を担当しています。
4〜6年生は昨年度から引き続いているので、私も子どもたちもお互いを知り、関わり方のコツを掴みつつあるのですが、3年生とは初対面です。
しかも、勤務校では低学年には算数担当がいないため、習熟度別クラスでの授業は3年生から始まります。

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

3年生にとっては、新しい担任やクラス替えによる新しい友達との関係を築くばかりではなく、生活科がなくなって理科や社会、総合的な学習の時間が加わったり英語の授業が増えたりと、余裕のない日々が続きます。加えて、3年生の1学期というのはまだまだ幼さが残っています。そんな子どもたちと、算数で出会うというのは、私にとっても試練だなと感じながら授業をしています。

そんな中で特に戸惑うのは、私の声は子どもたちに届いているのだろうか、話の内容が伝わっているのだろうか、意図を理解してもらっているのだろうかということです。それは、初任であってもベテランと呼ばれるようになっても変わらぬ悩みなのかもしれません。

今回は、自分自身を振り返りつつ、子どもたちに届く話し方のコツを考えてみたいと思います。

Q 子どもたちに一生懸命に話すのですが、通じているのかどうか……

A 子どもたちのイメージしやすい話し方を考えて!

私たち大人であっても、説明のような淡々とした話を長い時間にわたって聞き続けるのは難しいものです。集中が途切れて聞き逃したり、内容を掴みきれなかったりするうちに、話が進んでいってしまいがちだからです。ですから、いくら丁寧な言葉で熱心に語ったとしても、話し方によっては、子どもたちの心に残るものが少なくなってしまう危険性があるのです。

新学期にありがちな話題を例にして、どのように話すと子どもの心に届くのかを、考えてみましょう。

例 「教科書を大切に使ってほしいと思ったとき」のA・Bの話し方

A「教科書の裏表紙にも書いてある通り、これは皆さんに無償で提供されています。おうちの方と確認して、名前を書いてきてください。半年間、あるいは2年間にわたって使うので、大事にしてください」

B「教科書を作るためには、用紙やインクを準備して印刷する以前に、編集のためにも、配送のためにも膨大なお金が動いています。そのために使われるお金は、どこからきているか分かりますか。皆さんには見えないところで、多くの税金などが動いているのです。その結果として、皆さんに届けるときには無償ということになっているのです。ですから、裏表紙に書かれていることをおうちの方と一緒に読んでその思いを理解し、ぜひ丁寧に扱ってください」

Aのような説明を間違っているとはいえませんが、Bの話し方は子どもたちの頭の中にイメージを描いていくのがお分かりいただけると思います。無償とはいえ、教科書が魔法のようにポンと出現するわけではないのです。用紙やインク、印刷、編集、印刷といった言葉から、子どもたちは多くの人の力によって教科書が作られていることに気づくことができるでしょう。言葉だけの説明ではなく、そこに心の動きがあるのです。

子どもたちに話すときには、心が動くような、イメージできるような話し方を工夫していってほしいと思います。

Q 子どもたちのおしゃべりが止まらないので、自分の声が大きくなっていきます……

A 大声を出すのではなく、工夫を考えて!

穏やかな雰囲気の中で授業が進んでいってほしいと願っても、思うようにいかないものです。「教師が話す、子どもたちが反応する、また話す、反応する」という流れができているとき、「呼吸が合っている」と感じます。ですが、子どもたちの反応が長すぎたり盛り上がってしまったりして、流れを作るのが困難だと感じることも多々あります。

まず、「先生や友達が話す間は、おしゃべりしません」と約束してください。叱りつけるように伝えるのではなく、相手を大事にすることが大切であることを強調してほしいと思います。「相手を大事にすることは、自分が大事にされることにつながる」ということに気づかせていってほしいのです。

それから、聞くことをゲームにしてしまうのも効果があります。「声が音のように流れているのを聞いている」というのと、「話を聞き取っている」というのは聞き方が違うのです。「1メートル80円のリボンがあります」という短文を、文字を見せずに復唱させてみるのも聞く力を伸ばす手法になります。

それでも聞こうとする姿勢ができない場合には、文字で伝えるのもいいと思います。私は、黒板に書いて伝えるやり方をとっていますが、同僚は声が出にくくなったときに、テレビに伝えたいことを文字にして映していました。

「声が出にくかったけど、おかげで子どもたちは静かにしていました」という感想を聞くことができました。パソコンやタブレットをテレビやスクリーンに映し出すことができる環境にあるならば、文字を打ち込んで伝えるというのも便利なやり方だと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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